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2024 UPCOMING ARTISTS 50

毎年恒例になってきましたが、ベストアルバム企画の次は、個人的な2024年のベストEPを兼ねた期待の新人アーティスト50選です。今回はアルバムも含まれていますが、それはデビュー作でもあるので今回は含めました。
2024年のベストアルバムは下記にまとめてますので合わせてぜひチェックしてください。


50. Zsela 『Big For You』

2020年のベストEPにも選出した、NY・ブルックリン出身で現在はLA拠点に活動するSSW、Zselaの〈Mexican Summer〉からのデビュー作。共同プロデューサーにDaniel Aged (Frank OceanやKelelaなどと関わりあり)とGabe Wax (The War On DrugsやSoccer Mommy)という強靭な布陣で臨んだ作品。彼女のスモーキーで流麗な歌声は健在で、インディーをベースにニューエイジからアンビエント、ニューウェーヴ、ジャズ、グリッチ、トリップホップなどが溶け合った、洗練された音楽性が漂う作品に。Okay KayaやNilüfer Yanyaに次ぐような素晴らしいアーティストになるかと。

49. Chloe George 『A Cheetah Hunting In Slow Motion』

LA出身のシンガー・ソングライター、Chloe Georgeが2作目となるEP『A Cheetah Hunting In Slow Motion』をレーベル〈FADER Label〉からリリース。今作はプロデュースにたびたびこのブログでも名前が出てくるBilly Lemosが全面で関わっていて、作曲の一部にJune McDoomも参加しています。
全体的にオルト・ポップをベースに、R&Bやエレクトロポップ、グリッチなどをミックスさせた音楽性で、さすがBilly Lemosが関わっていることもあって、サウンドの質感が洗練されていますね。甘酸っぱく煌びやかなポップスな感じで、淡く儚いムードがとても最高です。

48. SALPA 『Seadog』

ロンドン生まれで現在はスペインを拠点に活動するシンガー・ソングライター、SALPA(ex: Lucy Lu)がデビューEP『Seadog』をリリース。客演にPuma BlueやUma、Nilüfer Yanya、Harvey Causonなどが参加。彼はもともとPuma Blueのバンドメンバーとして活動しつつ、ソロ名義Lucy Luでも活躍していたアーティストで、Umaの作品にも何度か客演で参加しています。
今作はジャズやソウル、ニュー・エイジ、インディーなどを散りばめた、トロピカルでありながらメランコリックなムードが漂う音楽性に仕上がっています。ジャジーでディープなサウンドは、サウスロンドン感があってそれも最高だなと感じました。

47. Torri Weidinger『in the back of my closet』

NYを拠点に活動するチェロ奏者/シンガー・ソングライター、Torri Weidingerが新作EP『in the back of my closet』をリリース。
颯爽に靡くような瑞々しく甘美な歌声に、インディー・フォークをベースとしたオーガニックで木漏れ日のように煌びやかな音楽性が重なり合った、透明感あふれる作品に。フォークにアンビエント、フォークトロニカ、インディー・ポップなどを織り交ぜ、そこに数々のストリングスやピアノ、ノイズなど、曲によっては実験的な試みをしている楽曲もあり、そこも魅力的でした。Luna LiやS. Careyなどを想起させるドラマティックなメロディーセンスもあるので、そこら辺好きな人にもおすすめです。

46. Frances Chang 『Psychedelic Anxiety』

NY・ブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、Frances Changが新作EP『Psychedelic Anxiety』をリリース。かなり奇想天外で、何にも縛られない自然体かつアヴァンギャルドな作品に出会いました。
ローファイやスラッカー・インディー、フォークなどを絡めたサウンドでありつつ、急にプログレッシヴな展開になるなど、静と動の緩急のつけ方が秀逸なアルバムに仕上がっています。正直なんでもアリな8曲で、DIY精神を感じるローファイさと、実験的な要素の煮詰まり方が本当に魅力的です。もっと広がってもおかしくない。Dirty ProjectorsにAlex Gを組み合わせたような才能を持ち合わせていると感じます。

45. Jane Penny 『Surfacing』

カナダのインディーポップ・バンド TOPS のボーカル、Jane PennyによるデビューEP。ジャケットの通り瑞々しく光り輝くような曲が収録されていて、TOPSのインディー・ポップさに、80年代のニュー・ウェーヴさをより強くさせた作品に仕上がっています。可憐でとろけるような歌声ですが、どこか艶やかさも見え隠れする感じが、TOPSのときとは異なる印象を与えてきて、そこが個人的にもいいなと感じました。

