出世商人(文春文庫)㊀
物語は五人の見習い小僧が汗を流しながら丸薬の製造に取り掛かっているところから始まった。五人の内、一人丸薬の原料を練っている小僧が主人公の文吉である。文吉は一人前の商人を志し、十一歳から遠州屋と言われる薬種問屋で五年間奉公を続けている。それなりに重要な仕事も任せられるほど当主からは信頼されていた。しかしその日は丸薬を街中で売って回る振り売りをしている際、腹痛で苦しそうにしている婆さんに丸薬を無料で与えたこが遠州屋の当主にバレて説教された。文吉はお小遣いが無しになったこともあり