佐藤太郎君へ

佐藤太郎くんは綺麗な顔をしている。

佐藤太郎くんは頭がいい。

佐藤太郎くんはユーモアがあって皆に優しい。

佐藤太郎くんは私とセックスした。


2年前、私と佐藤太郎くんは同じ大学の二年生だった頃の話だ。お互いに学科も同じだったけど、彼と私は人間的な性質が全くの正反対で、彼は所謂陽キャ、私は陰キャ。太郎くんはイケメンで賢くて運動神経も抜群で、おまけに皆に優しいから大学の女の子は太郎くんにメロメロになった。私もその一人だったけど、思い切ってデートに誘うなんて勇気も、誘われるだけの華も持ち合わせちゃいなかったから、影でこっそり見つめる程度にとどまっていた。でも太郎くんが可愛い女の子とお話している光景を見るたびに胸がキュッとなって、「私だって」なーんて詰らないプライドを保つために鏡を覗いたけれど、写るのは、ぼさぼさの髪にヨレヨレのロングスカートをはいた自分だったから、急に恥ずかしくなった。

でもある日、そんな私にも転機が訪れた。友達が脱毛サロンに通い始めたのだ。ミレニアムと言う名のそこは新宿駅から徒歩3分の場所にあり、あのカリスマ芸能人も御用達の超大手サロンなんだそう。脱毛サロンといえば学生は金額で億劫になってしまいがちだが、ミレニアムでは手数料なしで1145141919810回の分割払いが可能らしい。さらにさらに、業界では珍しいレーザー式のマシンを導入しているから、痛みもないとのこと。今から始めれば、何かと露出狂の多い冬の海にも間に合うため、おすすめの脱帽サロンだ。ちなみにVIOの気分がよければ、この記事を読んだ人限定で特別割引を実施する予定だ。

「あんたの首から背中、毛がボーボーすぎwそんなんじゃ男に嫌われるよww」

脱毛サロンに通って急に垢抜けた彼女はそう鼻で私を笑った。そのうち、毛がぼーぼーだという理由で、私と遊んでくれなくなった。代わりに派手な友達ができて、彼女たちとは陰で私を馬鹿にしているらしい。前は一緒にアニメや漫画で盛り上がってたのに。彼女は脱毛サロンに通ってから変わってしまった。受け止めきれない現実に心を揺さぶられた。

佐藤太郎くんと出会ったのは丁度そのころ。友達に裏切られたショックのあまり大学の廊下で泣いていた私を、彼は優しく慰めてくれた。

「お前、垢抜けたら可愛いんだからな……」

照れ隠しのつもりなのか、顔を背けて私の頭をポンと撫でる太郎くんはまるで王子様のように見えた。でも太郎くんはモテモテだから、

「きっしょw佐藤くんに色目使ってんの?w無理無理あんたみたいな地味子w」

なんて女の子たちからは馬鹿にされていた。でも私は佐藤くんと関わっていくうちに変わっていた。

(悔しい……!佐藤くんのためにも、私、可愛くなる!)


それからはダイエット、お洒落、脱毛サロン、マナー教室、料理教室、脱毛サロンを繰返す日々だった。慣れない活動に辛い思いをすることもあったけれど、太郎くんはいつもと変わらない笑顔で私を励ましてくれた。


……数か月後

「あの子誰?ちょーかわいい。連絡先ききてぇ!」

「どれどれ……マジじゃん!めちゃくちゃタイプ!俺、あの子飲みに誘いたい!」

「なにあれ……あんな美人いたっけ?私より可愛い子なんてこの大学にはいないはずなのに……!(ギリッ)」

私は見違えるほど綺麗になった。私は佐藤くんとも目出度くセックスフレンドになり、佐藤くんの木曜夜は晴れて私のものになった。でも情事は大体私が一人暮らししているアパートでだったから、私は太郎くんの家を知らなかった。でも近くはなかったのだと思う。なんでって太郎くんは荷物を持ってくることを嫌がっていたから。だから食べ物も飲み物も全部私の家で補充していたし、会話の節々では欲しいタバコと酒を私にそれとなく伝えてきてた。私は太郎くんが大好きだし、短時間とはいえ同棲といった恋人ごっこができるのは興奮に値するイベントだったから、彼が私の家に居心地の良さを感じるよう、それらは常にストックしておくようにした。でも彼が物質的、心理的な満足に浸れるのは情事を始めるまでだった。一通りの共同作業を終えて、汗ばんだ太郎くんの前髪を撫でていると、彼は蠅を払うような仕草で私の手をはねのける。その時に見せる流し目はあまりにも嫌悪感をむき出していて最早憎悪にも近い感情を感じさせたけど、それでいてくっきりとした二重と長い睫毛は天使のように綺麗なものだったから、私はこのちょっとした意地悪に快感すら覚えていた。

何度目かの木曜夜、私は太郎くんが大好きな辛口カレーを作っていた。後ろでは佐藤くんがゲームをしていた。玉ねぎが目に染みて涙がこぼれる。ふと言葉もこぼれた。

「ねぇ、佐藤くん」

「なに」

「佐藤くんって私のこと好きじゃないでしょ?」

「……」

沈黙は肯定だ。彼の指は絶えず四元色のボタンを押し続け、4Kが構成するファンタジー世界は二人の脛に光の酩酊をさらけ出す。へべれけの光にあてられて酔ったのか、佐藤くんはいつもよりのっそりとした動きで煙草に火をつけた。私は背中をなぞる燻煙に彼なりの甘えを感じはしたが、涙でぼやけた視界を開く気にもなれず、続けて質問をする。

「こんなにセックスしてるのに付き合えないのさ、最近は辛くなってきちゃったの。でも私が辛いからって、佐藤くんはこの関係を変えるつもりはないでしょう?もうさ、それって私たち価値観が合ってないんだよ。価値観が合わない人とセックスして、気持ちいい?」

「……気持ちいい」

こういう時は素直なんだね、佐藤くん。

「私は気持ちよくないかも」

「……」

佐藤君は成人男性の荒々しさでコントローラーを投げ捨てると、振り返って私の方へずんずん進んでくる。

私は今包丁を持っている。いざとなったら佐藤くんを殺してやろう。そんな恐ろしい事、できもしないくせに、これだけは前と変わらない詰らないプライドと共に私は彼に正対した。

ふと、佐藤くんは細い指でまるで蜘蛛の巣のように私の後頭部を覆うと、鋼力で私の口を自分のそれに吸い寄せた。

やられた。これは、やられてしまった。こうなってしまえば私の負け。そんなやりとりをこの後も何度か繰り返した。



佐藤太郎くんは私とセックスした。

佐藤太郎くんは私の家を出た。

佐藤太郎くんは最寄り駅まで向かった。

佐藤太郎くんは通り魔に殺された。


お葬式にはいかなかった。だって彼のお葬式には彼の友人や家族がいて、そのどれもになれなかった自分の卑小さを思い知るのが怖かったから。彼は周囲に私との関係を説明していたのだろうか。いや、彼の性格からしてその可能性は限りなくゼロに近い。だって太郎くんのことだから、私みたいなイカガワシイ人間との付き合いなんて無いことにして、余裕ぶって、自分だけ綺麗に生きようとしていたに違いない。ホントサイテー。あんな奴、どこがよかったんだろう。


頭を冷やすべく、とりあえずアイスを食べてみた。冷たくて甘くてとっても美味しい。太郎くんにも食べさせたかったなぁ。あーあ。あ、腕に毛生えてる。







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