44. Esme Emerson 『Big Leap, No Faith, Small Chancer』

中国をルーツに持つイギリスの兄妹ポップ・デュオ、Esme Emersonが新作EP『Big Leap, No Faith, Small Chancer』をリリース。2人ともBon Iverから多大な影響を受けているようで、そのほかBig ThiefやHovvdyなどからもインスピレーションを受けているそう。
その影響が端々から感じられる音楽性に仕上がっていますが、彼らの場合はフォークを下地に、インディーやアンビエント、エレクトロニックなど多種多様のジャンルを織り込んだ、カラフルで淡いポップサウンドに。透明感ある流麗な美声が歌い上げるメロディアスな歌メロもロマンティックで心地良いです。

43. Angela Muñoz 『Descanso』

LA出身のアーティスト、Angela Muñozが新作EP『Descanso』を名門レーベル〈Stones Throw Records〉からリリース。幼少期から両親の影響でThe Doorsや2Pac、Queen、さらにはサンバやサルサに触れてきたそうで、Adrian Youngeとのコラボレーションデビューアルバムを10代で発表している実力派アーティスト。
作品全体としてはインディーR&Bやネオ・ソウル、ニュー・エイジなどをミックスさせた幻想的でオーガニックな雰囲気あふれるサウンドに仕上がっています。そこに彼女の22歳とは思えない、成熟したソウルフルで艶やかな美声が絡み合うことで、より色鮮やかで神々しいムードが加わった洗練されたEPとなっています。

42. DAVIN 『Good Daughter』

カナダ・バンクーバーを拠点に活動するSSW、DAVINのデビューEP。Jane Removerやblackwinterwellsの作品にも参加するアーティストkmoeのInstagram経由で知ったのですが、M4で共同プロデューサーで参加しているようです。
全体的にインディー・ロックをベースに、グランジやオルタナティブ、カントリーなどを織り交ぜた、90〜00年代の質感を感じるバンドサウンドに仕上がっています。淡さ漂う甘美な美声も心地よく、Y2Kのムードもほのかに香るのもとても良い塩梅。

41. piri & tommy 『about dancing』

謎に意固地になってあえて紹介してこなかったのですが、今作がかなり良かったので選びました。UK・マンチェスター出身のエレクトロニック・デュオ、piri & tommyの新作EP。個人的にデビューシングルから追っているのですが、PinkPantheressの二番煎じ感が漂いすぎてあまりしっくりきてなかったです。でも今作で吹っ切れたようにビートの洗練さが増して、より中毒性あふれるダンスミュージックに仕上がっていました。今後もより注目が集まっていくことに間違い無いでしょう。

40. LYAM 『THE ART OF LETTING GO!』

イーストロンドンを拠点に活動するラッパー/ソングライター、LYAMによる4年ぶりの復帰作。UKのアンダーグランドでも名の知れたアーティストで、デビュー作ではShy GirlからJeshi、Lauren Lauren Auderなどが参加しており、今作でもJohn GlacierからWikiなどが客演で、プロデューサーにはMura Masa(M10)などが参加するなど、UKの名だたるアーティストが集結。
エッジの効いた矢継ぎ早のラップを武器に、ジャンルを横断したダークでメランコリックなビートを巧みにのりこなしていくさまは、まさに次世代を担っていくUKのダークホース。

39. Keni Titus 『juliet』

LAを拠点に活動するシンガー・ソングライターKeni Titusが新作EP『juliet』をリリース。彼女は今年のbeabadoobeeのツアーのオープニングアクトに抜擢されるほど注目を集めつつあるアーティストです。
今作を制作するにあたって聴いていた彼女のプレイリストを見ると、Smashing PumpkinsからAlex G、Lana Del Rey、Big Thiefなど主にUSインディーからの影響が強そうで、インディー・フォークからグランジ、オルタナなどを織り交ぜた、メランコリックでアンニュイなムードが漂う音楽性に仕上がっています。彼女の甘美でクールな歌声と共にノイジーなギターが掻き鳴らされたり、牧歌的なサウンドまで、そこも魅力かと思います。

38. Whitelands 『Night​-​bound Eyes Are Blind To The Day』

ロンドン拠点に活動する4人組バンド、Whitelandsがデビューアルバム『Night​-​bound Eyes Are Blind To The Day』をリリース。Slowdiveの前座を務めるなど、徐々に注目を集め始めているバンドです。皮肉めいたバンド名の名前の通り、彼らも以前コラムで書いた「人種によるジャンルの固定概念をぶち壊す」アーティストのひと組ですね。
ストレートで颯爽と駆け抜けていくような透明感あふれる轟音サウンドに、幻想的で流麗なウィスパー・ヴォイスが加わった、シューゲイザーからドリーム・ポップ好きにとってはたまらない音楽性に仕上がっていますね。そこにエモやハードコアなどの情熱性も感じるとことも最高です。

