ハムストリングス(Hamstrings)
今回はハムストリングスについてです。
ご存じの通りハムストリングスは、外側が大腿二頭筋(長頭/短頭)、内側は半腱様筋と半膜様筋の3つの筋肉の総称になります。
ハムストリングスは股関節伸展筋として大腰筋の拮抗筋となる非常に重要な筋肉の1つです。
前回は大腰筋について解説しているので、そちらも合わせてご覧ください。
ハムストリングスの起始停止
(Visible bodyから引用)
ハムストリングスもいくつかの解剖学書から起始停止を見てみましょう。
大腿二頭筋
起始:長頭は坐骨結節、短頭は大腿骨粗線
停止:腓骨頭、脛骨外側顆
支配神経:長頭は脛骨神経L5~S2、短頭は腓骨神経L5~S1
作用:股関節の伸展/外旋/内転
膝関節の屈曲/外旋
半腱様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨上部内側面鵞足
支配神経:坐骨(脛骨)神経L(4)5、S1(2)
作用:股関節の伸展/内旋/内転
膝関節の屈曲/内旋
半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆、斜膝窩靱帯
支配神経:坐骨(脛骨)神経L4~S1
作用:股関節の伸展/内旋
膝関節の屈曲/内旋
(基礎運動学第6版)
大腿二頭筋
起始:長頭は坐骨結節(半腱様筋と共同の起始)、短頭は大腿骨粗線外側唇
停止:腓骨頭、脛骨外側顆、一部は下腿筋膜に移行
支配神経:長頭は脛骨神経L5~S2、短頭は腓骨神経L4~S1
作用:股関節の伸展
膝関節の屈曲/外旋
半腱様筋
起始:坐骨結節(大腿二頭筋よりも内側から起始)
停止:脛骨粗面内側(薄筋の後下方)で鵞足を作る
支配神経:坐骨(脛骨)神経L4~S2
作用:股関節の伸展/内転
膝関節の屈曲/内旋
半膜様筋
起始:坐骨結節(半腱様筋に覆われている)
停止:脛骨内側顆(後部)、斜膝窩靱帯
支配神経:坐骨(脛骨)神経L4~S2
作用:股関節の伸展/内転
膝関節の屈曲/内旋
(分担解剖学1総説・骨学・靱帯学・筋学)
大腿二頭筋
起始:長頭は坐骨結節内側面
短頭は大腿骨粗線外側唇、外側筋間中隔
停止:腓骨頭、脛骨外側顆、外側側副靱帯
支配神経:長頭は脛骨神経L5~S2、短頭は腓骨神経L5~S1
作用:股関節の伸展/外旋
膝関節の屈曲/外旋
半腱様筋
起始:坐骨結節下部および内側面
停止:鵞足を形成して脛骨内側面の近位部
支配神経:坐骨(脛骨)神経L5~S2
作用:股関節の伸展/内転/内旋
膝関節の屈曲/内旋
半膜様筋
起始:坐骨結節の外側面
停止:脛骨内側顆の後面および内側面
支配神経:坐骨(脛骨)神経L5~S2
作用:股関節の伸展/内転/内旋
膝関節の屈曲/内旋
(オーチスのキネシオロジー第2版)
ハムストリングスの起始部が坐骨結節ということは共通しています。
(大腿二頭筋短頭以外)
しかし例えば施術においては、坐骨結節の内側なのか外側なのか。
表層なのか深層なのかといったいわゆる三次元的なイメージができるかどうかによって精度が変わってきます。
最近は解剖を実際に見ることができなくても、動画やアプリで3Dの映像を見ることができるのでぜひ参考にしてみてください。
また、停止部は膝痛を考えていくときには非常に重要です。
膝窩部は多くの筋肉や軟部組織が存在し、膝の運動や痛みに関係が大きいです。
二関節筋でもあるハムストリングスは、股関節への作用と膝関節への作用をそれぞれ独立して考えるだけでなく、互いの関係性も整理しておくことが臨床上大切になってきます。
例えば、スクワット動作での股関節と膝の関係性を変えるだけでハムストリングスや大殿筋、大腿四頭筋の筋活動を変えることもできます。
狙った筋肉や動作を引き出すためにもこれらの解剖学的な特徴は覚えておきましょう。
筋機能
ハムストリングスの一般的な作用は膝関節の屈曲と股関節の伸展です。
内側の半膜様筋と半腱様筋は下腿の内旋を伴う膝の屈曲、
外側の大腿二頭筋は下腿の外旋を伴う膝の屈曲作用があります。
ちなみに、膝の屈曲を伴わない下腿の内外旋だけではハムストリングスの活動は見られなかったという報告もありますので運動療法で用いる際はご注意ください。
また、内側と外側のハムストリングスの癒着がある症例では下腿の内外旋の作用が分離して起こしにくくなり、膝関節の機能障害の一因となります。
膝の安定性という観点からは、ACL(前十字靭帯)の補助機構としても知られています。
ACLは下腿の前方への引き出し制動の機能があり、ハムストリングスにも同様の機能があることから、ACL再建術後には特に大切な視点になります。
半膜様筋は内側側副靱帯や内側半月板と連結があり、膝関節の内側面に広く付着しているため、膝関節内側の安定性にも深く関与しています。
股関節伸展作用としては、大殿筋と共同して働きます。
