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サウナで『地方創生』を実現するための方法(広島編)

筆者は今、出張で広島に来ています。広島のサウナと聞くと、ぱっとイメージが思い浮かばなかったのが正直なところですが、いざ広島の街をサウナ目線で歩いてみると、様々な発見がありました。ということで今回は広島をテーマに、サウナで「地方」を盛り上げるアプローチを考えていきたいと思います。

サウナで地方を盛り上げる方法というのは、沖縄をテーマに以前書いてみたことがありました。そちらも併せてご一読いただきつつ、考え方は踏襲しながら、前の記事とはなるべく被らない視点でまとめていきます。

そして実際問題、広島がサウナという観点で盛り上がっているのか?という点や、どのようなサウナカルチャーが存在するのかについても触れていきながら、広島を通して 「地方×サウナ」の盛り上げ方をともに考えていけるきっかけになれば幸いです!


地方×サウナについて、いま率直に感じていること

まずは筆者がいま「地方×サウナ」というテーマにおいて、率直に感じていることについて書きます。筆者は『九州とサウナ』というメディアの立ち上げ時代から、地方とサウナの繋がりというのをおよそ4年ほど見てきていますが、やはり盛り上げには一定の時間がかかるな…というのを感じます。

もちろん、新規および既存のサウナ施設が短期で盛り上がるという局所的な展開というのはありますが、外からやってくるサウナ旅目的のお客を確保することと、そもそもその地域のサウナ客の掘り起こしという観点からみると、それなりに時間がかかるわけです。そしてそういった事実について、うすうす気付いているプレイヤーもいらっしゃるように見受けられます。

そういったサウナ客の掘り起こしを根っこから行うためには、とどのつまり地域ぐるみの総力戦でアプローチしていかなくてはならない。それは事業者単位での横の連携であったり、もちろんその地域を司るまちの行政であったり、さらにはテレビや新聞、ラジオやインターネットに至るまで、メディアを巻き込んだ総力戦を経て、はじめて「未顧客」へのリーチと認知が実現できるのではないでしょうか。

以前こちらの記事でも、点と線、線と面という視点でサウナ文化の広がり方を取り上げましたが、いまどれだけ都市部を中心にサウナブームが広がっているとはいえ、個社単位というアプローチが点在する状況では、顧客の新規創出にはより時間を要することが容易に想像できます。ましてや、日本はこれから本格的な人口減少に入っていく。一つの事業者単体では向き合うことが難しいマーケットサイズにとどまってしまうのかもしれません。

しかしながら、希望もあります。意外にも「サウナが全然盛り上がっていない」と巷ではよく言われていた関西エリアですが、いよいよ新しいフェーズに入ってきた感を肌で感じています。2021年のドラマサ道 -関西三都物語- での施設紹介を皮切りに、いま毎月のようにサウナイベントや百貨店での催事企画が行われるようになりました。

神戸サウナ&スパ』や『なにわ健康ランド』のように、サウナ室の大胆なリニューアルの取り組みも目立ちます。筆者は『神戸サウナ&スパ』に通ってかれこれ10年が経ちますが、明らかにサウナファンとみられる客層の変化や滞在客数の増加など、実際に施設を訪れても、明らかな変化として肌でも感じることができました!(とくに今月のお盆は物凄い盛況ぶりでした)

事業者が売上を伸ばさなくてはならないという目標が前提ではあると思いますが、いま関西ではそうした取り組みが線となってお互いにかみ合い、サウナ人口が増えていくまでの総力戦のフェーズに突入してきているのかもしれません。別の地域で、これからサウナの顧客数を増やしていかなくてはならい地域もあるとは思いますけれども、やはり総力戦というのは引き続きのキーワードになっていくのではないでしょうか。

黎明期の福岡サウナシーンとは似て非なる広島

筆者は4年前、テントサウナ1台を担いで福岡の街に乗り込んだことがありますが、いまの広島には福岡サウナシーンと通ずるところがいくつかあります。サウナファンの人口というのは極めて限定的で、サウナ施設の利用者も年配者が中心でした。それから4年かけて、福岡という土地ではゆっくりと、しかし着実にサウナの文化が育ち、そして人口を増やしていきました。

