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ホテルマンから鍛冶屋へ:本家松永製作所が紡ぐ伝統と未来

こんにちは、安中市地域おこし協力隊の髙杉です!

今回訪れたのは、家族経営で伝統の鍛冶を守り続ける「本家松永製作所」

どこか懐かしい昭和の空気を感じる鍛冶屋の作業場で、三代目で群馬県伝統工芸士である笠原さんとご家族からお話を伺いました。

その中には、挑戦と葛藤、そしてものづくりへの情熱が詰まっていました。

ホテルマンから鍛冶屋へ

群馬県伝統工芸士の「本家松永製作所」三代目 笠原さん

本家松永製作所の3代目である笠原さんは、もともとホテルマンとして18年のキャリアを持つ方でした。時代の有名人や政治家が訪れる一流ホテルで、あらゆる仕事をこなすベテランホテルマンでした。

そんな笠原さんがなぜ鍛冶の道へ進んだのか。その理由を聞いてみると、奥様との結婚がきっかけだったそうです。奥様のご実家である本家松永製作所には、後継者がいないという深刻な問題がありました。

初めは断り続けていたものの、「自分で何かをやってみたい」という気持ちや、組織に所属し続けることへの葛藤、そしてものづくりへの興味が後押しし、30代前半での大きな方向転換を決断されました。

先代から多くを学んだ修行時代

ご家族との写真。真ん中が二代目のお義父様。

修行時代は、まさに昭和の職人文化。「背中を見て学ぶ」というスタイルで、習得には少し苦労もあったそうです。

技術をなかなか身につけられず、焦ることもあったものの、失敗を重ねながら少しずつ身につけていったとのこと。

それでも笠原さんは、「二代目は見て覚えろというタイプでしたが、教えてもらったことは数えきれないほどあります」と振り返ります。

「学ぶのも一苦労でしたよ(笑)」と笑いながら話す姿には、先代への敬意と感謝の気持ちがにじんでいるように感じました。

鍛冶屋の世界をのぞく

大小様々な機械が設置される「本家松永製作所」の工場

今回は鍛造の作業のない日だったのですが、僕が取材するということで特別に鍛造の現場を見せていただけることになりました。

鍛冶の現場は想像以上に過酷でした。鍛造をする際には800度まで熱せられる炉に火を入れて作業をします。

鍛造に使用する炉
高温に熱される炉

今回特別に見学させていただいた鍛造の作業では、鋼を鉄で挟んでいる材料を熱して叩き、強度と粘りを生み出す工程が見られました。

この作業には高温の炉を使うので、真夏には恐ろしいほどの汗をかくことが容易に想像できました。

また、鋼を急冷させるための水や、低速で冷やすための油を使うなど、細かな調整が求められます。これらの作業では職人のカンが重要になります。

高速冷却に使う水
低速冷却に使う油

火加減や金属の色の変化を見極めながら行う作業、その全てが職人技にかかっています。笠原さんはこうした鍛造に必要な感覚を、長年の経験から培ってきました。

「夏はどんなに暑くても、高温の機材を使って作業をします。そして冬場はどんなに寒くても、刃を研ぐために冷たい水を使って作業をします。」と話す笠原さん。

このような大変な環境の中でも地道な努力を積み重ねた笠原さんの歴史が、今の技術につながっているのだなと感じます。

錆止めが塗布されて完成間近な包丁たち

後継者不足という課題

鍛冶業界は今、大きな課題に直面しています。それが「後継者不足」です。

笠原さんによると、この問題は鍛冶屋だけでなく、周辺の関連業種にも及んでいるとのことです。たとえば、鋼を供給する材料屋や、鍛冶に使う道具を製造・修理する職人も年々減少しているそうです。

さらに、昨今では廃業した鍛冶屋が作った特殊な製品の修理依頼も増えてきているとのこと。これらの製品は製造した職人がすでにいないため、本家松永製作所に修理依頼が舞い込むのだとか。

また、使用する機材も古くなり、修理やメンテナンスが必要になることが多いそうです。しかし、その機材を修理できる職人も減少しており、対応に苦労されている現状が伺えます。

職人の技が生む喜び

鍛冶の現場を見学した後、本家松永製作所で購入した包丁を自宅で試してみました。初めて手にしたその包丁は、見るからに重厚感があり、その重さを生かした切れ味に驚かされました。

斜め前にスライドさせるように切ることで、包丁の性能を最大限に発揮できます。

全ての製品が手作りであることを重要視されているので、形も一つ一つが一期一会。自分だけのお気に入りの包丁を手に入れ、使い込むほどに愛着が湧くのも、この包丁ならではの魅力だと思いました。

地域や農家を支える鍛冶屋

笠原さんの姿を見て感じたのは、鍛冶という仕事が単なるものづくりにとどまらないということです。それは地域文化を支える役割でもあり、未来へとつながれていく大切な伝統です。

歩夢さんも現在修行中とのことで、この伝統が次世代に受け継がれていくことを期待せずにはいられません。

刃を研ぐ歩夢さん

30代で安定した職業を辞め、新しい挑戦を選んだ笠原さん。その覚悟と努力には心を打たれます。修行を経て一流の職人として活動する姿からは、技術を極めることの素晴らしさが伝わってきます。

「本家松永製作所」の販売について

「本家松永製作所」では商品をマルシェやクラフト市などで販売しています。農具に限らず、包丁やキャンプ用のナイフまで幅広く扱っています。

素敵な商品がたくさんあるので、ぜひマルシェやクラフト市などに訪れ、その魅力を体感してみてください!ご自身だけの1品物を手に入れることができますよ。

なお公式のオンラインショップもありますので、ぜひチェックしてみてください!

本家松永製作所について

公式ホームページ

公式オンラインショップ

公式Instagramアカウント


*本家松永製作所さんは、群馬発の新しいローカルカンファレンスである【湯けむりフォーラム】にも取り上げられています。

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