37. Being There 『Where Does The Time Go?』

LAを拠点に活動するミステリアスなR&Bグループ、Being Thereのデビュー作『Where Does The Time Go?』をリリース。作品にはMick JenkinsやTOBiが客演で参加。
正直どれだけ調べてもあまり詳しく出てこないので正体は不明ですが、全体的に洗練されつつポップな作品で最高なことは間違いなし。

36. Daudi Matsiko 『The King of Misery』

ウガンダをルーツに持つUKのノッティンガムを拠点に活動するシンガー・ソングライター、Daudi Matsikoがデビュー作『The King of Misery』をリリース。
彼の音楽を一聴するとスッと彼の音楽世界へと導かれるような不思議な魅力を持ったサウンドを奏でています。静寂の中に密かな情熱を帯びた、優美で穏やかな美声。アコースティック・ギターの流麗で柔和な旋律。時にはチェロが、時にはサックス、時にはピアノがそれぞれのメロディーと美しく溶け合い、フォーキーで牧歌的な素晴らしいサウンドスケープを生み出しています。Nick DrakeやElliott Smith、そして最近のKara Jacksonのように、聴き手の苦しみや不安に寄り添ってくれる力を持った、シンガー・ソングライターだと感じます。

35. Juliet Ivy 『tiny but scary』

中国とコロンビアにルーツを持つNY拠点に活動するシンガー・ソングライター、Juliet Ivyが新作EP『tiny but scary』をリリース。彼女は前作のEPで人気になっていったそう。
個人的に去年の作品よりは今作の方がより彼女のソングライティングセンスが洗練されていっていて、とてもハートフルな作品に仕上がっていると感じています。インディー・ポップやインディー・フォーク、ベッドルーム・ポップなどを織り交ぜた煌びやかで穏やかなサウンドで、彼女の可憐で甘美な歌声があわさることで美しいサウンドスケープを奏でています。初期のbeabadoobeeやSamia、MUNAに通じるアーティストかと思います。

34. Sunday (1994) 『Sunday (1994)』

イギリスとアメリカの混合バンド、Sunday (1994)がセルフデビューEP『Sunday (1994)』をリリース。バンド名から分かるように青春映画のような甘酸っぱくノスタルジックな雰囲気を纏ったアーティストで、幻想的でシネマティックなメロディーに酔いしれるようです。
初期のTaylor Swiftのポップで華やかさがありつつも、80年代のCocteau Twinsの浮遊感のあるドリーム・ポップから90年代のMazzy Starのようなインディーさも溶け合わせた音楽性は、最近のこういったバンドの中では随一かと感じます。

33. Kilu 『her』

ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、Kiluが新作EP『her』をリリース。この作品はデモ作品で、昨年出した『2』もめちゃくちゃいいです。彼自身は以前このブログでも紹介した同じくロンドンで活動するFeuxの大の親友とのことで、今年も一緒にツアーを回っていたらしいです。
彼はTikTokでも人気を博しているアーティストとのことですが、サウンド自体は非常に洗練されています。メランコリックでダークな響きのあるサウンドに、彼の気だるげだけど優美なウィスパー・ヴォイスが溶け合い、美しいサウンドスケープを奏でています。RadioheadからBillie Eilish、そしてKing Kruleまでにも通じる、ダイナミックさからインディー感を兼ね備えた特大新人かと感じます。他の楽曲もぜひ聴いてほしいです。

32. Wasia Project 『Isotope』

ロンドン拠点のOliviaとWillによる兄妹によるデュオ、Wasia Projectによる新作EP。WillはNetflixシリーズ『Heartstopper』にも出演しているとのこと。ジャズから影響を受けつつも、オルト・ポップやインディー・ポップ、チェインバー・ポップなどを絡めた、シネマティックかつロマンティックなサウンドスケープを奏でています。作品が一つの映画のようなドラマティックさもあり、その細部までこだわり抜かれた世界観に圧倒されます。

31. Ethel 『The Burden Of Fever Dreams』

フランス・パリを拠点に活動するアーティスト、EthelがデビューEP『The Burden Of Fever Dreams』をリリース。特にSamphaやJames Blakeなどから影響を受けているそうで、今作でもビートや上物のエレクトロニックサウンドが磨き抜かれています。
幻想的で夢見心地な歌声に、幽玄でとろけるような電子サウンドが溶け合い、終始陶酔的な作品に仕上がっています。R&Bやエレクトロニック、IDM、ヒップホップなどを織り交ぜた、ダークでY2Kなムードを含んだ音楽性は、FKA TwigsやJoji、Wetなどを彷彿とさせます。これでデビューEPなので今後もさらに伸びていくこと間違いなしでしょう。

