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渡米16日目 何言ってるか全くわからない!!

次男が観客席にいる僕たちに訴えた。涙で顔をくしゃくしゃにしながら。

「英語だから、何言ってるか全くわからない!!」

今日は次男が待ちに待ったドルフィンズのトライアウト(選抜試験)の日。地元の競合水泳チームにどうしても入りたいという息子の夢を叶えてあげたくて、月曜日に「ドルフィンズ」を運営するBrookline Recreationに直接連絡をした。次男が3歳から水泳を習ってきたことや将来の夢はドレセル選手のようにオリンピックの金メダリストになることであると伝えると、通常ならばWaitlis(順番待ち)になるところを、担当者のサマンサさんが特別に今日のトライアウトに参加する機会を与えてくれたのだった。

トライアウトの開始時間は17時15分。調べると会場はいつもの最寄り駅ブルックラインヒルズのすぐ近くだった。夕方17時前に大学のあるボストン市内から戻ってきて家族と合流した。次男はやる気に満々で、すでに自宅から水着を着込んできていて、あとはプールに向かうばかり。プールを覗くとすでにプールサイドにはトライアウトを受けると思われる同じ年頃の子どもたちが集まっていた。だが、親はプールには立ち入ることができない。僕たちは、同じく選抜試験を受けるという女の子の親にお願いして次男を彼女に託し、観客席で見守ることにした。

観客席から眺めていると先生が子ども達に何かを説明している。自分の名前ぐらいしか伝えることができない次男は大丈夫だろうか。説明が終わり子ども達が移動を始めると、次男が目頭を抑えながらこちらに向かってきて、涙ながらにこう訴えた。

「どうした?」
「先生が何を言っているのか、全然わからないんだもん!」

そりゃそうだよね。こうなることはわかっていたはずなのに、いや全くわかっていなかったかもしれないが、それでも「泳ぎたい!!」という気持ちが優ってここまできてしまったのだ。

「大丈夫!!みんながやっているように真似してごらん!!」

僕たちは遠くからそう言い返し、次男をプールへと送り返した。次男は涙の上にゴーグルをつけて、一番奥のレーンへと戻っていった。

そしてトライアウトが始まった。まずはひとつのレーンに4人一組で、クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライと4泳法を泳ぐ。次男は他の子供達よりも泳ぐのが早く、目の前の子どもにすぐに追いついてしまう。言葉は不自由でも泳ぎには問題がなさそうだ。得意のバタフライとなると二人を追い抜いてしまった。

そしてしばらくすると、僕たちと同じマンションに暮らす中学生の女の子がプールサイドにいて、次男に先生の言葉を通訳して伝えてくれている。そもそも彼女もドルフィンズの一員で、彼女のお母さんが今日のトライアウトについても教えてくれたのだった。僕たちにはその時、彼女の姿がまるで天使のように見えた。遠くにいてその表情までは伺えないが、泳いで体がほぐれ、かつ心強い通訳を得て、遠くから見ていても次男は落ち着きを取り戻しているように見えた。

次に先生が子ども達を一人一人プールサイドから飛び込ませて、先生たちがストップウォッチを手にタイムを測り始めた。いよいよ次男の番がやってきた。次男は、隣のレーンで泳ぐ子ども達を追い越して25ヤードをそれぞれの泳法でトップで泳ぎきった。言葉が全く通じない環境を初めて経験した8歳の次男。だがそれでもしっかり最後まで泳ぎ切った次男を僕は誇りに思った。彼は一度泳ぎ出すとまさに水を得た魚(ドルフィン?)のようだった。

全てのトライアウトが終わると、コーチのサマンサが観客席の方に近づいてきて、親に集まるように呼びかけた。とてもよく通る声で、彼女はこういった。

「ドルフィンズは今季も志願者が多くて、トライアウト(選抜)を受ける75人の子ども達の中から、私たちは15人を選ばなければいけません。順番待ちでテストを受けられれない子どもも130人います。来週までトライアウトが続くので、その後結果をお知らせします」

そしてドルフィンズの運営には親の協力が欠かせないこと、週末には試合の送り迎えが必要なことなどを伝え終えると解散となった。彼女に僕は改めて、今日の選抜試験に特別に参加させてくれたことへのお礼を伝えた。

「僕たちはまだ引っ越してきたばかりで、次男も初の海外生活なんです。次男は見ての通り英語がほとんど話せないのですが、それは今回の選抜に影響しますか?」

「それは全くありません。トライアウトの結果は分かりませんが、息子さんはとてもよく頑張っていましたよ」

サマンサさんはそう言ってくれた。僕は改めて彼女に感謝の気持ちを伝え、観客席を後にした。

「今日、どうだった?」
「水が軽くて泳ぎやすかった」

帰り際に尋ねると次男はそう言った。硬水と軟水、水質の違いもあるのだろうか。次男はホテルのプールで泳いでいたときから、水の質感の違いを感じていたらしく、今日の水はホテルのプールよりもさらに軽く感じたという。

「おなかすいたなぁ」

すでに言葉がわからなかったことは彼の中ではあまり問題ではなくっているようだった。西陽が真っ直ぐに気持ちよく差し込む大通り、ウォルナットストリートを横切って、僕たちは家路についた。

Day16 20230907木2+0947ー2126ー2202

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