6回目の夏。去り際は笑顔の方がカッコイイ。【拗らせ男子の革命日記】20210713

今年も今日がやってきた。
7月13日。
僕の大好きな祖父が亡くなって今年で6年目に入る。
先週土曜のカフェで祖父の命日が近いからその週にお墓参りをしようと予定を入れているのだが、肝心な今日を忘れていた。
5月に転職して以来、慣れない細かな仕事と通勤ラッシュに呑まれて忙殺されていた。
帰宅ラッシュの際、ふとスマホでSNSを開くと昨年の今日の日記が表示されて、今年で6回目の夏を迎えたのだと思い出した。

6年前の夏は蝉が鳴き出した清々しい青空の1日だった。
6年前の7月12日、兄弟で祖父が入院する病院のICUに向かい対面した時は、呼吸器をつけて苦しそうにしながらも、僕ら兄弟を見ると笑顔で起きあがろうとしていた。
残り少ない命と体力を振り絞り、祖父は笑顔だった。
次は日本史の高杉晋作について話そうな。と約束をして兄弟2人病院から出ると「もう今週くらいかも。長くないな。」と話をして、互いに帰路についた。(当時僕は病院から5駅目のところに1人暮らしをしていた。)

翌朝、スマホのバイブレーションに不機嫌な顔で気づくと弟からだった。
電話に出ると、危篤だという内容だった。
すぐに着替えて、家から最寄り駅まで走り、2分でつき(最寄り駅まで歩いて5分)5時台の地下鉄に乗り込んだ。

「もう、最期に間に合わないかもしれない。」

そんなことを頭の中でよぎった。Tシャツの中は冷たかった。

病院の最寄り駅に着き、そこから夢中になって走った。駅から病院まで徒歩で15分前後。
階段を3段飛ばしで駆け上り、地上へ出ると光が差し青々とした空、夏の朝間もない湿度はさほどない風と蝉が鳴き出しているのを感じた。

猛烈に走った。

もう1人の僕が幹線道路を車で走り、歩道を走る僕の姿をカメラで捉えていた。街路樹が時折走る僕を遮っている。そんな映像が脳裏に浮かんだ。

今まで生きていた中で一番本気で力一杯走っていた。

一度転けた。

右膝が痛い。赤くなっていたのは後で気づいた。

病院に着くと1Fのエレベーターホールに両親、叔母2人、祖母がいた。
弟の姿が見えない。叔母曰く、弟はドリンクを買いに行ったらしい。
焦燥感と呼吸が乱れて言葉にならない言葉で叔母にまだ生きているのかと尋ねると、生きていると言っていた。

叔母と僕は祖父のいる病室に入った。
叔母は言った。

「誰が声をかけても反応してくれないの。」

僕の呼吸は乱れたままだったが、無我夢中で祖父の耳元で叫んだ。
朝のICUで大声で叫ぶのは最初で最後だ。
「まだ僕との約束を果たしていない。高杉晋作について話そうと約束したやんか。」
走っている時のような呼吸と声でうるさく感じたのか、目を覚まし、天井を見上げた。
祖父の右側に叔母が立ち、反対側に僕がいた。
右に視線がいくが、無表情。左に視線がいき僕と目が合った時に、満面のえみを浮かべた。

気づくと周りに家族がいた。

祖父は満面の笑みで、口をぱくぱくと動かし出した。

僕は祖父の口元に右耳を近づけた。

言葉にならない声。
今も何を話してくれたのかわからない。

僕は歯を食いしばり、うんうん頷き「分かった。」というと、笑顔で天井に視線を戻して瞼を閉じ、事切れた。

母は祖父の足元で膝を崩して泣いていた。

弟は病室のドアで立ち尽くしていた。

僕は歯を食いしばっていた。

永遠の眠りについた祖父を病院で待っていたが、時間が重く長かった。
空気が重く外の空気を吸いに出たら清々しい青空が見えた。
不謹慎かもしれないが、僕はその空があまりに美しく見えたからスマホでシャッターを切った。
祖父と病院から家に帰るときにすれ違う他人の視線は『死』を忌み嫌っていた。

『死』とは忌み嫌うものなのか?

その日は会社を休み、夜まで祖父のそばにいた。
気づいたら昼寝をしていた。

何もできることはなく、地下鉄で自分の家に帰った。
8畳のワンルームに1人になって無性に友に電話をしたくなった。
昨日、神戸の湊川神社で祖父の回復祈願と御影石にお願いをしたのに。
何で。何で。何で。と。電話で号泣して叫んでいた。

泣きすぎたからか、その後に「笑顔」になった。

『おじいちゃんが僕に満面の笑顔を向けて、旅立ったのだから、僕は笑顔で見送ろう。もう泣かない。』

そう誓って、祖父へ手紙をしたためた。

通夜には僕が好きなミドリジンジャーエールのカクテルを作り、布で口元にあげた。

そして、僕は最後におじいちゃんに笑顔で『いってらっしゃい。』と見送った。




僕はあの日を忘れない。

毎年この日になると『笑顔』、『死』というキーワード、祖父が最期僕に何を託したのか、言葉を考えさせられる。

6回目の夏。

いまだ答えもない。

6回目の夏。

僕は6回前と何か変わったのだろうか。




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