#66 ボディスラムができない

薨ぉ!薨ぉ!薨ぉ!薨ぉ!!

薨への歓声が熱を帯びてきた

すると対角で亀さんが
「真琉狐!休むな休むな休むな!!攻めろ!攻めろ!!」
檄を飛ばす

その亀さんの熱が伝わり真琉狐さんのファンも真琉狐コールを始める


そうだ!
プロレスは選手とお客さんだけじゃない
私たちセコンドも作っていくんだ


「5分経過、5分経過」


ゆっくり片膝立ちで起き上がる薨

真琉狐さんはそれを許さないとばかりにもう一度胸元めがけミドルキックを放つ

ボゴッ

突き抜き切れてない音
薨は胸元でガッシリと脚を受け止めていた
そしていつものようにその瞳が不気味に光出していた

脚を掴んだまま立ち上がりドラゴンスクリュー

すかさず立ち上がりもう一度真琉狐さんの脚を捕まえくるっと半回転

リング中央でスピニングトーホールド
真琉狐さんの右足を絞りあげる

「っぬ、ウワァァーッ!」
真琉狐さんの顔が苦痛で歪む

絞りつつ真琉狐さんの足を自分の右膝に乗せグーッと両腕で体重をかけていく

「アアァーーッ!」
金切り声で悲鳴をあげる

入りはスピニングトーホールドだが少しアレンジを加え薨は拷問技へと昇華させていた

「ヘイ!ギブッ?!」

「ンンッ、、、NOだよっ!!」
そう言って真琉狐さんは足をバタつかせるがセンターからロープへは遠い

「ンッ、ガハァー」
何とか真琉狐さんは体を右に傾け左足でバタ足をするかに無作為に蹴りを出す
するとその一発が薨の肩口にクリーンヒットしその勢いでようやく薨の手が解かれた

だが薨は攻撃の手を休めない
まだ立てない真琉狐さんの膝に向かってストンピングを連発

膝を抱えのたうち回る真琉狐さん

すると今度は薨が人差し指をクイクイッっと挑発仕返す

「クッ、ザケんじゃねーぞっ!!」
そう言いながら立ち上がる

そしてこれもお返しとばかりにローキックで転ばせてからの今度はアキレス腱固め
徹底した足攻めから切り崩す作戦か

互いに足技を得意とする2人
先にその機動を制するのが勝利への近道には間違いないだろう

またまたリング中央
小学校で習った支点、力点、作用点
全ての点のポイントがガッチリと効いているのだろう

苦悶の表情でロープに手を伸ばす真琉狐さん
だが安易とは抜けられない

対角では必死でマットを叩きながら叫ぶ亀さん

私も負けられない

「薨ーっ!絞れ絞れ!!」


腕の力だけでロープへ逃れようとする真琉狐さん
必死の形相でなんとかロープに手が届きロープブレイク


ジョニーさんは薨を引き離しセンターへ戻す

真琉狐さんはロープ際で薨を睨みつけながらも自分の膝を叩く
思うように動かせないのだろうか歯痒そうに叩く何度も何度も、、、

「立てるのかっ?!続けるか?」
ジョニーさんが促す

そのジョニーさんを手で払い除け
「当たり前だろ!バカヤローッ!!」

何とか立ち上がり右足を少し引きずりながらリング中央へ

素早く薨がエルボーを仕掛ける
真琉狐さんも呼応するかのようにエルボー合戦が始まる

胸筋を超え肘と胸骨
骨と骨をぶつけ合う音が場内に響く
思わず耳を塞ぎたくなるような痛い音だ

そしてそのエルボー合戦を終わらせる為に弓形の構えから左に半身を捻り反動付けてからの逆水平

ビッシャャァァーン!!

相変わらず薨のその長い腕から繰り出される逆水平は拷問器具としての鞭そのものの威力
真琉狐さんの胸元が瞬く間にみみず腫れ
毛細血管の一つ一つがブチブチと切れていく音が聞こえてくるようだ

「ギィヤァァー!」
その叫び声など聞こえてないかのように薨は腹部に前蹴り

「グゥッ!」
と真琉狐さんが前屈みになった瞬間を狙い腕を首に回しもう片方の腕を股の間に入れ込み抱え上げ、、、る??

ボディスラムの体勢に入り真琉狐さんの体を半分ほど持ち上げたまま立ち尽くす
そしてそのままホールドを外してしまい真琉狐さんは軽く転がるように落とされた

「えっ?!」

会場もざわつく
一体何が起きた?
失敗した?

だが薨は立ち尽くしたまま目を閉じ下を向き顔も青ざめて脂汗を流している

何より一番驚いてたのはその様子を目を丸くして見ていた真琉狐さんだった


「え?もしかして?」
薨のトラウマが蘇ったのでは?

今や繋ぎ技やフィニッシュ前に相手をマットに寝かす為に使われることが殆どなボディスラム

だが一つ間違えれば惨事になることは薨が身をもって知っている

手が震えてる
そしてその手を顔の前に

薨は信じられないという表情でその手の平をじっと見ていた

真琉狐さんは起き上がる
そして前蹴り一閃
そのままボディスラムで薨をマットに叩きつけた

髪を掴んで起き上がらせる
そしてもう一度ボディスラム

全く抵抗しない薨

観客は何故このようになったかなどわかる術もない
ただこの状況に唖然としているだけだ

真琉狐さんの顔はみるみる紅潮していく
苛立ちが隠せない

「おい!テメー!!何だそれは?、、、何だって聞いてんだよっ!!」
もう一度髪の毛を掴み顔を近づけ言い放つ

だが薨は心ここに在らず
そんな様相だ

「ふざけんじゃねーっ!!」
またも強引に立ち上がらせボディスラムでマットを揺らす

真琉狐さんは叫ぶ
「立てよ!立て立て立て立て立てーーっ!!」

真琉狐さんだって薨の異変、そしてその異変の理由はきっと誰よりも理解しているはずだ

でもこんなところでは終われない
真琉狐さんはこの闘いにあの時の答えを求めているんだ
だから終われないんだよ!

「10分経過、10分経過」

マットに突っ伏したままの薨

もう10分でもまだ10分だ
ダメだよ、薨
こんなんじゃダメだよ

薨だって答えが欲しいんでしょ?
ねぇ、ねぇってば

私は少しでも薨に近づくよう身を乗り出しサードロープから顔を出して叫んだ

「薨ーっ!立てーっ!!こんなんじゃ答えだってベルトだって何も手に入らないよーーっ!!」


真琉狐さんの想いか
私の声か

薨はユラっと上半身を起こした


だがその瞬間、無情にも真琉狐さんのバズソーキックが薨の側頭部を撃ち抜いた


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