30. Lily Seabird 『Alas,』

アメリカのバーモント州・バーリントンを拠点に活動するSSW/プロデューサー、Lily Seabirdが新作『Alas,』をリリース。
今週のアルバムをディグっているときにたまたま見つけた、個人的にも衝撃的なアーティストです。Big ThiefやSoccer Mommy、Runnnerなどそこら辺のUSインディーやSSW好きであれば間違いなくどストライク間違いなし。ゆらゆらとした穏やかなフォークさに、ノイジーでオルタナなギターサウンドが混ざり合った音楽性に、少しダウナーで凛とした歌声が乗るという、最高なサウンドでした。シンプルなメロディーと音楽的構成、すごい才能を秘めているかと。

29. Snow Strippers 『Night Killaz Vol.2』

2022年にこのブログでも紹介したデトロイトのエレクトロポップ・デュオ、Snow Strippersの新作ミックステープの第2弾。気づいたらSurf Gangのレーベルから出していたんですね。いま最もアメリカのダンスフロアを沸かしていることに違いない2人ですが、相変わらずのカオスな仕上りになっていて最高ですね。

28. Dan Whitlam 『Own Mind』

サウスロンドンを拠点に活動するポエトリーラッパー/アーティスト、Dan WhitlamがデビューEP『Own Mind』をリリース。頭に轟く渋く低い声が印象的なDan Whitlamは、鋭いスポークンワードからグライム的なラップをブレンドさせた独特なフロウを武器に、メロウでジャジーなトラックの上で縦横無尽に行き交い、陶酔的な作品に仕上げています。
彼の作り上げるトラックも非常に心地よく、ジャジーなものから、R&Bやソウルなどを組み合わせた鮮やかなものまであり、特筆すべきはところどころ入ってくるボーカルのサンプリングも素晴らしいです。UKラップシーンの新たな才能だと感じていますが、BERWYNからLoyle Carnerに通じるような今後要注目のアーティストかと思います。

27. Tara Lily 『Speak In The Dark』

ベンガルにルーツを持つサウスロンドンの奇才、Tara Lilyの新作『Speak In The Dark』をリリース。彼女はKing Kruleの作品への参加などで話題になっています。
ジャズやR&B、エレクトロニック、インド音楽などを織り交ぜて、エキゾチックで幽玄なサウンドを奏でる彼女の音楽はユニークそのもの。妖艶で甘美な歌声はダークでありながらミステリアスな雰囲気を纏っているのも素晴らしい。個人的にあの名門のBRIT SCHOOLを追い出されたという逸話も好きです。

26. Scout 『Everything Will Make Sense』

スウェーデン出身で現在はロンドンを拠点に活動するアーティスト、ScoutがデビューEP『Everything Will Make Sense』をリリース。客演にPhoebe Greenが参加しています。
インディーやエレクトロポップ、ベッドルーム・ポップなどを軸に、80年代のニューウェーヴやポップスも織り交ぜた、ノスタルジックかつ鮮やかな音楽性に仕上げています。Scoutのダウナーだけど凛とした歌声も加わることで、ダークでありながらも星のような輝きを放つ作品に。あと印象的なのはギターのサウンド。Mk.geeとも通ずるところもあるような退廃的でカラッとした歪みの音が魅力的で、どうやらかつてシューゲイザー系のバンドに所属していたとか。

25. urika's bedroom 『Big Smile, Black Mire』 

LAを拠点に活動するベッドルーム・ポップ・アーティストTchad Cousinsによるプロジェクト、urika's bedroomのデビュー作。このブログで紹介し続けているJean Dawson、そしてKevin Abstract、Bakarなどにも通ずる新星であることは間違いし。特にKevin Abstractの2023年の新作に次ぐような90年代のグランジからオルタナなどのサウンドスケープを、現代のベッドルーム・ポップやヒップホップ的な再解釈したような音楽性に仕上がっています。ベストアルバムでも紹介したDed Hyattのアルバムのプロデュースも務めるなど、ますます今後の活躍が楽しみなアーティストのひとりです。

24. Sex Week 『Sex Week』

NYを拠点に活動するRichard OrofinoとPearl Amanda Dicksonによるインディー・デュオ、Sex WeekがデビューEP『Sex Week』をリリース。彼らはNYのインディーシーンでも音楽仲間が多いらしく、BabehovenをはじめBloomsday、h. pruzなどと関わりがあるそう。ちなみにKaty Kirbyの最新アルバム『Blue Raspberry』のカバーが彼らというのも驚き。
彼らの楽曲はバラエティーに富んでいて、インダストリアルやグランジなどを組み合わせたダークな楽曲から、ドリーム・ポップやインディーを絡めたロマンティックなポップソングなど、とても幅広い楽曲が収録されています。でも全体的に気怠げでいて甘酸っぱいムードがそれぞれの曲に一貫していて、それが彼らの魅力だと思います。

