一日。はじまり。
ぱっと目が覚めて、布団を取り上げた母親が私に向かって言う。
「今日は遊園地に行くよ」
こみ上げてくる嬉しさに思わず声を上げて起き上がろうとしたとき、
目の前の景色は一瞬にして真っ白なアパートの天井に切り替わった。
息切れをしている。
目の横から枕に向かって落ちていくものが涙であることに気が付いて、自分は夢で泣いていたのだと気が付く。
存在しない記憶だ。突然起こされて遊園地に出かけたことなどない。
でもいつか、確実に、似たようなことはあった。
親に起こされて、その日の予定を知らされる。わくわくするようなサプライズが、子供の頃はあった。
動物園に行くのも、ただ買い物に行くのも、小さいときは秘密裏に建てられる親の都合でよく出かけたものだ。
目の前がパッと明るくなるような、一瞬にしてその日一日が色づくような感覚。
しばらく味わっていなかったそのあまりの眩しさに、私は嗚咽して起きた。
目の前にあるのは何の変哲もない見慣れた天井。
こんな状況になってしまっていることはとんだサプライズだが、なんとか息を整え、寝転がったまま横を向く。
ほんの僅かに濡れた枕が頬に触れる。寝ていた時より枕との距離が近くなった目尻に涙の感覚が残っていることに気が付いて、
どうしたんだ自分、と目をつぶって聞いてみる。
いつから泣いていたんだろう。遊園地に行くと告げられた時だろうか。
まあ、夢の記憶はそこまでしかないが。
目が覚めた時点で、夢を見ていたのはほんの直前のように思えても、実際にはかなり前の時点であるという話を聞いたことがある。
だとすれば、私の記憶ではあそこまででも、夢の中の私は本当に遊園地に行ったのかもしれないな。
起きた直後は、行き場のない漠然とした喪失感や、寂寞とした感情で胸がいっぱいだったが、
幸せな思いをした私の嬉しさが尾を引いて、今の私にも実感させてくれたのかもしれない。
夢の私にも、あの時の私にも、嬉しいことがあった。
それを思い出して、今の私が嬉しく思わないわけにはいかない。
今、サプライズを期待するのは難しいかもしれないけれど、これから先家族や奥さん、関わる全ての人に嬉しいサプライズをしてやれる。
「なみだなんて~」
流してる暇はないと、存在しない歌を口ずさんて身を起こす。
よーし、
「今日はドライブに行くぞ」
何も知らされていない今朝の私に言ってみる。