20240830-31 開ききった魔法 #佐野 #葛生
前橋まで冥丁のLIVEを見にいくことになったので、その前日に佐野の友人に会いに行った。そのまま友人宅に一泊させてもらい、翌日すこし佐野と葛生のまちを歩いてから前橋へと向かった。
8月前半に野沢温泉村~松本~八王子と旅をしたときに使った青春18きっぷの余りが3回分あったため、そのうち2回をこの旅行に使う。(余談だが、今年冬期から青春18きっぷのルールがかわり、5日間連続で使わなければならなくなった。私がこのきっぷを使っていたのは、5回分を1回ずつ日付をあけて使うことができる、というとんでもなく便利な機能のおかげなので、今後つかうことはなくなると思う。寂しい。)
仙台から東北本線をひたすら乗り継いで南下する。黒磯あたりから宇都宮線、小山から両毛線。6時間半くらいで佐野に着いた。
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もうすっかり暗くなっている。友人との合流場所として設定した宮脇書店佐野店に向かう。
東武佐野線の路線をくぐる。自分の足音や車の通る音の聴こえ方が変わる。高架をくぐるときはそのまま世界が変わってしまう感じがしていつもわくわくする。
佐野といえば佐野ラーメン、ということもあって、街のいたるところに「ラーメン」という表示がある。そういう風景なのだ、と納得しかけていたそのとき、視界の左斜め上、アパートのような建物の上部に「ラー メン」と書いてあるのが映った。配管に遮られて「ラー」と「メン」に分離している。その赤黒い字をみたとき、何かが衝撃的に不思議な感じがして、思わず立ち止まった。
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イオンタウン佐野に到着。1階には関東圏でお馴染みのスーパーカスミが入っている(つくば時代にお世話になった)。宮脇書店は2階にあるようなのでエスカレーターに乗る。2階はいいかんじに寂れている。
本屋に入ってやることは郷土本を漁ることしか無いので、とりあえず郷土棚を探すが、地図コーナーにほんのちょっと置かれているだけで味気ない。仕方なく専門書や文庫やマンガの棚を見て時間をつぶす。
とても意外なことに、仙台ではどの本屋で探しても一切置いていなかった『負けヒロインが多すぎる!』1巻がラノベコーナーにふつうに平積みで置かれていた。声が出てしまった。アエル丸善どころか、喜久屋書店でさえ売り切れていたのに…。こういう地域のふつうの本屋のほうがねらい目なのかも。うれしい。藤高和輝『バトラー入門』と一緒に購入。
友人が到着し、彼の車でひとまずアパートへ。
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アパートに入るなり、部屋の入り口でコカマキリと遭遇する。友人が怒りながら追いはらう。その後、部屋に荷物を置いて外に出ようとすると、こんどは緑色の綺麗なオオカマキリと出会う。さすがに2匹目は笑ってしまう。カマキリと一緒に住んでるのか。
さらに、アパートのエントランス部分に巨大なゴキブリが鎮座しているのを見て、どわーっみたいな声をあげてダッシュで逃げた。「普段からこのアパートはカマキリ2匹とゴキブリ1匹を擁しているのか?」と聞くと、「いや、ゴキブリはめったに出ないし、カマキリははじめてみた」とのことだった。仙台から持って来たんじゃないか、と逆に疑われた。
つくばに住んでいたとき、アパートにクワガタがやってきていたことを思い出した。毎年アパートの廊下でクワガタを見かけたら「夏だな」と感じていた。北関東ではアパートにカマキリやクワガタが訪れるのだ。
友人に美味しい佐野ラーメンのお店に連れてきてもらった。空腹に染み渡る旨さだった。
その後は銭湯にいったあと、友人の部屋に戻って、お互いの仕事のことや最近の旅のことを報告しあった。わたしは野沢温泉村や松本のことを話して、彼は黒部ダムやフォッサマグナや白川郷のことを話した。旅の話になるとお互い熱が出てきて、写真や資料を出し合いながら話していた。
やがてわたしの制作の話になり、「風景誤読」のアイデアについて彼からいろいろとコメントをもらった。「風景誤読」はそもそも、「誰か(ひと)」と「何処か(場所)」をむすびあわせてしまう視線をつくる制作なのだが、この旅のなかで「友人」と「佐野」をいままさにむすびあわせながら、その彼から制作についてのコメントをもらうことにメタ的な面白さがあった(誰にも伝わらない面白さではあるが)
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翌日、友人が車で前橋まで送ってくれることになった。そのまえに佐野駅前の商店街を中心に二人で歩いてみることにした。
車を市役所ちかくの駐車場にとめて、歩き始める。どういうルートで、何を目的にあるくか、ほとんど何も決めていない。前記事に書いた通り適当な下調べはしているが、いもフライを食べたい、佐野の中心部をあるきたい、以外の欲求が生まれなかった。むしろ困ったら隣を歩く友人に道を選んでもらうくらいの丸投げ感で歩き出した。この行く宛のなさに何も言わず付き合ってくれる友人もなかなかだと思う。