23. chase plato 『HONEY BABY: I LOVE IT WHEN YOU CALL ME THAT !』

デトロイトを拠点に活動するアーティスト、chase platoがデビューアルバム『HONEY BABY: I LOVE IT WHEN YOU CALL ME THAT !』をリリース。Jean DawsonやKennyHoopla、Bakarが出てきたことによって、人種によるジャンルの固定概念を崩してきたという話は前にブログ内のコラムで書いてます。
そこから追随するように、その固定概念にとらわれない新たなアーティストが続々と出始めている中、彼もその才能輝くアーティストの一人。
彼自身はTyler, The Creatorから100 gecs、Slowdiveなどに影響を受けてきたとのことで、ポップパンクやエモなどを中心に、オルタナティヴ、インディー、ヒップホップなど取り入れたミクスチャーにも近しいような音楽性を奏でています。非常にバラエティーに富んでいて、色鮮やかなサウンドが巡り巡るような作品に。

22. Her New Knife 『chrome is lullaby』

フィラデルフィアを拠点に活動する4人組バンド、Her New Knifeが新作EP『chrome is lullaby』をリリース。彼らは現在話題沸騰中のjulieと、They Are Gutting a Body of Waterと対バンツアーを回って注目を集めているバンドです。
feeble little horseやFleshwater、Knifeplay、そして新生julieなどをはじめ、コロナ禍を過ぎ去ってきてから、グランジやスロウコア、ドゥーム、シューゲイザーなどに寄ったUSインディー系のバンドが一世を風靡しはじめています。その中でもHer New Knifeも注目のバンドで、ダウナーで空虚なムードを感じられつつ、サウンドはヘヴィーでダークというような独特の空気感を漂わせています。

21. Rowena Fysx 『don't text me back』

2021年のベストEPにも選んだ、トロントのフィリピンルーツのアーティスト、Rowena Fysxの2ndEP。R&Bやアンビエント、エレクトロニックなど織り交ぜた、幽玄で荘厳な音世界を漂う洗練された作品に。深淵へと誘う独特のメランコリックでダークな感じがたまらないです。彼女の妖艶な囁きの歌声もまた良きです。

20. Kaleah Lee 『Birdwatcher』

カナダ・バンクーバーを拠点に活動するプロデューサー/SSW、Kaleah LeeがデビューEP『Birdwatcher』をリリース。SearowsやLeith Rossといった新進気鋭のシンガー・ソングライターとともに去年ツアーを回ったりと徐々に注目を集めています。
主にアコースティック・ギターのストロークと彼女の浮遊感のある澄んだ美声が絡み合った弾き語りスタイルで、その隙間で生まれる余韻が心地良く、酔いしれるよう。全体的に静寂でメランコリックなムードでありながらも、優雅で心に平穏を与えてくれる作品に仕上がっています。Adrianne LenkerからPhoebe Bridgers、Skullcrusherなどに通ずるような洗練されたアーティストかと感じます。

19. h. pruz 『No Glory』

NYを拠点に活動するシンガー・ソングライターHannah Pruzinskyによるプロジェクト、h. pruzがデビュー作『No Glory』をリリース。Hannahは同郷の新進バンドSister.のメンバーでありつつ、これまでにMutual BenefitやTold Slantともコラボしてきたアーティストです。
h. pruzが作り上げる音楽は、インディー・フォークをベースに、アコースティック・ギターの弾き語りの温もりと、穏やかで伸びやかな歌声によって作り上げる、のどかで安らぎを与えてくれるような作品に仕上がっています。サウンドは非常にミニマルで、必要最低限の音のみで構成されていて、そのオーガニックな質感の響きと、退廃的なムードがまたたまりません。USのフォークシーンの中でも、LomeldaやAdrianne Lenker、Joanna Sternbergなどと共振するようなSSWではないかと感じます。

18. Phoebe Go 『Marmalade』

これまでにドリーム・ポップバンドのSnakadaktalのボーカルや、エレクトロニック・デュオ、Two Peopleで活躍してきた、オーストラリア・メルボルン拠点のPhoebe Louによるソロプロジェクト、Phoebe Goの2作目。前作のEPのときにブログ内で紹介しています。
正直前作から急激的にポップ性やソングライティングセンスに磨きがかかって、全曲捨て曲無しという無双状態の作品に仕上がっています。親しみやすいメロディーに、甘美だけど少しハスキーな歌声が重なり合うことで、美しくノスタルジックなサウンドが漂っていて最高。

