公#11「J高校時代、夏休み前の土曜日の夜、私の部活の生徒は、中庭で、バケツを使って、水のぶっかけ合いをしてました。高校生だって、こういう子供っぽい遊びも、時には必要です」

                           「公共11」

アーティスト名はソビエト連邦。曲名は「ソ連国家」。セリフは「私たちの国はすごいんだー!!」。ソ連という国は、今から32、3年前にこの地上から消滅した。アフガン戦争の失敗と、チェリノブイリの原発事故により、さまざまなことが機能しなくなり、ソ連は解体した。高校生がソ連を知るとしたら、ゴルゴ13か、007あたりから入るしか、切り口はなさそうな気がする。が、「ソ連国歌」を敢えて取り上げて、強引に絵にしてみたんだろうと推定できる。スウェットの上下のようなものを着て、うぉーと、雄叫びを上げているか、それとも、ラジオ体操のようなことをしているのかというsceneだと思う。ソ連だから、服の上下は、当然「赤」だと推定できるが、これがイヴ・クラインの青でも、ゴッホの黄色でも、ボナールのオレンジでも、何だってありだと感じた。シンプルに鉛筆で斜線を引いているが、シンプルだけに、想像の余地はいろいろある。絵を見る側の想像力を、刺激してくれる。
 アーティスト名はDust Cell。曲名は「独白」。セリフは「帰ってきてよ」。long long time agoの昔は、「先生、神は存在しますか、人間は死んだらどうなるんですか、生まれかわりとか本当にありますか」などと、ごくたまにだが、私に訊ねた生徒がいた。ここ、四半世紀くらいは、そういう風な形而上学に絡む問題を、持ち込んで来る生徒には、出会ってない。別段、高校生の側で、問題が解決したわけでは、もちろんない。ただ、そういう質問をしなくなっただけのこと。
 以前の学校で、倫理を教えていた時、形而上学に絡むアンケート結果が、倫理の教科書に掲載されていた。調べたのは20歳~29歳の若者。天国を信じている人は12.9パーセント。地獄を信じている人は10.7パーセント。生まれ変わりを信じている人は25.3パーセント。つまり、20代の若者の4分の1は、輪廻を信じていることになる。
 10代はどうなのか、アンケート結果がないので、判らない。こういうアンケートを実施し、集約することは、学校教育の現場では、多分、難しいんだろうと想像できる。学校教育では、生も死も、輪廻も神の存在も、正面から取り組んで、教えるといったことは、まずない。まあ、そもそも教えようがない難問だからってとこも、多分、ある。
 絵は、海辺に立っている彼が、雲の中にいる彼女を、この地上(海?)に呼び戻そうとしているイラスト。そういう呼び戻しが、本当に可能なのかどうか、絵を描くことで、あらためて、自問自答してみたんだろうと想像できる。
 アーティスト名はD.O.(EXO)。曲目は「That's Okey」。セリフは、「たくさん辛いことがあっても、何かが照らしてくれるからありのままで大丈夫」。真ん中の部分が、光っていて、光の矢を9本、発している。こんな風な光り方をしている状態は、実際には見たことがないので、これは抽象画だと言える。光ってないとこは、鉛筆で黒く塗りつぶしている。鉛筆で塗りつぶすと、鉛筆の筆圧を感じる。手間もかかる。塗りつぶすことに、途中で飽きたりもする。文字を書くような、書かないような、ぐちゃぐちゃの線も引いてみたくなる。
 背景が黒で、9本の光の矢が出ている図など、パソコンのソフトを使えば、いとも容易くできてしまう。が、そうすると、その途中経過の「これもう面倒なので放り出そう」とか、「手が疲れた」とか、「線が光のとこにはみ出してしまった」とかの苦労や葛藤も、瞬時に消滅する。こういう手間ヒマのかかる、地道な作業を積み重ねて、光を表現した方が、やっぱり人間らしいと思う。
 アーティスト名は、official髭男dism。曲名は、「115万キロのフィルム」。セリフは「何げない日々も一つ一つ大切にしていこう」。割合、大きめのデジカメを下手上部に描いている。このデジカメを使って風景込みで、自撮りをするという仕組みだと推定できる。紅葉の並木道をリア充たちが歩いている。自宅で、ニトリで購入したと思われるソファー椅子に座って、親子で怪獣映画を見ている(口から火を吹いているので、ゴジラだと思われる)。ちゃぶ台に座って二人で夕食(ちゃぶ台などは、もう絶対に使ってないと想像できるが)。仲良しの二人も、まあ時々は喧嘩もする。雪が降れば雪だるまを拵え、夏は海で海水浴。春は桜の花が散り、秋は落ち葉が舞う。そういうひとつひとつが、フィルムに収められている。このフィルムのうねうねした質感が、実に巧みに表現されている。
 アーティスト名は、いきものがかり。曲名はYell。セリフは、「コロナのせいで、国歌すら歌えなかったなぁ。Yell、歌いたかったなぁ」。中学校の卒業式の会場のイラストを描いている。会場の様子は、高校の卒業式と基本、同じ。ステージの上に、花鉢を4つ並べてある。ステージに上がる階段は、左右に二ヶ所ある。国歌は、おそらくCDを流した筈。Yellが歌えなかったのは、確かに残念。私は、武蔵野二中の合唱祭を何回か、見に行ったが、中学生はガチで歌っていた。中学生は、あれだけ真剣に歌えるのに、高校生になると、いきなり歌えなくなる。まあ、歌えないという気持ちも、判らなくもないが、高校の卒業式の時に歌う「旅立ちの日」とかって、人生最後の斉唱だから、元気よく、歌って、卒業して欲しい。
 アーティスト名は、菅田将輝。曲名は、「ロングホープフィリア」。セリフは「どんなことがあってもがんばる! 応援してくれる人がいるから!」。みなさんの4、5倍くらいの無駄飯を食って、長く生きている私の率直な実感だと、誰も見てないと思っていても、見てくれている人は必ずいると断言できる。直接、声をかけてくれなくても、応援している人はいる。人生は、不公平っちゃ不公平かもしれないが、そうはいっても、案外と公平だったりする。まあしかし、取り敢えず、心の中に推しがいれば、その推しが、自分をサポートしてくれる。まあ、やっぱり一歩踏み出して、動くことが大切。動けば、気持ちも切りかわるし、脳も活性化される。
 アーティスト名は、Mrs. Green Apple。曲名は、「青と夏」。セリフは「おい、やめろよー」。絵は、夏の暑い昼間。女の子が、男子にホースで水をぶっかけているscene。夏の中庭とかで、こういう子供っぽい、水かけ合いとかがあっても、いいかなって気はする。

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