佐野市南東に「イオンスタイル佐野新都市」「佐野プレミアム・アウトレット」と巨大な複合商業施設があり、相対的に佐野駅前の昔ながらの街並みは旧市街地としてどんどん衰退しているらしく、歩いていると空き店舗が目立つ。典型的な地方の駅前の風景だと言ってそれで終わりにするのはかんたんだが、実際にあるいて、眺めて、たちどまって、つぶさに眺めなおして、また歩き出して・・・と繰り返していると、誰にも見つかっていない(新鮮な)変なもの、面白いもの、よく分からないものをたくさん収穫できる。
友人も佐野駅前をあるくことはほとんど無いらしい。「なにこれ」とか「汚すぎるだろお前は」とか「暗渠だ」とか、二人でひとつひとつ小さな声で反応しながら自由に歩いている。どちらかが「まぁ、こっち行ってみよう」と言って、もう片方が無言でついていく。
駅前はちいさな戸建住宅で埋め尽くされていて、その合間合間に廃れた飲食店や床屋や病院が申し訳ていどに建っている。そして、ほんとうに狭い路地が縦横に縫い合わされている。
道がとにかく良かったので、道の窮屈さばかりを覚えている。
大正通りを歩いていたら気になる建物があったので観察する。
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かなり歩いたので、満足した。佐野名物「いもフライ」を買って車に戻ることになった。
Googleマップを見たらちょっと歩いたところに飯島商店というお店があると分かった。営業時間は書いていなかったので嫌な予感がしたが、着いてみるとシャッターが下りている。
「伊達小路」という謎の路地があったので入ってみる。この立派な古民家はどうやら書道教室のようだ。調べてみると、伊達医院という古い病院の建物を利用して月2回ひらかれているらしい。おそらくこの看板はその教室のつくったもので、「伊達小路」も個人的に命名された通り名なのだと思う(ネットで検索しても出てこない)。
配管の陰に挟むような雑なやり方でしっかりした看板(作品)を設置しているちぐはぐさに、「公共物である道に私的に名を与える」という密やかなパフォーマンスの危うい位置を感じられてしみじみとする。そして、第三者であるわたしがこの隠れたパフォーマンスに出会い、誘われるようにして入り込んでしまった、そのめぐり合わせに胸打たれた。すべては路地という公私の境界的な空間だからこそ成立することなのかもしれない。
と、ここまで書いて、公道であることを勝手に前提して面白がっていたが、ただ単に私道なのかもしれないと気付いた。でも公道であって欲しい。そのほうが面白いから。私道で好き勝手やることと公道で思い切って遊ぶこととでは決定的な違いがある。
ずいぶん歩いた。Googleマップはこのあたりに橋本商店といういもフライのお店があると言っている。営業中の表示もある。
いもフライに嫌われているのか?「閉店してるんじゃない?」と友人があきれたように笑う。そうだとしたら深刻な問題だ。もう1軒行ってみる気力が残っていなかったので、いったん諦めて車に乗り込む。友人の運転で葛生に向かう。
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葛生中心部の「ととや」という定食屋にはいる。
店主と思しき男性は厨房で調理担当。おばあちゃんが一人でホールを担当していた。席に座って注文をして待つ。しばらくして友人の水が運ばれてきたあと、ほかのお客さんが来てオーダーをとったりしているうちにわたしの水のことをすっかり忘れてしまったらしく、いつまでも水が来なかったので「すみませんーお冷、いただけますか?」と声をかけてみると、「あら!ごめんなさい。私もう、こんなおばあさんだから、どーたらこーたら・・・」と言い訳とも自虐ともつかない語りがはじまった。そんなこと全然気にしないし、何とも思っていないので、「いや、そんな・・・」とにこにこ笑いながら聞いていると、語りの終わり際に「もう~・・・お払い箱だ。お払い箱だね!」と言って去っていった。忘れることは誰にだってありますよ、とかそんなことを言い挟む余地など無いほどの断言だった。
その後、葛生伝承館と吉澤記念美術館をまわった。
吉澤美術館の収蔵企画展「現代陶芸の「すがた」と「はだ」」は見ごたえがあった。もっとも友人は美術にも陶芸にも何の興味もないので退屈そうだったが(企画展のチケットを買うこともためらっていたが)、「御神渡り」という作品のまえに立ったとたん、「あ、これは諏訪湖の御神渡りがモチーフなんだね、おそらくあの縦に入っている青い線が氷の裂け目を表現していて・・・」とべらべら語りだして面白かった。
佐野市葛生地区は石灰の町として栄えていたことから、地域資源×アートの文脈でフレスコ画が制作され、さまざまな場所で展示されるようになったという。
葛生をゆっくり歩く時間はなかった。そのへんの店で念願のいもフライを購入して車に乗り込む。友人に前橋まで送ってもらう。
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雨の前橋で適当に車を降りる。佐野の友人は近いうちに他県へ引っ越しをするらしい。せっかく佐野というまちと少しずつ親しくなってきたのに、もう君は佐野から離れるのか・・・と思うと寂しい。また二人で佐野に行こう、まことに世話になった、ありがとう、と別れる。
あとで友人から「うちのカマキリとゴキブリとカナブンとクモも寂しがってるよ」とLINEが来た。なんかペットが増えてる。