17. Colle 『Montalvo』

NYを拠点に活動するMaya McGroryによるソロプロジェクト、ColleがデビューEP『Montalvo』をリリース。彼女は各メディアの今年のベストアルバムでも選出の多いShane Laversによるプロジェクト、Chanel Beadsのメンバーの一員でもあります。今作でもミックスでShane Laversや、元Strange Rangerで現在はThresholdで活動するIssac Eigerが関わっているそう。
作品はトリップホップ的なダークで幻想的な世界に包まれた音楽性を主軸に、そこにドリーム・ポップやエレクトロニック、アンビエントなどを絡めた浮遊感溢れる夢見心地なものに仕上がっています。彼女の透明感あふれる甘美な歌声はシルキーで、サウンドのメランコリックさとは相対した希望を見出すような役割を果たしているようです。とりあえずめちゃくちゃ良いです。

16. Infinity Song 『Metamorphosis Complete』

NYを拠点に活動する4人組の兄弟姉妹バンド、Infinity Songが新作『Metamorphosis Complete』をリリース。彼らは2016年にJay-Zによって彼のレーベル〈Roc Nation Records〉と契約して、レーベルの音楽性に合わせないでInfinity Songのアーティスト性を優先するようにレーベルの人たちにアドバイス。そこから4年後の2020年にデビューアルバム『Mad Love』を発表に至ったそう。
今回の新作では、70年代のソフトロックを取り入れたバンドサウンドが軸となる音楽性に仕上げていて、そこにソウルやクワイアなど取り入れた多幸感あふれる華やかなインディー作品に。彼らの歌声の調和も美しく、牧歌的で温かい空気感も心地いいです。

15. Clothesline From Hell 『Soon We'll All Be Smoking』

カナダ・トロントを拠点に活動するSSW/マルチ・インストゥルメンタリスト、Adam LaFramboiseが新作EP『Soon We'll All Be Smoking』をリリース。
彼のサウンドはアコースティック・ギターを中心に、多彩なビートを絡めた、まさに2020年代に降臨したBeckのようなポップネスに満ちた作品に仕上がっています。1曲目からビートの鳴りが90年代的タイトな質感で、そこに郷愁を感じさせるアコースティック・ギターのアルペジオなどが溶け合ったサウンドがたまらないです。ヒップホップやインダストリアル、インディー、アンビエントなど、それをメロディアスな作品にまとめ上げているのが素晴らしいです。

14. Vanessa Bedoret 『Eyes』

ロンドンを拠点に活動するバイオリニスト/コンポーザー、Vanessa Bedoretがデビューアルバム『Eyes』をリリース。これまでにNYのコレクティヴStanding On The Cornerとの共演や、最近ではNourished by Timeともステージを共にしたそうです。8歳からバイオリンをはじめ、10代ではパンクバンドを結成したり、その後オペラやブラックメタル、ダンスミュージック、IDMなどさまざまな音楽に影響を受けていったそう。
今作はそんな多くのリファレンスを感じ取ることのできるアルバムに出来上がっていて、インダストリアルやニューエイジ、アンビエント、トリップ・ホップ、ソウルなど多くに渡るジャンルが内包された、幽玄でありつつもサイバーパンクのような世界観が広がる作品に仕上がっています。重厚でSci-Fiなダークサウンドが鳴り響く中、シルキーで透明感漂う美声の存在感も素晴らしく、彼女の作り上げる独特な世界観にどんどんと引き込まれていきます。既に彼女は、カルト的な人気を誇るML BuchやAstrid Sonneと今年ステージを共にしているのも注目ポイントで、今後さらにTirzahやLaurel Haloなどのシーンに続くアーティストになるかと。

13. Fcukers 『Baggy​$​$』

今年いろんな方のベストにも上がったNYを拠点に活動するエレクトロニック・トリオ、Fcukersのデビュー作。2024年に発表した「Bon Bon」がバイラルヒットを重ねて、その中毒性あふれるダンスチューンで世界中を魅了。
マッド・チェスターからディスコ・パンク、ハウス、レイヴなど、UKそしてUSの文脈のダンスミュージックを織り交ぜた、はちゃめちゃな音楽性が最高ですね。Snow StrippersやKumo 99など含めて、アメリカを魅了するグループになること間違い無しです。

12. damon r. 『re』

FcukersやSnow Strippersばかりに気を取られていてははダメです。
以前このブログでも紹介したLAを拠点に活動するアーティストdamon rushが、アーティスト名を「damon r.」に変えて活動開始後、初のデビューEP『re』をリリース。ブログで紹介したデトロイトのレイヴデュオ、Snow Strippersのツアーのオープニングアクトで同行しているそう。
それもあってさらに知名度を上げているdamon r.のEPは、レイヴやdigicore、hyperpop周辺の音楽性を散りばめた、中毒性のあるダンス楽曲が詰まった作品に。Y2Kのムードを絡めたサウンドでありながら、ダークで退廃的なムードを持っているのがdamon r.の魅力でもあります。

