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2023年を振り返る、おもに舞台について。
今年もお世話になりました。
良いお年を迎えられるといいね。
note、2本目の記事である。
最初の記事は2021年夏、だから2年半ぶり。なんてこった。「noteはじめました」とかえらそうに言ってたくせに。三日坊主どころじゃないぞ。
この2年半で生活は少しずつ変わっていった。
TVや配信でドラマの脚本を書かせていただいた。自分の書いたもので初めて収入を得て、自分なりの感慨があった。やっと、ついに、ようやく、物書きとしてやっていけるのかもしれない。こんなゴミ人間が。どんどんゴミ溜めみたいな情勢になっていくこの世の中で。
まあでも、今回はそんな話ではなくて。
今年のことを振り返ろう。
僕にとっては演劇の年だった。
もちろんドラマの仕事もたくさん関わらせていただいたけど、戯曲『追想せる住人』は去年の今頃に書き終わり、春に東京・京都で、そして秋には大阪の関西演劇祭で上演した。最終的には光栄なことに脚本賞までいただいた。期間としてはちょうど1年間、この戯曲に向き合っていたことになる。
だから2023年を振り返るにあたって、この戯曲について記録しておこうとnoteを開いた。読み物というより今回は備忘録に近い。誰にも需要はないだろうけど、自分が後で見返せるように。
2022年の冬、無性に演劇がやりたかった。
最後にやったのは2年以上前に上演した『SANSO』。大学時代の友人とあんなに面白い芝居を作っておいて、以来一本もやってない。
劇団FAXの代表・玉井さんと話して、3月に東京・4月に京都で上演できる機会があることがわかった。
そこで東京&京都のツアー公演を企画しようとしたけど、個人的にやったことのない試みが異様に多かった。
①東京で芝居やるのは初めて
②都道府県を跨ぐツアー公演もやったことない
③よく考えたら作・演出を兼ねるのも初めて
④60分尺の脚本の執筆も初めて(これまでの戯曲は基本的に90分尺以上)
というわけで初挑戦だらけの企画だったけど、結果的には無事に走り出すことができた。オファーを受けてくれたメンバー全員のおかげだ。
◇2023年春、東京&京都の2都市ツアー公演
去年の今頃、『追想せる住人』の初演版脚本を書き上げた。
北アルプス市を舞台に、律多怜花という女性の家で繰り広げられるワンシチュエーション会話劇。ミステリ作家の夫が自殺し、律多は自分を責め続けている。そこへ大学時代の友人たちや刑事や証人が訪れ、律多の夫について「自殺ではなく他殺だったのではないか?」とトリックを話し合う。
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音照のスタッフがギリギリまで確定しなかったこともあり、音照変化が少なくても成立する芝居を作ろうとした(結果的には優秀なスタッフがやってくれることになってすごく助かったのだった)。そしてこの芝居は予定通り、東京と京都の2都市で上演するツアー公演となった。
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この2都市での上演も、会場の広さやイベントの雰囲気に合わせて演出をガラッと変えた。ツアーならではの面白みが出て、結構いいかんじになったと思う。
個人的に好きなのは、オリジナル楽曲「温泉たまごのうた」をギターで熱唱するシーン。めちゃくちゃよくできていた。
ちなみにその曲、初音ミクver.はこのサイトで視聴できる。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41947100
キャストもスタッフも最高のパフォーマンスだったけど、脚本に関してはもっとやれたと思うところがあって、正直に言うと結構悔しかった。ドラマ脚本の仕事までもらえるようになっても、結局映像と演劇では作り方が全然違う。メンバーはみんな良かったのに、大勢のお客さんが観に来てくれたのに、脚本が足を引っ張ってると感じた…からこそ、ツアー後半では更に最大限のポテンシャルを引き出せるよう頑張ったし、かろうじて成功したと思う。
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さて、とても有難いことに、関西演劇祭の関係者の方が京都公演を見に来てくださっていた。
