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【詩】斜光

曾祖母が死んだとき
わたしは小学校の一年生だった
九月
田んぼのなかを葬列がゆく
ヒガンバナが咲いていた
ごんぎつねみたいだな、と思った
すでにわたしは
虚構のなかにしか
現実を見ていなかった
何も見る必要がなかった
わたしの肉眼はきっと
いまも母の胎内にある
愛が成就しない物語が
わたしをつくった
報われないことを恐れて
報われて傷つく方を選んだ
傷、とは何なのだろう
積み木の城 砂の城
すべては崩れて消えてゆく
誰ひとりいなくても
無惨に手折れたヒガンバナは
遠くまでずっと咲いていて
折れたからこそわたしだった
あなたはいつだって
石ころより優しかった
二月よりあたたかかった
わたしが動けなくなっていたとき
池袋のね、よりによって
ストリップ劇場の前で
トーキョーには珍しく雪が降って
この街ごと埋もれてしまえばいい
何年も連絡をとっていない
親とかね、きっとそうだよね
わたしの頭の中の猫は、鳴かない
気を遣っているから
全部自分がわるいとおもった
だからわたしも泣かない
誰かが隣にいる人生を
いちども望んだことがなかった
さみしくなかった
こわくなかった
ぬり絵をするように
ひとりでいることに熱中していた
季節は変わらなかった
本当のことなんて言わなくていい
書かなくてもいい
声は死ぬときのためにある
許されることがなくても
許されたとしても
わたしには、どうでもよかった
斜めに射した太陽が
教会のステンドグラスになって
あなたのことだけは
忘れられないような気がした

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