黎明期の福岡がどうであったか、そうした記憶をたどったとき、たとえばテントサウナのイベントがまだまだ少なかったり、女性に向けたサウナ施設がほぼ皆無であったり、ロウリュや熱波が受けられる施設も、あって1つあるかないかという状況ではありました。広島のイマを見た時に、かつて福岡がたどってきたようなマーケットの市況感と軌跡を重ねて見るわけです。

しかし今月に限ってみると、福岡はおろか全国でも珍しい急展開が、ここ広島という街で生まれています。全国的にまだまだ希少な、街のど真ん中で楽しむことができる薪サウナ専門店が今月誕生し、さっそく広島サウナファンの御用達になっているのを目の当たりにしました。さらにこちらの施設は特に女性客の環境整備に力を入れている。これは4年前の福岡の状況ではまず想像できなかったことです。

さらに『サウナフェスHiroshima』というアウトドアサウナイベントが開催され、サウナファン同士の交流が行われたり『37Hiroshima』というメディアが既にあったり。そして以前から放映されていますが、サウナに特化したテレビ番組までもが存在します(笑) 広島のサウナ人口を推し量る限りでは、まだまだこれからが本腰といったところですが、全国的なサウナブームが、新たな風として地方に吹くようになった。これはかつての状況とは、決定的に異なる点であるのではないでしょうか。

市街地から30分で川にたどり着ける価値

これは地方ならではの優れたポテンシャルとして取り上げたいのですが、都市部からクルマを少しでも走らせるとすぐ、綺麗な山・川にたどり着けるというのはサウナファンにとって見過ごせない事実です。広島駅にたどりついたとき、新幹線口に広がる光景がさっそく山であることに驚きを隠せませんでしたが、サウナファンにとってはまたとないアドバンテージであります。

一例を挙げますが、2021年に京都エリアで『森のサウナ Replus』という施設が開業しました。こちらは京都の繁華街からタクシーでわずか20分という立地であるにもかかわらず、訪れた先はただただ森に囲まれた静寂な立地で、サウナ付きのログハウスで半日も過ごせば、まるで京都の市街地にいるのを忘れてしまうかのよう。川の水も山奥にいるかのように綺麗な清流でした。

この『森のサウナ Replus』は関西サウナファンのハートをつかみ、関西屈指の予約が取れないサウナ専門店として、反響を集めています。本格的なアウトドアサウナに日帰りで、しかも数十分以内でサクッと帰ってくることができるのは、これはもう圧倒的過ぎる利便性であるわけです。もはや利用客は、サウナ施設そのものというよりも、このアクセスの良さに対して対価を支払っているとも言えるのかもしれない…

京都の例を挙げましたが、近い環境として福岡と広島というのはとても大きなポテンシャルというのを秘めているわけです。もしかしたら、サウナ施設を作るという大掛かりな取り組みから始めなくとも、まずはテントサウナを地道に続けていくだけでも、その土地におけるアウトドアサウナのポジションは獲得できるのかもしれません。マーケットサイズ、いわゆる商圏人口が政令都市のようなところであれば、尚更見過ごすわけにはいきません。

外から来るサ旅客を狙うか、地元客を掘り起こすか

そして広島ならではのオリジナリティとして、とても面白いのは広島という都市の立地ですね。たとえば神戸や、福岡などの大都市からも新幹線に乗れば1時間半ほどとすぐのところにありますし、もっというと山陰地方や四国からやってくる大都市としての、ハブ的な役割が広島にはある。言い換えると、サウナのハブ的なまち=広島となるポテンシャルを秘めているのではないかということです。

これはまだまだ見過ごしがちな点ではあるのですが、外からやってくるサ旅目的のお客さんというのは、一つの地域や一つの施設だけ訪れるというのは実は考えづらいのです。サウナを訪れるのに大体「ハシゴ」をするわけです。広島なら、たとえば鳥取とか島根とか、もっというと愛媛まで足を伸ばすかもしれない。その前提で価値の伝え方を設計することができれば、これまでとまた違ったアプローチが見えてくるのではないでしょうか。

それと、二項対立になりがちなのが「外から来るサ旅客を狙うか」「地元のサウナ客を掘り起こすか」という論点です。筆者個人的には、どちらのお客さんを対象としても良いのではないかと考えますが、いざ事業者として箱モノを作るとなると、双方に応じたサービスと仕組みを作ることがなかなか至難であると聞くことがよくあります。どちらかに絞った方が楽であると。

