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教#057|制作する時は孤独でも、世界をshareできる誰かと繋がっていることは必須~ブルーピリオドを読んで㉘(たかやんnote)

 新聞に佐藤優さんのインタビュー記事が掲載されていました。少し前までは、学者や政治家に会って意見を交換したり、編集者と打ち合わせをしたり、週末は京都の大学に行って講義をしたりして、毎日、どこかに出かける生活をしていたそうです。が、新型コロナウィルスの感染が広がって以降は、持病もあって、感染したら命の危険があると懸念しているので、外にはほとんど出てないと語っています。佐藤さんの場合、外出できないこと自体には、ストレスはないそうです。それは、512日間、拘置所に「国策捜査」で、収用されていた時、自己との向き合い方を学習し、訓練したからです。

 宮本輝さんが、旭日小綬賞を受けた時、「パニック障害になって電車に乗れなくなったので、自宅に引きこもっていてもできる小説家を目指した」と、インタビューで語っていました。「涙の河」でデビューして、「蛍川」で芥川賞を取ったあと、結核で療養。当然ですが、引きこもったり、療養したりしている時は、自己と向き合うことになります。

 自己に向き合わない限り、creativeな作品を制作することはできません。誰かと協力、協同して制作するアートも存在します。映画、演劇、音楽などは、一応、そうだと言えます。が、脚本を書いたり、監督や演出家が絵コンテを描いて、展開のプランを考えたり、作曲や作詞をする時は、自己と向き合って、一人で黙々と作業をしている筈です。creativeな何かを生み出すのは、孤独な魂だと云う大前提は、容易には動かせないような気がします。

 高橋世田介くんは、高3の夏期講習の最後のコンクールが終了した時点で、「受験絵画を押しつけられたくない」と言って、画塾をリタイアします。画塾の指導は、高3の2学期以降が、大サビです。中学受験で言えば、志望校対策講座のようなものが始まります。中学受験の大手塾は、例年、合格者数の3倍程度の定員で、志望校対策講座のクラスを編成します。志望校には、この講座に入れないと、まず、合格しません。で、志望校対策講座の3分の1程度の生徒が、合格します。志望校対策講座の生徒の中には、記念受験は、一人もいませんが、3分の2は落ちます。画塾でも、おそらく似たような仕組みで、志望校対策講座が編成されます。志望校対策講座の生徒として選ばれることが、合格するための必要条件のようなものなのに、高橋くんは、それを完全に無視し、その後は、独学で絵を学び続け、東京芸大に現役で合格します。芸大は、アートなので、これは可能です。中学受験では、親が塾の代替ができるくらい優秀であれば(佐藤三兄弟のママみたいに)塾に行かなくても、合格できますが、小学生が独学で合格することは無理です。中学受験は、独学では、絶対に合格しません。

「中学受験は親が9割」と云ったタイトルの受験マニュアル本を、よく見かけます。親が9割、子供が1割、まあさすがに、これはないです。これでは子供は、自己のモチベーションを保てません。親5子供5、親4子供6、親6子供4、この3パターンが、合格ゾーンだと判定できます。

 高橋くんの場合も、親の協力はあります。親の理解と協力があってこそ、無事、合格します。高橋くんの場合、親1子供9くらいです(大学ですしアートですから、そこは中学受験とはかなり様子が違います)。

 ところで、大学受験の場合、親がマイナス要因で、抵抗勢力になる場合は、かなりあります。ユカの場合が、典型ですが、通常のMARCH受験などの場合も、親がマイナス要因だと(マイナス要因の親と云うのは、受験を知らないのにあれこれと口を出し押しつけたり、どうせ受からないとか、あんたは勉強できないとか、実力ないんだから指定校で行きなさいなどと、平気で言ってしまう無神経な親のことです。中堅校だって、こういう親は、枚挙にいとまないほど、沢山います)確実に二ランク以上、合格する大学のレベルは、下がってしまいます。

 画塾にまったく行かないで、合格すると云うのも、正直、難しいと思います。世界のbig nameの画家たちの多くは、正規のアカデミックな美術教育は受けてません。ちゃんと受けたのはドガとピカソくらいです。アカデミックな美術教育を受けてしまうと、真のcreativeなアーティストには成れない、いや成りぬくいと云った面は、まあ、あると思います。ただ、絵を描く人は、アカデミックな学校ではなくても、絵を描くための最低限の基礎くらいは、どこかの画塾で学んでいます。まったくのゼロから、独学ですべてを構築することは、無理です。あと、人との出会いも必要です。たとえ、制作する時は、一人ぼっちでも、アートの世界をshareできる仲間の誰かと繋がっていることは、必須です。で、ないとアートを信じ切れなくなります。

 ゴッホは限りなく孤独な人ですが、ゴッホを全面的に信頼しているテオと云う画商の弟がいました。テオは、兄の才能を信じていました。何よりも兄を深く愛していました。ゴッホが自殺した時、テオが母親に書いた手紙を引用します。
「この悲しみをどう書いたらいいか、わかりません。何処に慰めを見付けたらいいか、わかりません。この悲しみは続くでしょう。私の生きている限り、きっと忘れることが出来ますまい。唯一言えることは、彼は、彼が望んでいた休息を、今は得たという事です。人生の荷物は、彼にはあんまり重かった。しかし、よくある事だが、今になって皆彼の才能を褒め上げているのです。ああ、お母さん、実に大事な、大事な兄貴だったのです」

 最愛の兄に死なれてしまって、その重荷に耐えきれず、テオはまもなく発狂し、ゴッホが死んだ半年後に、精神病院でテオも死にます。

 二人の人生は、まあ一般的には、不幸なものだったと言えると思いますが、テオに信頼されていたゴッホのアルルの作品には、生命力とエネルギーがあります。

 高橋くんが、今後、アーティストとして大成するためには、自分を理解し、信頼してくれるsomeoneが必要です。そのsomeoneが、つまり八虎だと云う構図だと読み取れます。八虎は努力の人です。あと周囲の影響も受け、周囲の人とのコミュニケーションのキャッチボールも続けながら、自己の作品の質を高めて行きます。油絵のプロにはなれないと思いますが、アートの世界で、プロデューサー的ないい仕事はできると推定できます。八虎の両親は、いい人です。明らかに両親に守られています。八虎の場合、親4八虎6くらいの割合かもしれません。ユカは、両親には守られてません。親との関係で言えば、親0ユカ10です。が、それでは人間に対する信頼感は、構築できません。おばあちゃんには愛されています。親の場合より、いろいろとレベルは下がりますが、愛してくれる人がいれば、やはりどこかで救われます。割合は、おばあちゃん2ユカ8くらいです。ユカは、洋服のデザイナーとして、大成すると想像できます。

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