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さよなら水原夏子
森山みつきさんへ
昨年8月19日より日本各地の劇場で上映されてきた『野球どアホウ未亡人』が、今年12月19日のヒューマントラストシネマ渋谷での上映を以って、映画館での上映を終えます。
今後もイベントや映画祭などで単発の上映は続くかと思いますが、それは「どアホウクルー」などとも呼ばれるファンの方々へ向けての上映で、こうやって1週間以上も一本立てで劇場でかけてもらう機会はこれが最後です。
本当は最終日となる19日に舞台挨拶でも行えたらケジメをつけるのにちょうど良かったのですが、劇場のスケジュール的に厳しいそうで、残念ではありますが、新作映画も目白押しの中で、1年4ヶ月前に公開した映画がこうしてしれっと公開されているだけでも、ありがたいことなのだと諦めました。
実際、渋谷での上映は我々製作陣にとっても、青天の霹靂というと大袈裟ですが、今年9月にDVDが発売され、それに併せて愛知、東京、大阪でイベント上映を開催して、12月には動画配信サイトで配信されることも決まっていたし、もうこの映画の役目も終わったと考えていたところに、突如渋谷の、しかもシネコン系の映画館での上映のお話が舞い込んできたのですから、これにはさすがに驚きました。
東京での上映も久しぶりだったし、渋谷という新しい土地での上映ということもあり、まだこの映画を観ていない方にも来ていただこうと、従来のポスターを一新し、渋谷のスクランブル交差点で新しく撮り下ろしました。その際、森山さんと藤田健彦さんの参加が不可欠でしたが、上手くタイミングが合い、撮影も滞りなく進み、新ポスターが出来上がるとファンの方にも好評のようで、ホッとしました。
ヒューマントラストシネマ渋谷での初日以来、従来の「どアホウクルー」の皆さんに加えて、新しいお客様の方々もチラホラ見え、ひとまずこの上映は成功したのではないかと思います。
昨年8月の初公開のとき、森山さんは「ちゃんとお客が入るのだろうか」と心配なさっておられたのを覚えております。私も同様に心配していました。
この手の映画が報われる道を考えたとき、映画祭で何か賞を獲ったり、映画評論家のお墨付きがあるわけでもなく(後日くれい響さんの援護射撃がありましたが)、社会的な意義のあるテーマを含んでいるわけでもない(本当はこの映画にもそういう要素はあるのですが、あくまでパッケージとして見たときの印象の問題です)、こういった「娯楽映画」が最後の拠り所とするのは、それは「多くのお客に来ていただく」ということ以外にありません。これで劇場がガラガラだったりしたら目も当てられないでしょう。
あとあと再評価されるケースもあるでしょうが、いまの私たちにとっては何の慰めにもなりません。
そんな私たちの不安が今となっては笑い話にできるのも、予想に反して多くのお客様に来ていただけたからであり、それから1年4ヶ月も経ってまだ上映しているからです。
しかし、たまにふと考えるのは、こうして『野球どアホウ未亡人』(以下、『どアホウ』と略します)が上映され続け広がっていくことが、森山さんにとって本当に良いことだったのだろうか、ということです。
この1年4ヶ月、公開に関して特に戦略を持たなかった製作陣は、各地で劇場公開が決まる度に森山さんをはじめキャストたちを連れ回しました。
イベントをやるとなれば森山さんたちに頼りきり、特典を作るとなったら着物を着せたりなどして、オモチャのように扱ってしまったのも事実です。「束縛からの解放」というのが『どアホウ』という作品の重大なテーマであるにも関わらず、結果的に製作陣が森山さんを縛りつけてしまったのかもしれません。
森山さんが我々製作陣のリクエストに懸命に応えて下さったからこそ、そこに甘えてしまいました。
反省は多々ありますが、私にとって、本当に楽しい1年4ヶ月でした。
ファンの皆さんもそれを面白がって下さったのか、この映画の公開以降、森山さんのファンが増えたというのは、ハタから見ても明らかでした。森山さんが出演している映画が公開されると、そこへ『どアホウ』を観たファンがやって来て賑わったりしたという情報を聞くと、外野である私も嬉しく思ったものです。
