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脚本・堀雄斗〜『浮気なアステリズム』と『喫む女』〜

今年2月19日(日)に池袋シネマ・ロサで上映されるカブ研究会製作の2本の映画『浮気なアステリズム』と『喫む女』(のむおんな)について両作の監督である私がつらつら書き連ねます。

劇場HP↓

二作の制作経緯についてはこちら↓

『浮気なアステリズム』の企画アイデアを思いついたのは私である。
そのアイデアをざっくり要約するとこんな感じだ。

〈桜井三枝子が宇宙人の元カレ・植木ヒロシの  行方を追って、同じく宇宙人の犬塚チャコ、三枝子の婚約者・石橋和之と共に旅に出る。旅先で三枝子はヒロシと再会するが彼には内縁の妻・谷栞がいた…。〉

コレ、劇場のHPにあるあらすじをソックリそのまま引用したのだが、ここまでがつまり私のアイデアで、令和の土屋嘉男こと関英雄が演じる「宇宙パトロール隊」なる存在は登場していなかった。

この「宇宙パトロール隊」のアイデアは脚本を書いた堀雄斗によるものである。

私の初期構想では、宇宙人が登場するようなスケールの大きな話が、男女の痴話喧嘩に終始するというミニマムな世界に収まっていくという、まさか『うる星やつら』が令和に新作アニメとなって復活するとは思ってもみなかったときに考え出したものなのだが、堀が書いた脚本(その元になるプロット)によって、地球人と宇宙人の男女の他に宇宙パトロール隊という「第三の要因」が登場し、お話が大きく違う展開を見せることになった。

このように、堀が脚本に加わると、物語がそれまでと次元の違う展開を見せることがよくある。

シネマ・ロサで以前上映した『拾って捨てろ!』という映画もそうだった。

私が提示したアイデアはゴミ拾いが極端に好きな主人公、というただそれだけのものだったが、そこに東京五輪を目前に控えた街の清掃活動に熱心な団体と不良高校生軍団との対立の構図を持ち込んだのは堀なのである。おかげで映画は謀略と殺戮が全編を占める極めて陰惨なものとなった。

私の思いつきのアイデアを、よりスケールの大きな物語にしているのはいつも堀雄斗なのである。

製作資金なんてほとんどない弱小自主映画には到底収まりのつかない規模のデカい話をぶつけてくる彼の資質は、恐らく彼が大好きな筒井康隆の(とりわけスラップスティックな)小説からきていると思われる。

ちなみに私も筒井康隆は大好きだ。特に、日常の些細な異変から世界を巻き込む大きな事件に発展していくような作品がたまらなく好きだ。

だが、それを映画にしようと思ったら日本の商業映画、いやハリウッド映画級の予算を投入しなければ実現は難しいと思われる。ましてや自主制作映画には不可能なのだ。

だが、堀雄斗にはその辺のことが分かっていない。分かっていないのか何とかなると思っているのか、どんどん悪ノリする。私もそれに釣られて、物語はどんどん肥大化する。

こうして出来上がった脚本を、さあ撮影するぞとなったときに、監督の私は頭を抱える。一体どうやって実現するんだこんなもん。

予算との兼ね合いも考えて改めて脚本をリライトし、あるいは撮影直前に脚本を改訂していく作業に入る。

『拾って捨てろ!』も『浮気なアステリズム』もこうして出来上がった。

私の映画が「予想の斜め上をいく展開」「ぶっ飛んだ物語」などといわれる原因は、堀雄斗のせいなのだと、声高に訴えたいと思う。

では、堀の思惑が一切介入しない、私の意思だけで出来上がった脚本はどうか。

『喫む女』の脚本は私が1人で書いた。とにかく煙草が好きでやめられない女と、女に煙草をやめさせたい男たち、という最初のアイデアから、初めから予算のことを頭に入れ、極めてコンパクトに脚本はまとめたつもりだ。

しかし、観た人の感想の中に「予想もつかない展開」という言葉があった。

なぜだろう。堀雄斗はこの企画には絡んでいない。私も特別ぶっ飛んだことをやろうと思ってこの映画を作ってはいない。にも関わらず「予想もつかない展開」という事態になったのはなぜか。

ここに堀雄斗と私の資質の違いがあるように思える。

堀の方は、最小のアイデアをいかにエンターテインメント化するか、その術を心得ているのだと思う。こうすれば映画として成立するという哲学というか方法論を持っているのだ。

私はというと、一旦生み出したアイデアとキャラクターを、突き詰めていくとどうなるのかという考えで脚本を作っていく。突き詰めて進めていった先に、物語がフィクションへと一気に飛躍する瞬間が訪れるのを望んでいる。そうして出来上がったお話が、「ぶっ飛んだ」とか「予想もつかない」などと言われるのだ。

『浮気なアステリズム』と『喫む女』は、同じ「カブ研究会」の映画だが、堀雄斗と私の微妙な違いを感じるのにうってつけの2本だと言える。そんなことを知りたい人がいるのかどうか知らないが。

『浮気なアステリズム』
『喫む女』
2023年2月19日(日)
池袋シネマ・ロサにて20:00〜上映


『浮気なアステリズム』
2021年/71分
出演=坂本憲子(現、璃音)、田口夏帆、小板橋みすず、田中陸、古矢航之介、関英雄
製作=カブ研究会、監督=小野峻志、脚本=堀雄斗、音楽=中澤洸紀、撮影=松原晃平、照明=及川凱世、美術=米岡秀宣、録音=田中柊子、編集=橋本悠平、スチール=金田一元

『喫む女』
2022年/14分
出演=小板橋みすず、田中陸、哲太郎
製作=カブ研究会、監督・脚本・編集=小野峻志、撮影=齊藤凌平、照明=及川凱世、録音=田中柊子、音楽=中澤洸紀・工藤直也、音響効果=田中柊子、スチール=ojo、カラリスト=田中諭

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