「人生会議」のポスターは、ゴール達成をどう考えていたの?
先日、炎上問題として話題になった、小籔千豊さんを起用した厚労省の「人生会議」のポスター問題。いろんな意見がネット上でも登場したのですが、私の頭をよぎったのは「このポスターの制作サイドは、活動のゴール(=実現したいこと)達成に必要な要件」についてどう考えていたのかということなのです。
この事件、各メディアの報道によれば、厚労省が推進していた「ACP(アドバンス・ケア・プランニング=もしもの時に本人が望む医療やケアの方法を家族などと共有するとりくみ)」の啓発がなかなか進まない中で、ACPの名称を「人生会議」という愛称にし、その浸透に取り組んでいた矢先の出来事だったようです。
この背景からすると、人生会議のポスターの活動ゴールって「自分が望む医療・ケアについて、きちんと判断できる段階で、人生会議をしてもらう」という行動の獲得だと思います。ただこれって「元気・病気の心配のない人」に”会議”をしてもらうってことですよね?※体調が悪かったり、病床にいる人に「人生会議しませんか」と提案すること=終末ケアを考えること=縁起でもない話になるので、とても提案できないですし。
私は仕事柄、企業の方から、元気な中高年の方に「将来の病気のリスク」を感じてもらい、行動を起こしたいと思わせてほしい(その企業の商品・サービスを買いたいと思わせてほしい)という依頼をよく受けますが、これが、まあ難しいわけです。そもそもが「リスク=自分にとって不愉快な情報」なわけで、基本的には聞く耳を持ちたくない。なので例えば「●●は、男女ともに”将来的には全体の4分の3の人”がなる症状・病気なのです」といった話をもちかけても「私は4分の1に入るかもしれない」「そんな先のことは考えても仕方ない」「今まで幸せに生きたから、その時は病気になってもいい」という反応で、まあ話を聞いてくれないわけです。
そんな状況の中で、どうしたら動いてもらえるのかということを私は日々考える仕事をしており、長年の経験の中でいくつか「動かすためのルール・法則」みたいなものがあります。その1つが「人(特に日本人?)は、自分のためでなく、自分が大切な人(が損をしない・幸せになる)ためには動く」ということです。
例えば以前私が担当した「認知症関連」のサービスで中高年男女へのインタビューをした際に「100年時代の今、みんなが認知症になるリスクがあるので、今から私たちのサービスを使ってください」といっても、誰の心も動きません。「そんな先のことはわからない」「私はならないかもしれない」と相手にしてくれないのです。そのような状況の中、いくつかの情報を与えたのですが、最もヒットしたのは「認知症は判断力が落ち、自分の銀行口座からお金の出し入れができなくなる、”資産凍結”という状態に陥る」「その結果、認知症になると、そのケアでかかるコストをあなたの子供が負担するリスクがある」というものだったのです。
今回の「人生会議」問題、ある境遇にある方たちの気持ちを傷つけたことが取りざたされていますが、ゴールである「まだ元気な人に会議をしてもらう」の達成効果はどうなのか。そしてそのゴール達成には、どんなアプローチがよかったのでしょう?あるウェブの記事で「海外の調査では、人生会議をしておくと亡くなった後の遺族の悲しみ・憂鬱が軽減されるということが明らかになっている」という記事を読みました。今回のポスターの内容は「会議開催に役立つものなのか?」「上記の調査結果のような情報の方が、より役立つのだろうか?」などなど、私にとってはマーケティングゴール達成という観点でも、気になる話題だったのです。
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