この論点を少し分解したときに、まずは来店頻度と単価設定の論点に帰着するのではないかと思います。外から来る客は数か月に一回、しかし交通費含む旅の投資単価は高くなりがち、一方で地元客は来店頻度を高めることができるかもしれないが、銭湯価格からなかなか単価が引き上がらない。この論点を想定しながら、PLづくりとサービス設計を開業前にイメージすることができれば、向かうべき方向性は自ずと切り拓けるように思います。

サウナ好き目線から見る広島の資産とは

サウナのハブ的なまち=広島となる可能性の話をしましたが、サウナ好きの目線から見た、広島ならではのオリジナリティも考えてみたいと思います。いきなり他県の話で恐縮ですが、広島の隣には鳥取県があります。こちらの県では『ととのう とっとり』という企画のもと、サウナを盛り上げる活動を自治体ぐるみで行っており、今や熱波会随一の知名度となった『アウフグース世界大会予選』の入賞熱波師である、五塔熱子さんがいらっしゃいます。

広島に限ってみると、実はアウフグースを提供している施設がほとんどありません。これは裏を返すと、ゼロからアウフグースの文化を作ることができるので、隣県と分断することなくむしろ協調を試みることで、他にないサウナ文化が中国地方に育つポテンシャルがあります。もしかしたら、最初の段階からアウフグースサービスを有償化のもと、提供できる素地すらあるのかもしれません。既に文化が定着してしまった都市部では難しいことです。

これは自治体単位で連携することが難しくとも、まずは個人同士の粒度、もしくは事業者同士の粒度でも取り組めることです。それと、サウナ飯ですよね。広島といえば広島焼きをはじめとして、牡蠣やホルモン天ぷら、広島風つけ麺など、サウナ飯に昇華できそうなグルメの種を多数有している街でもあります。

しかしながら、広島焼き=サ飯!という形でそのままドンとお客さんに出すことだけはなるべく避けた方がいい。サウナ好きは、サウナから出たあとにどんなものを口にしたいのか。よくサ室でミネラルや塩気が抜けるから、それらが補充できるものを提供すればよいという結論になりがちですが、もう少しお客さんのニーズをより深堀れたらいいですね。サ飯を提供するときには、編集すべき要素が必ずあるということに気付くはずです。

広島から感じた可能性と今後への期待

最後に、広島の街に滞在していてとても可能性を感じたのが『広島東洋カープ』の存在です。といっても、プロ野球チームとコラボレーションすることが最善であると言いたいのではなく、数多くの人々が球場に足を運び、球場で買い物をし、文化と経済の両面で盛り上げるプロ野球の興行力に、サウナの可能性を見出すことができたのです。そして何より、広島の人々が野球にハマれる素地があるならば、将来的にサウナにハマれる白地があるとも読み取れました。

思うに、サウナはエンタメ要素が非常に強い一面があると考えています。新旧ともに日本のガラパゴスなサウナの文化を楽しみ、今日はどんなサウナ体験であったかをまるで自叙伝かのようにレポートを書き、多種多様な創意工夫を持って生み出されるサウナグッズの数々を手に取るさまは、実はスポーツ(特にプロ野球)のファン属性に近いものを感じさせます。そして事業者側はビジネスだけでなく、コンテンツづくりにも力を入れているのです。

実はサウナには、プロ野球並みの「ハマれる」要素がふんだんに隠されているのかもしれません。広島で私が驚いたのは、球場に足を運ぶと赤いユニフォームを着た人々が、たとえ負けている展開でもなかなか帰らずに、しっかりと球場を埋め尽くしている姿が印象的でした。地方において、あるコンテンツがこれだけ人々が魅了されているところを目のあたりにすると、サウナを通して新たな盛り上がりを作れる可能性はゼロではありません。

地方でサウナ事業に取り組む場合、サ旅としての集客力、商圏人口であったり、将来的な人口減少や流出を想定しなくてはならないなど、サウナまわりでの集客に苦戦しそうなイメージが先行しますが、むしろ母数に気を取られ過ぎることなく、いかにコンテンツを通したエンゲージメントを創出することができるか。単なる事業成長性だけではなくより広い視野で、その土地での文化づくりや総力戦も含めたチャレンジを試みることが、サウナを通じた「地方」を盛り上げる真の近道なのかもしれませんね。


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