やつらが村にやってきた(1)
10月1日、八ヶ岳高原テラス(8kt)が正式に立ち上がった。日本最初のペンション村を擁する長野県原村の地で、「8kt」は40年以上経営しているペンションを会社化し、ワーケーションやAIスタジオ、DX事業やコミニュティ作りなどの新規事業を次々と打ち出している。
村という保守的な自治体にありながら、コロナ下の新しいプロジェクトに最も早く反応したのは、行政や民間企業ではなく、20歳前後の若者たちだ。それも、地元の長野県ではなく全国から原村に参集し始めているのだ。
徒歩圏内に牧場や湖、自然公園、あるいは洒落たレストランや湯量豊富な天然温泉があるからだろうか? あるいは、住み込みでのリモートワークやみんなでつくるDIY、TikTokなどによるエリア宣伝活動によって対価を得られるというスキームが功を奏したのだろうか?
もちろん、そんな単純な話ではない。コンビニも一軒しかない不便な村だ。実際に、コロナ前までは空き家が目立ち、かつての移住者も高齢化し、村自体の存続を危惧する声も少なくなかった。
原村は人口8千人余りの長野県の小さな村である。東京、名古屋からそれぞれ2時間強、諏訪湖の上流、7年に一度の奇祭に使用する御柱切り出し場のある八ヶ岳山麓の中央に位置する。標高は1000メートルを超えて、縄文時代の遺跡がそこら中に点在する美しい高原の村だ。
その原村の教会の隣の、3000坪のペンションに設立されたのが株式会社八ヶ岳高原テラスだ。その敷地内に、「原村テラス」という縄文の森の雰囲気を残したままのワーケーション施設の設立構想が持ち上がったのは、今年2021年の夏のことだった。
4月に立ち上げた8kt準備室での議論が進む中で、女優で原村在住の宮崎ますみさん(8kt顧問)や、隣地の農業大学校(八ヶ岳中央農業実践大学校)の学生である吉田周平君(8kt執行役員)などが、「ここは縄文の雰囲気を強く感じる」ということで、この地を「縄文テラス」として開発していくことが決まった。
榛の木や白樺、赤松などに護られたエリアの中心には、八ヶ岳から地中を流れくる集水の湧く池がある。春先の池にはセリやクレソンが自生し、柔らかな土壌にはシダや高山植物の花が咲き乱れる。
その「8kt」の縄文エリアに、いま、やつらが集いはじめている。ウッドデッキを作って、テントを張り、起こした焚火でキャンプ飯を作って、新しい生活を始めた。
いま「やつら」の平均年齢は22歳だという。大学を休学したり、退学したりして、原村にやってきた。汗を流して土にまみれ、笑いとともに歌い続けて昼夜を過ごす彼らは、いったい何を目指しているのだろうか?
このコラムは原村での「やつら」の観察記である(2につづく)。