自#688「私も亜熱帯産のロンドンブレンドの紅茶を、毎日、飲んでいますから、偉そうなことも言えませんが、やっぱり『地産地消』が、食の本来のあり方だと、理解は充分しています」
「たかやん自由ノート688」(自己免疫力34)
お茶よりコーヒーの方が、需要が多く、値段も高いので、中国雲南省の茶畑が、現在、コーヒー樹を栽培する農園に、替わりつつあるという報道を、テレビで見ました。お茶もコーヒー樹も、きちんと育てるためには、相当な歳月が必要です。今、現在の先物取引の価格を見て、そんなに簡単に切り換えて、本当に大丈夫なんだろうかと、素朴な疑問を抱いてしまいました。
雲南の山奥の畑は、戦争の被害に遭ったことは、かつてないし、今後もないと断言できます。地球温暖化で、世界各地で異常気象が起こっていますが、元々、熱帯性の植物である茶の樹は、少々、温度が上がっても、さほど影響は受けない筈です。今後も、安定した茶園経営ができる恵まれた場所です。
そもそも、お茶は福建省及び雲南省あたりが、そのルーツの土地です。そのルーツの地場の大切な茶の樹とsay-goodbyして、ちょっとばかし値段が高いという理由で、かつて一度も栽培したことのない、コーヒー樹に手を出すのは、正直、リスクが高すぎます。今、お茶よりコーヒーの方が、より需要があるのであれば、Public Relationsの努力をして、お茶の需要を増やせば、それで問題は解決しそうな気がします。周囲に動かされず、本来の役目を果たす、これが農園に限らず、Golden ruleです。
私は、コーヒーは紅茶ほど詳しいとは言えませんが、16歳でバーテン見習いになって、その後も、喫茶店のバイト歴は、それなりにありますから、普通の人よりは極めています。一番、コーヒーらしい味がするのは、やっぱりモカです。それは、きっとモカが、コーヒーのルーツの土地で栽培されているからです。あの独特の酸味と、何とも言えないフルーティな香りが、つまりコーヒーのオリジナルな味覚です。オリジナルな土地から、他の地域に持って行くと、その土地の風土に刺激されて、別の味覚に変化します。
スマトラ島の山奥で栽培すると、強烈な苦みが生じます(高校生の頃、私はこの苦みが好きでした)。ジャマイカのブルーマウンテンだと、何故かマイルドになります。私が高校生の頃、四国の高知で、ブルーマウンテンを一杯、千円で飲ませる店がありました(当時、コーヒーは、普通、一杯、百円でした。つまり10倍です)。ブルーマウンテンは、確かにマイルドですが、ブルーマウンテン=最高品質の珈琲豆、というブランディングが、今から半世紀以上前に、すでに確立してしまっていたんです。いったんlegendができあがると、それは、そう簡単には崩れません。
ワイキキで、コーヒーを飲んだことがあります。当然、ハワイアンコナです。酸味が強いので、ミルクが多めに必要でした。が、毎日、飲んでいたら、その酸味にも、きっと慣れます。エチオピアの豆は、深くて、複雑な味わいだそうです(人から聞いた話です)。コーヒー豆のルーツのルーツは、おそらくエチオピアです。エチオピアから、モカに伝わったんです。そのルーツの太初の複雑な味わいが、現在にまで伝えられているのかもしれません。コロンビアとブラジルの豆をブレンドすれば(この作業を、バーテン見習いの時にやってました)中和された、当たりさわりのない味になります。パーコレーターを使って、アメリカンコーヒーを淹れて、沢山、飲むとしたら、当たりさわりのない味の方が、望ましいのかもしれません。
世界各地のコーヒー農園は、ここ3、400年くらいの試行錯誤を重ねて、Identityを確立して来たんです。Identityが確立するためには、百年単位の歳月の流れが必要です。遺伝子を操作して、即座に結果を出すとかって、私の常識では、とても考えられません。今、先物取引の値段が高いからと言う理由で、コーヒー農園を始めても、3、4年で、すぐに結果が出るといった簡単な話ではありません。
私は、役所に勤めていていた頃、果樹試験場の土地問題の重要な案件に、1年間だけ、関わっていたことがあります。果樹試験場の職員さんや、果樹栽培に関わっている方々と、結構、喋りました。ほぼ、全員に共通しているのは、みんな、先を見ているということです。来年とか再来年のことではなく、20年後、30年後を考えています。20年後の自分の老後を考えているわけではありません。そんなことは、昔の人は、1ミリも考えませんでした。20年後、30年後に、果樹がどのレベルで成長しているのかを想定しながら、日々、仕事をされています。自分たちの代で、仕事が完了するとは、誰も考えてません。ですから、仕事を引き継ぐ後継者が必要です。伝統芸能に携わる親が、自分の子供に、一子相伝で伝えて行くように、先輩職員は、後輩に、ノウハウを、こと細かく伝えます。私のような行政職の事務吏員は、3、4年で移動しますが(私が1年間しかこの仕事に関わらなかったのは、県庁をリタイアしたからです)農業関係の技術者は、異動しません。異動したら、ノウハウが途切れてしまいます。
中国雲南省は、プーアル茶の本場です。プーアルという名前は、テレビのコマーシャルとかで時々、耳にします。ブレンディングのお茶のひとつとして使われています。私は中華料理を食べないので、中国茶も基本、飲みません。が、知識として、プーアル茶がどういうものなのかは承知しています。
雲南省の高地では、遊牧も生業のひとつです。遊牧は、移動します。遊牧の移動の民は、お茶を飲みます。ビタミンを補給するためにお茶が必要だと、経験的に知っているからです。中国の王朝は、遊牧民の侵攻をディフェンスするために、銀、絹、茶などをプレゼントしたりしていました。遊牧民は、絹の服などは着ません。絹は、オアシスで商人に売却します。銀も生活に必要な物質を購入するために使います。お茶は、自分たちで飲みます。このお茶は固めてあります。この固めたお茶をナイフで削って、ミルクの中に入れて煮て、ミルクティにして飲みます。茶葉は食べます。
プーアル茶も、丸い形に固めてあります。いったんお茶に仕上げておいて、その茶葉を、高温多湿の場所において、さらに微生物発酵させます。ゆっくり発酵させるほど、風味は増し、独特の黒みを帯び、樹木と薬草を思わせる、こくが生まれます。格段に風味がまろやかになるためには、20年以上、寝かせる必要があるそうです。今の先物取引の値段などとは、まったく無関係な、20年後、30年後の飲料だと言えます。この長期間寝かせたプーアル茶は、「年を経る」という意味の「陳年」を冠して呼ばれています。茶葉がばらばらの散葉より、円板状やお椀形に固めたタイプの方が、ゆるやかに発酵が進み、品質も高いので、「陳年」は、普通、お椀形に固められて売られています(アメ横で見たことがあります)。
この固められたプーアル茶を、崩して茶壺に入れる場合も、注意が必要です。茶葉を断ち切らないように、茶葉の目に沿って崩して行きます。プーアル茶は、独特の黒みを帯びていますから、黒茶とも言われています。この雲南省の黒茶は、福建省の玫瑰(はまなす)と相性がいいそうです。雲南省の山奥の地味な黒茶と、福建省の海岸の華やかな玫瑰との出会いってことです。ちょっとばかし、やっぱりロマンを感じてしまいます。透明なガラスのポットを使って、このブレンドティーを作ると、見栄えも良さそうです。最近流行の中国茶のお店とかでは、こういうこじゃれたブレンドティーを、拵えたりしているのかもしれません。
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