公#9「ヨルシカのmy favoriteは、『ヒッチコック』です。『先生人生相談です』と生徒に質問されたら、生成AIよりは、気きいたことを言わないと、負けかなと、一応、今のとこは、まだ思ってます」

              「公共9」

 アーティストはEMINEM。曲名は「Lose yourself」。セリフはOne opportunity comes once in a life time. 絵は、男の眉間にライフルの照準が当たっているイラスト。実弾だと、間違いなく銃弾は眉間を射貫き、同時に頭の半分はふっ飛ぶ。曲名の「Lose your self」は、この状態から脱出しろという意味だと推定できる。が、逆にこの男の方が、ライフルの照準を当てているスナイパーだと、考えることも可能。別段、実弾を使う必要はない。「レオン」だって、練習用の赤インクとかを、実弾の代わりに使ってたりした。
 セリフは、One opportunity comes once in a time.だから、人生のたった一回のこのチャンスを逃さず、自己の目標、目的を達成しろと、ごく普通の処世訓だと、考えた方が、自然だと思う。
 古稀間近の私は、自信を持って主張するが、何かにchallengeするためのchanceは、人生で、たった一回ではない。選択の機会は、仕事とか、恋愛、人との邂逅、住むべき場所、など、さまざまな分野があるが、どれも人生で三回くらいはchanceが巡って来る。別の言い方をすると、人の人生は、それぞれの分野の三択の組み合わせで、トータルのデザインが決定する。生涯の伴侶との出会いも、確実に三回はやって来る。仕事もそう。が、四回目はないかもしれない。三回目までは待てるが、四回目が待てるほど、人の人生は、長くはない。
 アーティスト名は、ヨルシカ。曲名は「ヒッチコック」。セリフは「大人になりたくない」。この曲は、私が、「『負け犬にアンコールはいらない』のアルバムの中では、一番好きです」と前説をして授業で流した。生徒が、「So do I.」と、同意してくれたことは、やっぱり嬉しかった。
 が、嬉しかったから、すぐれた絵として選んだわけでは、もちろない。アーティスト名とか曲名などの下段の情報は見ないで、絵だけを見て、すぐれた絵を選んでいる。マンガとかアニメとかではよく見るが、スカート丈がjustだと感じた。これ以上、短くても長くても、ダサくなる。ソックスは、今どき珍しいハイソックス。つまり、絶対領域をバランス良く見せている。こういうバランス感覚は、どういう分野でも生かせる。私は、絶対領域のバランスの良さを、アニメやマンガを見て、学習したわけではない。音楽のバランスの良さを、35年間のバンドの顧問時代、追求し続けた。音楽のバランスの良さの追求は、すべての分野に関して生かせる。教師として、どれくらい厳しくするか、同時にどこまでゆるくくだけるか、これだって、バランス感覚を発揮して、実践しなければいけない。
「大人になりたくない」というセリフは、判らなくもないが、別段、意識して大人にならなくても、ガキのままのheartでも、充分、世の中は渡って行ける。倫理とかモラルとかは、だいたいにおいて、大人よりboy & girlたちの方がすぐれている。
 アーティスト名はスピッツ。曲名は「まほうのことば」。セリフは「ジョンスミス・・・はっ!!」。絵もセリフも、まったくイミフ。左側にジョンスミスの吹き出しのついたboyが立っている。右側はお母さんなのか、girlなのか判らない女性が「はっ!!」っと驚いている。女性の髪が長いので、お母さんではなく、もしかして恋人(?)。この二人が、恋人同士だと、間違いなく、すべての人に祝福される。いかなる不安感も抱かさない、なごやかで、牧歌的なキャラだと言える。下手の空にドーナツが飛んでいる。ドーナツではなく、UFOかもしれない。下の方に、身体が米粒なのか、卵なのか判別できない三人が描かれていて、横に「?」がついている。何から何まで、訳分かんない感じだが、こういう不要不急の無意味も、個人的にはありだと思ってる。
 アーティスト名は、大森やす子。曲名は「絶対彼女」。セリフは「女の子は強い」。女の子が強いのは、それは良く判る。学校の文化祭や体育祭といった行事は、一応、男の子がMCをやったり、応援団長をやったりしているが、裏で全部、女の子が、取り仕切っている。男子がリーダーシップを取っている高校は、もう都立にも、地方の公立にもprobablyないと想像できる。
 絶対彼女、つまりステュアート朝やブルボン朝、ハスブルグ家の絶対王政と同じで、絶対彼女には、absolutely、逆らえないという意味だと考えられる。
 とにかく彼女の頭の中なり、胸の内なり、心の奥なのか判らないが、女の子っぽいものが、てんこ盛りで、全力で展開している。Kawaii ぶりっこ風のワンピース。ヒールのやたらと高いシンデレラ御用達みたいな靴。花束。ラブレター。いいねのハート。修学旅行で見た洞窟のコウモリと猫がコラボしたペット。お気に入りのイチゴジュース。そこら中に転がっているオランダイチゴ。萌え袖から出ているピースマーク。お洒落な靴&靴下。シンデレラ城。嘘泣きをしているツィンテールの小さな子供。宝石。四つ葉のクローバーなどなど、全力のイラスト。このイラストの百分の一くらいしか描いてない、ちっちゃなハート一個の全力脱力イラストも、この絵のような全力ものも、得点は同じ6点。世の中、どうなってるんだと、教育委員会にねじ込まれたら、もしかした負けかも・・・みたいな。正直、これだけ描いてくれたら、とにかく乙としか言えない。
 アーティスト名は、欅坂46(けやきざか)。曲名は「不協和音」。セリフは「周りに流されないで、意志をつらぬく」。私が欅坂46のことを知らないだろうと推定して、(けやきざか)とルビを振ってくれている。まあ確かに知らない(ただ漢字はさすがに読める)。
欅坂46と乃木坂46の区別は、まったくつかない。そもそも見たことがない。ただ、新聞や雑誌は見るので、名前は知っている。
 絵は、影の人物が13、4人、上手に向かって歩いている。一応、手前が大きく、奥が小さくて、遠近法っぽくしてある。中央の白抜きの人物だけが、逆走して、下手に向かっている。多くの人が、影になっているが、逆走している彼(多分彼だと思う)は、まだ影にはなってない。逆走しないと、影に呑み込まれてしまうということかもしれない。生成AIにすべてお任せして、もう自分の頭では考えなくなった大多数の人がいて、今だにパスカルの「人間は考える葦である」の教訓を大切にして考えながら生きている人との、対比だと受け止められなくもない。取り敢えず、これは今風のシュールだと感じた。
 アーティスト名は、尾崎豊。曲名は「15の夜」。セリフは「盗んだバイクで走り出す」。北区の定時制高校に赴任した直後の4月の下旬(4月25日だったと思う)尾崎が死んだ。板橋区、北区、足立区あたりは尾崎のファンが多かった。尾崎の死んだ日の授業とか、本当にやりにくかった。「尾崎の中では、街路樹が一番好きだな」とぽつりと洩らすと
「っざけんな。街路樹じゃねぇ。ダンスホールだろう」と、後ろの座席からヤンキーな女の子の声が返って来た。32、3年前の春。さすがに懐かしい。今でも、尾崎ファンがいると知って、何かちょっとほっとした。絵も、安心できる昭和っぽい絵だった。

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