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#ハードボイルド
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(45)
「なんじゃ、ワレら」
天満屋は登校直後、元町女子学院の校内にも関わらず数名の女子高生に囲まれていた。既に異常な雰囲気である。彼女は落ち着いて──なおかつこくどうとして言うべき言葉を選び取って言った。
「どこのもんじゃコラ」
制服は他校──しかしその顔にはいくらか見覚えがあった。手には光り物。その目は据わっていて、殺意と功への焦りがぐちゃぐちゃに混ざっている。
「知らんなら教えたるがのう
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(44)
「不動院の姉貴……どがあにするつもりです」
不動院の移動用リムジンの中、後部座席で顔を突き合わせながら、天満屋は困惑した表情で切り出した。
「会長はあのジャケットをいらんと仰っしゃりました。それはそれで、ワシャついていくつもりではいます」
忠義の言葉であった。
天満屋はこくどうとしていつも正しい。こくどうの親子や姉妹とはそうして助け合い、代紋で食えないときこそ協力し合うのが美しい姿だ
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(43)
宇品が送ったメッセージは、無事高子と不動院に届いたようだった。
安奈のスマホが震えて、そっけなく場所を指定するだけのメッセージが届く。宇品のスマホから転送してもらったものだ。
「上島の姉妹ェ。……すまんが、ワシは同席できん」
朝九時。
原爆ドーム前で合流した宇品は、白島のジャケットが入った鞄を手渡しながら言った。
「やっぱり、爪を落としたから……ですか?」
朝の原爆ドームはど
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(42)
「話が違うで、おい……」
小網は天神会会長用リムジンの後部座席で、親指同士でせわしなく押し相撲をしているのを見ていた。
彼女の下に連絡が入ったのは、ヒロシマ城炎上の翌日なんと朝六時。宇品から『白島の生存』を聞かされ、すぐに学校に来てほしいとのメッセに面食らう。
「小網の親分、生徒会室へどうぞ。皆さんお待ちです」
学校のロータリーに着くと、長楽寺組の使いだという生徒が、リムジンの扉を開
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(41)
背中からどろりと痛みと共に漏れ出るそれに、白島は呆然とそれを確かめるように手で触れ、眼の前で手を広げた。
血だ。振り向くと、M9を持って息も絶え絶えな江藤の姿──。
「殺、殺っちゃる……ウチが仇をとっちゃる!」
「無粋ね──人がせっかく友達と話に花咲かせている時に」
江藤は口からゴボゴボと文字通り血を吐き、バレルは揺れている。立っているだけでも奇跡のような状態だ。そんな中でマズルフラ
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(40)
ヒロシマ城の周りは延焼を始めている。本丸天守閣に火が回るのも時間の問題だった。
安奈は狭い通路を通り、ヒロシマ城内博物館へと入る。耐火式らしく、焦げ臭さまでは感じられない。ここならまだ保つだろう。
そんな事を考えながら、鎧や槍、刀といった収蔵品の間を通り、更に上へ。
惨殺されている天神会のこくどう達を縫って、二階三階と登っていく。江藤というこくどうはあのアオとミオ達よりタチが悪いよう
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(39)
中学生の世羅伊織は、空手以外にあまり興味がない人間だった。
おしゃれもしないし、勉強も自主的にはしない。SNSなぞやってるヒマがない。そんな彼女が、ヒロシマ現代美術館にやってきたのは、夏休みの宿題で美術館の作品についての観察とその感想を述べるという、実に面倒なものがあったからだ。絵には殊更興味がなかった。空手をしないクラスメイトにも、同じく興味がなかった。
さっさとグルっと回って、明日の
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(38)
ヒロシマ市内のど真ん中に、堀で囲まれた天守閣を備えた城──ヒロシマ城がある。南側には神社があり、実際に通行できるのは東側にある橋だけだ。
「いいかい。蟻一匹ここを通しちゃならない。紙屋連合が狙ってくるとすれば今日だからね」
世羅は天神会下部組織から集めた人員に、発破をかける。小網会と長楽寺組は動かなかった。辛うじて、不動院は手打ちを望んでいるという真偽不明の情報を提供してきただけだ。
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(37)
「急に言われても困りますよ、不動院さん」
安奈は放課後、学校に乗り付けられたベンツの中で、困惑したようにそう言った。
「高子さんが言うならまだしも、あなたに言われても困ります」
「何故です? あなたも会長の姉妹分になったんですから、てっきり協力してくれるものだと思ってましたが」
天神会会長の白島を暗殺しろ──不動院を経由したその指令に、安奈は反発せざるを得なかった。
直接言ってくれ
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(36)
事始めリハーサルの日は着々と近づいてきている。それを示すように、ヒロシマは荒れていた。
紙屋連合の下位組織が、天神会によって襲撃されるようになったのだ。
事務所のガラス割りや、小さなシノギへの介入──はたまた、下校中のこくどうへの襲撃など、攻撃の種類も多岐にわたった。
サンメン上でも、天神会かそうでないかを問わず、あらゆるこくどうたちが、ヒロシマの空気がピリついてきているのを感じ取っていた
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(35)
「上島さん。日輪会長からお聞きしましたよ。姉妹になったとか」
病院から出た直後、安奈は不動院に呼び止められ、一緒のタクシーに乗ることになった。気まずい。紙屋連合になった経緯もよく知らないし、ましてや彼女とは話したことがない。
「えっと……そう、みたいです」
「すごいことですよ」
穏やかに──それでいて、歴戦のこくどうらしい意志の強さを感じさせる声で、不動院は続けた。
「我々は、天神会
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(34)
「病院の敷地内で助かったわ。しかし、これだと今度はワシが動けんようになってしもうたのう」
高子は全治二週間の怪我となり、しばらく入院することとなってしまった。
奇しくも安奈の退院と入れ替わるようになってしまったのは、彼女にとっても複雑だった。
「それでも、無事で良かったです」
それは安奈の嘘偽らざる本音であった。姉妹達の死は、彼女にとって深い傷となって心の奥に残っている。その後に、親と
ヒロシマ女子高生任侠史・こくどうっ!(32)
入学して数カ月で、白島莉乃というこくどうはメキメキと頭角を表していた。苛烈な性格ながら、時折見せるカリスマ性と面倒見の良さは、同級生はもちろん上級生すら惹きつけていた。
彼女は間違いなく、次代の天神会を背負うこくどうだ。周りの人間はそう囁きあった。
二学期が始まった頃──彼女はある日嫌な場面に出くわした。近所の数名の中学生が──恐らく同級生の──少女を取囲み、小突きながら笑い合っているのだ。