11. Junior Varsity 『My Star』

どうやら今年から3人組になったLA拠点に活動するのGregとZach、Brookeによるインディー・ポップ・トリオ、Junior Varsityの新作。2021年のベストEPにも選出しています。
今作は数曲プロデューサーにDay Waveを迎えており、サーフインディー感溢れる、爽やかで軽快な楽曲から、鮮やかで甘酸っぱいインディーポップまでを詰め込んだ作品に。彼らのこれまでのワイルドさもありつつも、淡さや儚さが垣間見られるEPに仕上がっています。ますます目が離せないアーティストになってきています。

10. untitled (halo) 『headbanger』

LAを拠点に活動する謎めいた3人組、untitled (halo)の新作『headbanger』。友人のDJパーティーやライブで顔見知りだった3人で組んだというグループ。今作のEPでM3~6がurika's bedroomが共同プロデュースで参加。
全体的にダウナーでメランコリックな空気感が漂っていて、グランジやインディー・ロック、ドリーム・ポップ、インダストリアル、トリップ・ホップなどをミックスさせたダークで耽美的な音楽性に仕上がっています。インダストリアルを組み込んだ深く沈み込むようなビートに、グランジの要素を含んだギターや時には煌びやかなギター、シューゲイザーのような轟音。そこに夢見心地で幻想的な歌声が乗るという、エッジの効いた質感のサウンドには個人的にも驚きました。Sword IIやjulie、Her New Knife、そしてurika's bedroom含めて、今のUSのバンドシーンはとんでもないことになってますね。

9. Merges 『Agnus』

LA拠点に活動するシンガー・ソングライター、Mergesが新作EP『Agnus』をLAにあるインディペンデントレーベル〈Over Everything〉からリリース。
インディーフォークを経由しつつ、Frank OceanからWetまでを想起させる、ミニマルかつ洗練されたR&Bやエレクトロニック、アンビエントなどを盛り込んだ作品に。彼女の耽美的でソウルフルな歌声も相まって郷愁を感じる音楽性もとてもいいです。めちゃくちゃやばい新人とわかるのはセッション動画を見ると一目瞭然です。歌声の際立ち方がやばい。

8. Quiet Light 『Contact』

テキサス・オースティンを拠点に活動するシンガー・ソングライターRiya Maheshによるソロプロジェクト、Quiet Lightが新作EP『Contact』をリリース。2023年だけでEPやアルバム含む作品を3枚という、とんでもないスピード感で楽曲を発表しています。2020年ごろのデビューEPの時の作品を聴くと、ベッドルーム・ポップやインディー・ポップを軸とした、Ethel Cainを彷彿とさせるシンプルな宅録作品でしたが、徐々にアコースティック・ギターを取り入れたフォークなどのオーガニックな弾き語りに。ポップサウンドにマッチした甘美ではりのある美声から、時折見せるダウナーでダークな歌声という幅にも虜になってしまいます。
2023年あたりからそのフォークに、エレクトロニックやアンビエント、 ニューエイジなどを取り入れた実験的な試みをするようになったそう。淡く煌びやかな電子サウンドに、ナチュラルでフォーキーなメロディーが絡み合う音楽性は、とても奇妙で美しいです。

7. Chloe Qisha 『Chloe Qisha』

今年のベストソングでまとめそびれてしまいましたが、個人的にはかなり注目しているマレーシア出身でロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、Chloe QishaのデビューEP。全曲が衝撃的にいいです。Talking HeadsからLCD Soundsystemからの影響を感じられるファンクやディスコ・パンク、Christine and the QuunesからHolly Humberstoneにも通じるポップさも兼ね備えたとんでもない才能を感じます。今後もっと化けるに違いないです。

6. Babymorocco 『Amour』

ロンドン拠点に活動するアヴァンギャルドなアーティスト/プロデューサーClayton Pettetによるプロジェクト、Babymoroccoがデビューアルバム『Amour』をリリース。Frost Childrenも客演で2曲ほど参加してます。
とりあえず一言でやばいです。グリッチやdigicoreから、ニューレイブやディスコ、ダンスミュージックなど全てのヤバい音を凝縮させて、最後まで激踊りさせる中毒性の高い作品に。もうとにかく何も考えずに聴いてほしいです。

5. Nectar Woode 『Nothing To Lose』

ガーナーをルーツに持つイーストロンドン拠点に活動するSSW、Nectar WoodeがデビューEP『Nothing To Lose』をリリース。サックス奏者の父とファッション系のアーティストの母の間で生まれ育ち、影響源はErykah BaduやD’Angelo、Lauryn Hill、そしてCleo Solからも受けているんだとか。
ゴスペルやジャズ、ネオソウルを下地に、インディー・ポップなどの要素も加え、色鮮やかに織り交ぜて、オーガニックで柔和な音楽性を奏でています。特筆すべきは、彼女のとろけるような多幸感あふれる優美でソウルフルな歌声。繊細でありながら壮大な美声には多くの人がやられるのではないでしょうか。Olivia DeanやEgo Ella Mayなどの同世代アーティストにも通じるような才能を兼ね備えていると感じます。

