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#48 ICTフル活用で広がる思考-個別最適と協働的な学びを融合した理科授業の実践-
1 はじめに
今、教育現場は大きな変革の時期を迎えています。ICT(情報通信技術)は、単なるツールではなく、未来の学びを形作る重要な要素となりつつあります。
今回は、小学校第4学年の理科で「月と星の位置の変化」を学ぶ授業を、ICTを活用して行いました。生成AIや意見可視化アプリを使い、個別最適な学びと協働的な学びを両立させることができました。児童一人一人が主体的に考え、未来に向けた学びの可能性を広げる姿が見られました。この授業の内容と成果をご紹介いたします。
2 ICTをフル活用した未来型授業
2-1 意見や考えを可視化した協働学習
授業の初めに、児童たちは教科書に掲載されている2枚の半月の写真を見て、それぞれの半月の位置に関する気付きや考えを「ふきだしくん」に入力しました。
このアプリは、各児童の意見(気付きや考え)をリアルタイムで集約・表示し、他の児童の意見も瞬時に可視化します。ICTのメリットは、クラス全員の意見を即座に集約できる点です。これにより、児童同士が互いの意見を尊重し、協働的な学びが自然に進行する環境が整います。通常の紙媒体では成し得ないスピード感と視覚的なインパクトで、児童はクラス全体の意見を瞬時に把握し、思考を深めていきます。
2-2 生成AI(ChatGPT)を活用した思考の整理
次に、児童たちが入力した意見をスクリーンショットで保存し、その画像をもとにChatGPTが瞬時に分類しました(図1・2)。
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分類された意見を基に、ふきだしを3色に色分けしました(図3)。これは単なる整理作業ではなく、児童にとって新しい発見の機会です。自分の意見がどのように分類され、他者の意見とどのように関連しているかを視覚的に理解することで、思考の整理と同時に新たな発見を促す効果があります。
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また、児童たちはこのプロセスを通じて、AIを学びを支えるパートナーとして捉えるようになりました。リアルタイムで得られるフィードバックが、学びの枠を超えた深い効果を生み出します。
2-3 予想力×協働力=問題解決へのアプローチ
生成AIによる分類を参考にした後、児童たちは「なぜ半月の位置が変わったのか?」という問いに対して自ら学習問題(仮説)を立て、「Forms」に投稿しました(図4)。
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ここでもICTの利点が活かされました。全児童が自分の意見を瞬時に共有し、他者の意見に触れることができます。Formsで集められたデータは、テキストマイニングで分析され、全員の考えが可視化されました(図5・6)。これにより、クラス全体で協働しながら問題解決に取り組むことが可能になり、協働的な学びがさらに深まりました。
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上記のワードクラウドと共起キーワードを基に、児童たちは意見を出し合いながら、次回の学習問題を作成しました。
児童が作成した学習問題
「時間がたつと、半月の位置はどのように変わるのだろうか?」
ワードクラウド
スコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで図示しています。 単語の色は品詞の種類で異なっており、青色が名詞、赤色が動詞、緑色が形容詞、灰色が感動詞を表しています。
共起キーワード(共起ネットワーク)
文章中に出現する単語の出現パターンが似たものを線で結んだ図です。出現数が多い語ほど大きく、また共起の程度は強い方から順に 太い実線 > 細い実線 > 破線 で描画されます。
3 ICTならではのメリット
今回の授業でICTを活用した最大のメリットは、学びのスピードと広がりです。ICTは、児童一人一人の学びをサポートしながら、全体の協働をも促進します。例えば、「ふきだしくん」による意見の可視化、生成AIによる即時フィードバック、Formsを使った瞬時のデータ収集は、全員がリアルタイムで同じ学びのプロセスを共有することを可能にしました。個別最適な学びと協働的な学びが共存する場を創り出すことで、児童たちはそれぞれのペースで学びながら、他者と共に成長していく姿が見られました。
4 おわりに
ICTを活用したこの授業は、未来の教育に向けた一つの大きなステップとなりました。個別最適な学びと協働的な学びがICTの力で融合し、児童たちが主体的に問題解決に取り組む姿勢を育むことができました。今後も、ICTの可能性をさらに探求しながら、教育の質を向上させたいと考えています。この革新的な授業スタイルが、多くの教員に新たなインスピレーションを与えることを願っています。
今後も授業改善や働き方改革に向けて、効果的な活用方法を模索していきたいと思います。
子どもたちの深い学びの実現、教員の働き方改革の推進に向けて、ともに頑張りましょう。