ただ、森山さんが『どアホウ』の他に出演した映画が、森山さんに定着したイメージを覆す程の力があったのかというと、そこは疑問です。
もちろん、主役、端役の違いもあると思います。主役となれば自然と出番も増え、印象に残るのは当たり前です。
しかし、森山さんが主役級の映画で、『どアホウ』を、「水原夏子」というキャラクターを超えるものがあっただろうかと考えると、私には思い浮かびません。森山さんが出演した映画をすべて観ているわけではありませんので、ひょっとしたらそんな作品もあったのかもしれません。
勿論、『どアホウ』が素晴らしく出来の良い、完璧な映画だとは申しません。欠陥だらけの部品を強引に一つの映画としてまとめたら、歪だが妙な迫力を持ってしまった、世の中では奇作とか珍作とか迷作とか呼ばれる類の映画です。
ただひとつ言えるのは(これはDVDのライナーノーツにも書きましたが)、森山さんが出演した映画で『どアホウ』より面白い映画が今のところ出てきてはいない、ということです。私はそう勝手に考えています。
いくら森山さんが良くても、映画が面白くなければ評価には繋がらないでしょう。
森山さんは『どアホウ』の撮影以降、様々な映画に精力的に出演なさっておられますが、その役柄(ひいては映画全体)は、『どアホウ』とは違う、もっと深刻で、地に足ついたものが多く見受けられます。
きっと、『どアホウ』で定着したイメージを払拭なさろうと考えてのことだと思います。森山さん自身の資質や趣味が、そういった作品に向いているということなのかもしれません。あるいは、『どアホウ』みたいな映画(あるいは役柄)はこれだけで充分だ、と考えておられるのかもしれません。
それらがもし本当だとして、それについて私は否定しません。第一、『どアホウ』みたいな映画が二つとあっても困ります。
私のところにも、「続編を作って下さい」という声がよく届きます。大変ありがたいですが、「野球どアホウ未亡人2」を作るつもりは毛頭ありません。ハリウッドでリメイク出来るというなら話は別ですが、同じような規模感で続編を作ったところでたかが知れているし、やっててつまらないでしょう。
思うに、私にとっても森山さんにとっても、『どアホウ』というのは案外大きな壁に育ってしまったのかもしれません。これを乗り越えることは容易なことじゃないのだと思います。
しかし、我々はもう一つ、新しく大きな壁を作るべきなのだと考えます。少なくとも、それを目指すことが、映画に出演し続けたり監督したりし続ける為の最大のモチベーションとなるに違いありません。
『どアホウ』と別れるときがようやく来たのだと思います。
実際、『どアホウ』はこれからは配信やDVDが主戦場になるし、そうなると我々の手からは離れていきます。
渋谷での上映は、我々が直接携われる最後の機会だったのだと思います。
映画館を出てきたお客様が、喜んで下さったり、あるいは酷評なさったり、また何度も足を運んで下さったりする、そのどれもが新鮮で貴重な、かけがえのない1年4ヶ月でした。
そんな体験や時間を、森山さんと共に共有できたことを心から嬉しく思います。
2024年12月19日(木)20時20分、ヒューマントラストシネマ渋谷での上映をもって、『野球どアホウ未亡人』と我々の、長い旅は終わります。
森山みつきさん、この1年4ヶ月、よく付き合って下さいました。
長い間、本当にお疲れ様でした。本当に、ありがとうございました。
そして、
さようなら、水原夏子。
小野峻志
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『野球どアホウ未亡人』
ヒューマントラストシネマ渋谷にて12月19日(木)まで上映
劇場HP:https://ttcg.jp/human_shibuya/movie/1164800.html
公式HP:https://doaho.united-ent.com
公式X(旧Twitter):@ONOKANTOKU