そのとき直接話したわけではないけれど、作品を見て気に入っていただけたらしく、「関西演劇祭に応募してみませんか」とご連絡くださったそうだ。もちろん応募したからといって必ず採用されるわけではなかったけど、結果的には審査が通って出場できることになった。
さらに今回は、演出を担当してくれる人が見つかった。劇団FAXの先輩・松本和馬さんである。ハチャメチャにありがたいことだ。
こうして劇団FAX『追想せる住人』は、11月の関西演劇祭での再演が決まった。
◇2023年秋、関西演劇祭で再演
関西演劇祭では〈上演時間45分〉というルールがある。
それでなくても年内での再演となると、まったく同じ脚本をやるよりは、新しく書き直した脚本の方が面白いと思った。初演で来てくれたお客さんももう一度来てくれるかもしれない。
珍しいことだけど、タイトルだけ同じにして、設定や登場人物はゼロから変えて全編新たに書き起こした。
再演版の新設定はこうだ。
舞台は北海道。イナミという女性ミステリ作家が、サラリーマンの夫を自殺で亡くしたことで、自らを責めて首を吊ろうとしている。ところがイナミの幼馴染が「お前の夫は俺が殺したんだ」と言い出す。事件当日、幼馴染はイナミと一緒にいたのに……。
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登場人物の関係だけでなく、脚本の展開自体も大きく変わった。同じ場所でのワンシチュエーションではなく、現在と過去が交互に入り混じるという構成に組み変えた。
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こんなふうにガッツリ変えたのは、本当は上演時間と集客だけが理由じゃない。
まずはキャストが一新されること。関西で稽古することを考え、オーディションで新たな仲間を募ることになった。平均年齢も若くなり、なるべくその俳優に合ったキャラクターにしたいと思っていた。
もう一つは、初演版の反省点を直したかったこと。個人的に初演版は京都公演で完成したと思っていて、部分的に修正してもそれ以上良くはならない。だから完全な別モノとしてゼロから作りたかった。
最終的に、初演版とは違う形で最高に面白い作品になったと思っている。
松本和馬さんの演出は技巧に満ちていて、脚本の芯を捉えながら誠実に向き合ってくれたと思う。僕なんかでは発想できないアイデアを沢山盛り込んでくれて、観ていて楽しかった(あと僕の脚本が明らかに45分間を超過していて、脚本のカット作業を助けてくれたのがマジ感謝だった)。
キャストもスタッフもオーディションで募ったため、初めてご一緒する人が多かったけど、俳優はデカい会場で繊細かつパワフルなパフォーマンスを爆発させてくれたし、照明・音響・映像も僕が想像すらしていなかった工夫と迫力に満ちていた。今後もご一緒したいと思ってしまう方々ばかりで本当に有難かった。
関西演劇祭ではティーチイン込みで3ステージを上演。
〈絶対に自殺だと思われる故人の死を、他殺として考える〉というこの物語。「逆謎解き」「後付けのミステリ」「本を読んでいるような新感覚の観劇」なんて感想を言ってくださった方々がいて、素敵な表現だなと思った。
劇作家の西田シャトナーさんは「前代未聞の優しいミステリ」として、ゲネプロと3ステージ分の感想を綴ってくださった。この感想には本番期間中もメチャクチャ励まされた。
https://note.com/nshatner/n/n6eb9f8865cd8
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関西演劇祭の最終日、劇団FAXは脚本賞を受賞した。
全国から出場している10団体の劇団、そのどれもがプロ並みにレベルの高い演目を行っていた。正直ビビって膝がガクついてたし、京都の若い劇団として大阪で熟成された空気感へのアウェーさも感じていた。その中で受賞できたのは本当に光栄なことだと思う。
複雑な脚本の底にある魅力をキャストとスタッフが引き出してくれたおかげだ。言うまでもないけど、劇団の全員で獲った賞だ。
そしてそれだけじゃなかった。