4. LUCA 『Decisions』

NYのハーレム出身のベッドルーム・ポップ・アーティスト、LUCAがデビューEP『Decisions』をリリース。幼少期から音楽に触れてきたそうで、モータウンやR&Bに影響を受けてきたそう。彼がArayaのアルバム『Ethos』で客演で参加したりとしています。
インディーR&Bやネオソウル、ファンク、ディスコなどを絡めたダンサブルでメロウな音楽性が特徴的で、特にギターを主体とした流麗なサウンドが際立っています。グルーヴィーなアフロファンク的な要素なども取り入れた滑らかな曲調が最高で、そこに彼の甘美でとろけるような美声が入ることでさらに陶酔的で中毒性のある仕上がりとなっています。Steve LacyやOmar Apolloなどの空気感を持ち合わせた次世代的なアーティストかと個人的に思います。

3. Tiny Habits 『All For Something』

USのボストンを拠点に活動するトリオ・アーティスト、Tiny Habitsがデビューアルバム『All For Something』をリリース。彼らは音楽大学の名門バークリー音楽大学で出会い結成。そこからTikTokに彼ら自身の演奏をアップロードし始めたところたちまちバイラルヒットをして、2023年はGracie Abramsのツアーのゲストアクトに抜擢されるなど大注目の新人アーティストです。このブログでもだいぶ前に紹介したLaufeyもTikTokでバイラルヒットを果たして、今や世界的に有名なアーティストになっていますが、彼らも同様な側面から歌の上手さや独特のハーモニーとグルーヴで人気を博していきました。
彼らの特徴はアコースティック・ギタをベースとした牧歌的で滑らかなインディー・フォーク・サウンドに、クワイアやジャズなどのバックグラウンドを活かした3人のコーラスワークがユニークで、その美しいハーモニーに癒されます。Bon Iverから影響を受けてきたboygenius、The Japanese House、MICHELLEなどに続く、素晴らしい才能を秘めたアーティストだと思います。

2. Dawuna 『Naya』

ウガンダをルーツに持つNY拠点に活動するSSW/プロデューサーIan Mugerwa、によるプロジェクトDawunaの新作EP 『Naya』。もともとNicolas Jarrに見出され主催のレーベル〈Other People〉より"ot to, not to"名義で作品を出していたようで、その頃からエクスペリメンタルな音楽性で世界各国のリスナーを虜にしていました。
今作でもその才能は存分に発揮されており、煙たくベールに包まれたようなムードのサウンドスケープに、深く沈み込むベースラインとビートが溶け合う音楽性が特徴的。ジャズからソウル、ブルース、民族音楽、エレクトロニックなどの幅広さでリスナーを包み込み圧倒する。この作品を一聴すればわかるはずです。エアリーで甘く優美な歌声も耽美で、オートチューンなどでの加工の仕方もまた一興。ChokerやDijon、Mk.gee、Nourished by Timeなどにも通ずる新たな天才かと個人的に思います。2023年に発表したデビュー作もまたやばいので合わせてぜひ聴いてほしいです。

1. Bricknasty 『XONGZ አስቀያሚ ጡብ』

Jorja Smithら擁する〈FAMM〉所属、ダブリンを拠点に活動するソウル・ヒップホップコレクティヴ、、Bricknastyの新作ミックステープ。2023年のベストEPにも選出しています。D’AngeloやMF Doom、Timbalandなどから影響を受けたという彼ら。今作は客演にOscar JeromeからF3miiiやAby Coulibalyといった名だたるUKのアーティストたちが参加。
Dijonの新作『Absolutely』のライブのスタイルを組み込んだかのような、ソウルフルでエナジー溢れるサウンドで、その縦横無尽な演奏スタイルには脱帽。UKからのUSのDijonへの回答といったような作品でしょうか。2023年の作品からこの進化は本当にやばいです。


少し長くなってしまいましたが、2024年の期待の新人アーティスト50選でした。EPからミックステープなど様々でしたが、2024年聴いた中でこれぞというアーティストを選んでみました。
2024年の作品を振り返っていてわかったことはやはりグランジ的なサウンドがキーになっているような気がします。あとはムードとして全体的にダークでメランコリックなものが多く、退廃美やオーガニックな方向を感じる作品も見られ、現状の世界を反映しているように思えます。少しその関連したコラムも書けたらなと思っていますが、いつ公開になるかはわからないです。
とりあえず2025年も出来る限りいろんな新人をこのブログ内で紹介していきますのでお楽しみに。SpotifyとApple Musicのプレイリストでもまとめていますのでぜひ振り返ってみてください。


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