#119 スターって

走る、走る、私は走る

全身から汗が吹き出しているのがわかる
でも気にしちゃいられない
夢子さんと薨の会見は絶対生で見届けないと

するとすぐにシャレッシャレの建物
(まあだいたいこの辺りの建物はシャレッシャレだが、、、)

「あった!これだこれだ!写真と一緒、ビンゴーッ!!てかここってホテルなの?総合複合施設ってやつ?知らんけど」

とにかく中に入り温くなった麦茶を飲み干す
「うへぇー、生き返ったぁー」

もう何でもいいや
フェイスタオルで顔を拭いた
薄付きのはずなのにファンデやシャドウがべっとり
ほんと自分の身なりなんてどうでもいいー
空調効いててサイコー

て、くつろいでる場合ではないのだ!
「4Fだっけ?急げ!」
エレベーターに乗り込んだ

フロアに着くと
「部屋いっぱいやーん!部屋番号まで書いてなかったよぅー亀さぁーん!!」
大きな独り言

すると
「おーい!たまちゃぁーん!」
聞き覚えのある男の人の声

「ガ!ガンタさぁーん!!」
た、助かった!
ホワイエのソファで誰かと話していたガンタさんが声をかけてくれたのだ!
笑顔で近づくと

「ヤッ、ヤババッ!!」

ガンタさんが話していたのはなんと楢崎選手だったのだ!!

「あ、あわわわ、、、」

「たまちゃん、今日来ないんじゃなかったの?どうした?」

どうしたじゃないよガンタさん!!
な、な、楢崎選手やん!!

楢崎選手は不思議そうに
「たまちゃん?」
と、ガンタさんに問いかける

「あ、そっか!楢崎さん、彼女が今度デビューするセカジョの新人の子だよ」

楢崎選手は一瞬眉を顰めたが
「あ、あー!小鳥遊選手とやるっていう、、、」

すると楢崎選手はスクっと立ち上がり私の方へ歩み寄って手を差し出す

「はじめまして!璦選手。新世界プロレスの楢崎です。よろしくお願いします!」

え、え、えーっ?!
天下の楢崎選手が私なんかの為に立ち上がって握手を求めてくるなんて!!

ククゥーッ
アンタの魅力には敵わないよ

楢崎選手はなかなか手を握り返さない私を不思議そうに見て
「こういうのもセクハラになりますか?」

いえいえとんでもござーせん!
あまりの驚きで手が動かねーのでごぜーますだお代官さまぁー

だが私は意を決して楢崎選手の握手を受けた
「はじめまして!今度デビューさせていただきます全世界女子プロレスの璦です!よろしくお願いします!!」

楢崎選手の手はゴツゴツしてるがどこか優しさを感じられた

やっぱスター、カリスマってすごいや!
きっと善悪を超越したところにスターは存在するのだろう

「デビュー戦、がんばってくださいね!」
私の目をしっかりと見てそう言ってくれた

「ハイッ!ありがとうございます!」

「フフッ、瞳から情熱が溢れて出てるなあ、、、ガンタさん!」

「え?はいっ?」

「セカジョってやっぱすごいっすね!」

「え、ああ、まあ」

「夢ちゃんがデビュー戦の少し前に地元に帰って来てた時にたまたま駅で会ってちょっとだけ話したんですよ、、、」

「ええ、あ、うん」

「璦選手!無事デビュー戦が終わったら是非HYDRANGEAにも参戦して下さい。オファーしますんで!」

「え、あ、ハイ。お願いしま、、、す?」
これで返事あってるのかなぁ?

楢崎選手は私の顔を見てもう一度微笑みかけ
「ガンタさん、そろそろ会見再開するんじゃない?僕も帰りますね!」

「あ、ああ、また取材させてください」

「ええ、お疲れ様でした。璦選手!」

「あ、ハイッ!」
なんか背筋がピンとなった

「またお会いしましょう!じゃっ!」

そう言ってお付きの人とエレベーターに乗っていった


私はガンタさんと顔を見合わせ
「楢崎選手、何が言いたかったんですかね?」

「いんやあー、スターの言うことはオレにはわからん!」

「、、、そうですね、、、」

「あ!それより始まるぞ!たまちゃん」

「あ、ハイッ!」

会場の扉をガンタさんが開けようとした時に扉が開いた

「おーっ!ビックリしたぁー!!」

んあ?
「あれー?亀さん!」

一瞬目を細め
「たまちゃん!どうしたの?お父さんと会ってたんじゃないの?」

「いや、記者会見やってるって聞いていたたまれなくなって!」

亀さんはこないだと同じでスーツ姿に今日はインカムを付けている

「早く入って入って!カーコが来るからさ!」

「え、ここから?」
あ、そういやみんな記者席の横を通って登壇してたな
その誘導の為のインカムってことか

「とにかく早く早く!」

私とガンタさんは亀さんに押し込まれるように会見場に入った

想像した通りで上手側は登壇する人の通路となっており映らない下手側と扉付近にはいつも会ってるセカジョスタッフが立っていた

「たまちゃん、オレ一番前だからさ。横に真琉狐が立ってるからそこまで行こう」

「ハイッ」

そしてスタッフの前を小声で「お疲れ様です」を連発しながら忍び足

「あれ?たまちゃん?」

「どうしたんだ?」

そんな声が聞こえてきて顔を真っ赤にしながら真琉狐さんの横に

「おはようございます」
ペコリ

真琉狐さんは目を丸くさせ
「え?たまちゃん!どうしたの?」

「あ、どうしても生で見たくって、、、」
てへへと頭を掻く

「えー!お父さんいいの?もう、たまちゃんってプロレスバカなんだからぁ」
ツンっと指で頭をつつかれた

「えへへへへ」
これはきっと褒められてるよね?

すると社長が席に戻ってきた

それを合図に星野さんが
「えー、大変お待たせいたしました!会見を再開いたします。メインイベント第69代AWWC王座決定戦60分一本勝負、雨宮夢子vs薨!まずは薨選手、ご登壇お願いします!」

バッチリのタイミングで扉が開く

姿を現した薨はいつもと違い真っ白なノースリーブのタイトめなロングのワンピースに真っ赤なヒールで涼しげな顔をしてるものの何か秘めた決意のようなモノが感じられた



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