大殿筋が股関節の過伸展での伸展に効率的なモーメントアームを持つのに対し、ハムストリングスは伸展可動域全体で機能しています。
歩行では遊脚期~立脚期への移行期で特に重要な活動がみられることが知られています。
つまり遊脚後期の膝関節伸展の制動と、立脚期における股関節伸展作用という遠心性収縮から求心性収縮への切り替えが必要となります。
また、ハムストリングスの短縮は骨盤の後傾や膝関節の伸展制限の一因となるので臨床上も非常に重要な筋肉の1つと言えるでしょう。
筋膜連結
ハムストリングスが関わる筋膜ラインは、
「スーパーフェイシャル・バック・ライン(SBL)」
「スパイラル・ライン(SPL)」(大腿二頭筋)
以上の2つになります。
SBLのつながりは以下の通りです。
足底筋膜/短趾屈筋→腓腹筋/アキレス腱→ハムストリングス→仙結節靱帯
→脊柱起立筋→帽状腱膜
ハムストリングスが硬い場合、筋膜から考えると足底から背骨、頭部までを評価する必要があります。
SBLの特徴として、ハムストリングスと腓腹筋の連結があります。
ここの連結は膝関節の伸展角度に依存しています。
つまり、膝が完全伸展していると腓腹筋とハムストリングスは連結していますが、少しでも膝が屈曲すると2つの連結はゆるむ。
これは前屈動作などで簡単に実感できます。
膝を完全伸展位で行うとすぐに突っ張りを感じますが、少しだけ膝を曲げると一気に楽に前屈がいくようになると思います。
ここからわかることは、腓腹筋とハムストリングスの癒着が強い場合にそのゆるみがなくなり様々な弊害が起こってくることです。
施術をされる方は、ぜひ膝裏のポイントも意識してみてください。
一方でSPLのつながりは以下の通りです。
菱形筋→前鋸筋→外腹斜筋→反対側の内腹斜筋→大腿筋膜張筋→前脛骨筋→長腓骨筋→大腿二頭筋→仙結節靱帯→脊柱起立筋
こちらはクロスしながら下降していき、水平面上の身体のバランスを維持するために使われる筋膜ラインになります。
多くの人が利き手や利き足があるため、左右のSPLのバランスは崩れやすいと言われています。
さらにスポーツでは回旋動作が重要となるため、SPLはスポーツ選手においても大切な筋膜ラインです。
前鋸筋、腹斜筋の連結は投球動作、サッカーにおける上半身操作など多くの場面で非常に重要な役割を果たします。
うまく脇肘を使えないと思う選手をみている方は、ぜひSPLという視点からみてみてください。
経絡
ハムストリングスは、膀胱の経絡と関係が深いと考えられます。
膀胱経は、足の小指の外側からふくらはぎ、もも裏、仙骨、背骨のやや外側を走行しています。
こちらはSBLとほぼ同じ走行をしており、文献的にも多くの観点から考察されています。
また、膀胱は骨盤内臓器であり、下腹部の筋緊張や睡眠の質などに関わっていますので、周辺組織は簡単に整理しておきましょう。
膀胱の下部は骨盤底筋で支えられ、両脇には腸骨筋、後ろには直腸、少し上にS状結腸、小腸があります。
腎臓でろ過された尿が尿管を通って膀胱へつながるため、腎臓や尿管の機能も大切な要素となります。
膀胱系のエラーがあるときは、内臓機能も気を付けて問診などを行ってみる必要な場合があります。
ハムストリングスの周辺組織
(Visible bodyから引用)
股関節伸展筋の共同筋でもある大殿筋との関係性からみていきましょう。
画像を見てもわかる通り、ハムストリングスは大殿筋の下をもぐるように走行しています。
この部位の滑走不全はデスクワークや学生のようにいすに座っている時間が長い人で多く見られます。
大殿筋とハムストリングスは膝関節や股関節の角度によって働き方が異なるので、ここが癒着していると肉離れやグローインペインなどの股関節周囲のスポーツ障害ともかかわりが深いです。
他の構造物としては、坐骨神経がハムストリングスの深層を走行します。
坐骨神経痛と言えば梨状筋と思われがちですが、実はハムストリングスの内側と外側で絞扼されていることもあります。
大内転筋も坐骨結節に付着し、股関節伸展作用を持っているので非常にハムストリングスとの関連が深いと考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ハムストリングスは肉離れの好発部位でもあり、特に走るときに負担が集中しやすい特徴があります。
骨盤周りや膝周りはもちろん、背骨や肩甲帯との関係性の中で考えていく必要があります。
怪我においては、患部と患部外をどちらも評価していく必要がありますが、まずは局所をしっかりみれるようになることが大切です。
特にハムストリングスは3つの筋肉の総称であり、1つ1つ丁寧にみることができる必要があります。
今回は長くなってしまいしたが、ぜひ臨床でも多くの視点から患部と患部外をみるくせをつけていきましょう!
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