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ドリアンで幸せになれる幸せ

元旦の夜、夜食のポテチタイムに娘に熱心に商店街で見かけたドリアンの話をしていたら「買ってきて」ということになりました。

「え、ドリアン、買ってくるの?」

「買ってきて」

「臭いらしいよ。うんこの匂いらしいよ」

それを聞いて心の底から嬉しそうな娘。そうだよなあ、うんこの話、大好きだもんなあ。

「わかった。じゃパパ、明日買ってくるよ。うんこの匂い。買ってくるね」

娘は最高の笑顔です。こんなに邪念の無い笑顔は久しぶりに見るよ。多分、私も娘と同じぐらい笑顔だったのだろうと思います。だって楽しいじゃないですか、ドリアン。美味しそうだし。臭そうだけど。

ということで、明日はドリアン買ってくるね〜、という話になりました。娘と「ワクワク」と言いながらニコニコしてしまいました。楽しみだね〜、ドリアン。

娘はそのあと夜中に何度もトイレと飲み物。やめてくれ〜。

朝、遅めに起きました。今朝はお汁粉の予定です。

「お汁粉食べる?」

出てきました。お汁粉ときなこ餅。きなこ餅はやや砂糖が足りなかったものの美味。お汁粉は文句なく美味。クスリを飲んですぐに寝ようとする娘の引き止めてコーヒー。

「ドリアン買ってきて」

「え、ああ。買ってくるけど、まだ早いからあとでね」

既に嬉しそうな娘。そうかあ、ドリアン買ってくるだけでこんなに嬉しそうなのかあ。

「でもさあ、もしかしたら売り切れてるかもしれないから、そのときはなんか違うの買ってくるね」

店頭に沢山あったので売り切れてはいないとは思うのですが、期待が大きいとダメだった時の落胆も大きいので念の為。

「お店の前に置いてあるんだけど、まだ青かったから、少し熟成させないとダメかもね。食べ頃が難しいらしいんだよね」

昨夜から色々と調べています。青い状態だと匂いもそれほどでもないとのこと。楽しみだなあ。最近どころかだいぶ前からこんなに娘と気持ちが一致することは滅多にありません。今回はお互いに臭いドリアンが楽しみで楽しみで。なんかこういうのっていいよなあ。

洗い物したり洗濯したり。お昼と夕食のためにご飯も研いでおかないと。

バタバタしてたら娘がやってきました。

「なに?」

「ドリアン買ってきて」

「ん、ああ。買ってくるけど洗濯終わってないから干してからね」

洗濯物を干してご飯も研いで。まだお昼前なのでもういっぱいコーヒーでも飲むかと思っていたらまた娘がやってきました。

「ドリアン……」

「わかったから。買ってくるから。わかったから」

なぜ、急かすのか。(元)妻と一緒だな。本当に悪いところばっかり似やがって。

「もう一回『ドリアン買ってきて』って言ったらもう買ってこないから」

私がそう言うと悲しそうに部屋に戻る娘。なんかこう、感情の起伏が復活しているのがいいっちゃあいいんだけど、ドリアンでって気もします。ドリアンでこんなに感情が動かされるのってどうなのよ。

お昼ごろになってようやく出ることにしました。

「お腹空いてない? なんか食べる?」

「あとでいい」

早くドリアンを買ってこいということか。そうなんだな。わかったよ、買ってくるよ。

(元)妻が骨折した時に冷凍食品を運ぶために買った保冷リュックを引っ張り出して、中にビニール袋と新聞紙を用意しました。袋に包んでこのリュックに入れておけば万が一既に臭くても臭い漏れはかなり防げるはずです。

「行ってくるね」

「んあ」

めっちゃ嬉しそう。ドリアンかあ。ドリアンのおかげでこんなに嬉しそうなんだな。わかったよ、買ってくるよ。

自転車だとすぐなのですが、いつものように歩きです。それでもけっこうすぐに到着。商店街の外れのほう。ありました。昨日なんとなく見た時はもっと青っぽかった気がするけど、改めてよく見るとけっこう茶色いし匂いも既に香しい。これは既に食べ頃なのでしょうか。なにぶんドリアンは食べたことがないのでよくわかりません。しかも値札がついてない。いや、ついてるのもあるけどついてないのもある。ついてるのを見ると6千円超え。でもでかいんだよな。そんなもんなんだろうな。

お店の若い店員さんに声をかけました。

「外のドリアン、おいくらですか?」

どうやら言葉はほぼ通じない模様。一緒に店の外に出てドリアンを見ます。

「ドリアン?」

「ドリアン」

「いくら?」

値札を探す店員さん。

「いや、こっちにはあるけどこれにはないね」

値札をがついているのとそうでないのとを指差すと通じた模様。

「にせんさんびゃくごじゅうえん」

「一キロ2350円?」

通じたようです。そうか、なるほど。

店内で測ってもらって6053円でした。

「6000円でいい?」

いちおう聞いてみました。が、まったく通じていない。うむ。

「日本語できない?」

「にほんごべんきょうちゅう」

「Can you speak English?」

「ああ、ええ……」

英語もできないようです。

「すごいね。ユーアーグレイト。ありがとう。サンキュー」

ベトナム語で「おいくら」と「ありがとう」ぐらい予習しておけばよかった。言葉の通じない異国でひとりで店番とか、本当にすごいな。私には無理です。

私の次のお客さんふたりはネイティブのベトナム人で店員さんと普通に会話していました。原則的にそういうお店なんだな。

そのあと、「おかしのまちおか」でポテチを買っていつも通らないあたりを歩いて帰宅。帰り道のスーパーで刺身を買おうかと思いましたが、背中のリュックから微妙に匂いが漂っている気がして断念しました。

帰宅。

「買ってきたよ。ドリアン」

「んあ」

めっちゃ嬉しそう。多分私も嬉しそう。

「もう臭いよ」

「臭いね」

どうしてこんなに嬉しいのか。

「なんかもう食べられそうだけど、もう少し熟成させたいから明日か明後日食べるから」

「んあ」

本当に、ドリアンひとつで娘も私も心の底から嬉しそう。楽しすぎる。

そのあと近所のスーパーで刺身盛り合わせを買ってきて帰宅したら室内の匂いがすごいすごい。これはホテルや飛行機で持ち込み禁止になるのわかるわあ。

でも不思議なぐらい嫌な感じはしないんだよな。なんでだろう。確かに腐敗を感じる匂いではあるけど果物が熟した匂いだからそこまで不快に思えないんだよな。

昼食の刺身盛り合わせ、中トロがとても美味かったのですが娘が「食べていい」と聞くので私は一切れだけでした。鯛もだ。

「ドリアン、やっぱ外から帰ってきたらすごい匂いだったから、こっちの部屋に置いとくね」

こっちの部屋とは娘が寝ている和室です。玄関から一番遠いのです。電子ピアノの上に新聞紙を広げてそこにドリアンを置きました。

「明日か明後日、食べようね」

ドリアンの匂い、クセになるなあ。なにかに似てると思ったけど、熟しすぎたマンゴーだ。あれとそっくりだ。

そして猛烈な眠気。ドリアンの匂いのせいなのでしょうか。娘が熟睡したのに続いて私も熟睡。起きたのは8時。娘は起きてきません。ドリアンの匂いでよく眠れているのではないだろうか。そんな気がしてなりません。

そうだとしたら、ありがとう、ドリアン。

そうでなかったしても、ありがとう、ドリアン。

買ってきただけでこんなに幸せな気分になれるとは。

ありがとう、ドリアン。

ドリアンを買いました
食べ頃がわからない
家にドリアンがあるという昂揚感

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高島利行
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