表彰式当日。参加劇団とメディアが客席を埋めている会場で、フェスティバルディレクターの板尾創路さんが締めのスピーチに「印象に残っているのは劇団FAXで…」と言及してくださった。あのときの身が引き締まる思いは、たぶん一生忘れない。
(ORICON NEWS:https://www.oricon.co.jp/news/2302978/full/)
本番日初日。泣いてくださったお客様がいるらしい。その方は自身の実体験が重なったこともあり、芝居を観て感じるものがあったそうだ(僕は仕事の都合でその日会場にはいなかった)。
板尾さんが「印象に残った」と表現してくださったのは、その光景だった。
伝えたいことがお客さんに届いて、それを審査員席から板尾さんが拾ってくれて、そういう場で話してくださって。これ以上なく光栄なことだった。
大げさな言葉かもしれないけど、奇跡だと思った。
やってることは間違ってないと背中を押してもらえたようだった。
2022年末からのまる1年間、この戯曲に向き合ってよかった。
春のツアー公演、秋の関西演劇祭。そのどちらも仲間に恵まれた。一人でも欠けていたらここまでの作品は出来なかった。
だからこの場を借りて感謝を申し上げたい。関わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。
◆ちょっとだけ、脚本の中身について
初演の京都公演の際、パンフレットに寄稿したコメント。
「それでも生きていこう」という言葉が苦手でした。
つらくて、苦しくて、“死にたい”と泣いている人がいて。
優しい人たちはそういう表現で励まそうとするものです。
「それでも生きていこうよ。生きていることは素晴らしいことなんだから」って。
大きい声では言えないのですが、なんでだよ、と思ったことがあります。
「生きること」は絶対的かつ無条件の美徳だ、なんて誰が決めたんだろうって。
もちろん自殺や安楽死を肯定したいわけじゃありません。
周りの誰かが追い詰められていても生きていてほしい、それは僕も同じです。
ただ“死にたい”と感じるほど絶望している人たちに「生きること」を押し付けるのがどこまで誠実なことなのかと、どこかで思考停止してはいないかと、ぐるぐる考えているうちにわからなくなってしまったのです。
その問いはまるで鍵のない密室のようでした。
なんとかして開ける方法を見つけられないだろうかと考えているうちに出来上がったのが、今回の作品『追想せる住人』だったりするのです。
以前、ドラマの仕事でプロットを作成していた際に、プロデューサーから「自殺の話題はやめてほしい」と言われたことがある。
当時は芸能人の自殺が相次いでいて、マスコミは自殺の話題に関して慎重だった。特に若者の後追いがないようにと。その影響で、ドラマでも「自殺という題材は扱わないように」とする時期があったのだ。
衝撃でブン殴られた気持ちだった。いつも娯楽作品に登場する”他殺”や”自殺”というトピックは、現実ではこんなにも不謹慎なんだ。フィクションとリアルの生々しいギャップを感じてしまった。
でもそのギャップが人を傷つけるなら、救うこともあるんじゃないだろうか。
現代日本、若者の死因の第一位は自殺。
だからこそ、若い自分たちが上演する意味がある。
そんなことを考えながら、去年の11月、自殺者遺族の心理についてえがこうと『追想せる住人』を書き始めた。
2023年と2024年について。
そんなわけで今年は、久々に舞台に向き合えた1年間だった。
一方で今後も演劇を続けていくための課題も見えてきて、脚本の巧拙云々以前に、まず金が要るとか、仲間を集めないととか、そんなどうしようもなくどうしようもない現実について考えた。
ありがたいことにドラマのお仕事もいただいている。2023年には京本大我さん主演の脚本を担当させていただいたし、2024年の1月期には萩原利久さん主演の連ドラに参加させていただく。他にもうまくいけばお知らせできるお仕事はある、はずである。
それでも演劇という媒体を自主企画で続けていきたいと思うのは、今年の色々があったからこそだ。
ゴミのような情勢になっていく世間で、ゴミみたいな自分がやれることを、ゆらゆらと探している。
長くなったけどここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございました。そんな物好きなあなたが、2024年、良い年を迎えられますように。