③CHICANO SOULと私
やっとこさ前回の続きを書きました。
2007年に書籍「CHICANO SOUL」が出版されたことがきっかけとなり、それまで世にほとんど知られてこなかった「チカーノ・ソウル」が、何十年の時を経て再発見され、リバイバル・ムーブメントが起きている現在。それは今やアメリカのみならず世界中に広がりはじめています。その動きがどのように波及していったのかを時系列でみながら、現代版「チカーノ・ソウル」とでもいうべき新世代のミュージシャンたちを紹介したいと思います。
まずは、書籍にあるルーベンさんの以下の記述をお読み下さい。
2008年に上映されたらしいこのドキュメンタリー映画『チカーノ・ロック』を残念ながら自分は観れていないのですが、YouTubeにトレイラーがあったのでリンク貼っておきます。
オープニングのThee Midniters「Whittier Blvd」が流れるとすぐに名ボーカリスト、リトル・ウィリーGが登場!やっぱり全編を観てみたい…
では、この映画にも出演しているというサックス奏者、というか、マルチ演奏家でコンポーザーでレコーディングエンジニアでプロデューサーでもある現在のシーンの最重要人物「ジョーイ・キニョーネス」のソロ曲のMVをまずはご紹介。
▼Joey Quinones「Don't Tell Me」(2019年)
流石はマルチ・ミュージシャン!ひとりで演ってるし、録っちゃってます笑。そんな彼が中心となり結成されたのが「Thee Sinseers」というグループ。スタジオ録音の音源もあるんですが、地元の花屋さん(!)で行った素敵なライブ動画があるのでぜひご覧下さい。
また彼は色んなミュージシャンのプロジェクトにゲスト/裏方として参加していて活動がむちゃくちゃ多彩/多忙ですが、その中でも完全K.O.されたのが、チカーノラップ界切ってのヒップスター「Baby Bash」によるソウル・プロジェクト「The Bashtones」です。
▼The BashTones, Baby Bash, Joey Quinones「Maybe It's Time」(2020年)
むちゃくちゃスタイリッシュ&ロマンチックなMV。カッコいい「ローライダー」もたくさん登場したり、この "トッぽい" 感じたまりませんね。不良好みのメロウネス!
ルーベンさんによると、こういった若いチカーノ演奏家たちによる新しい波が起こり始めたのが2017年で、まずカリフォルニア州ピッツバーグ出身の「Thee Baby Cuffs」のシングル盤リリースを皮切りに、2018年には「Thee Lakesiders」がご存知「Big Crown Records」からシングル盤をリリースしロサンゼルスで大ヒットするという流れがあったようです。
▼Thee Lakesiders「Parachute」(2018年)
キュートなボーカルに思わずキュンとしちゃいます!MVもいつの時代のものかわからないくらいノスタルジーな雰囲気が漂ってて、チョロ・ファッションでキメた粋な二人がむちゃくちゃ絵になってますね。
大人気のアーロン・フレーザーが在籍する「Durand Jones & The Indications」。メンバーにチカーノはおらず西海岸のバンドでもない彼らのことを、音源をリリースしてすぐに支持してくれたチカーノたちに感謝の意を込めて作ったという曲。チカーノ・カルチャーの重要なファクターである「ローライダー」が主役のMVです。
▼Durand Jones & The Indications「Cruisin' To The Park」(2019年)
ファルセット・ヴォイス炸裂のこの激甘ソウルナンバーは、リリースされるや否やアメリカ西海岸のラジオ局でヘビー・ローテーション・プレイされ大爆発を起こしたようです。
上記の2グループ、実はルーベンさんがプロデュースした短編映画『SOUL OF LINCOLN HEIGHTS』(2018年)にも出演しているのですが、どういった経緯で出演することになったのか5月の来日の際にぜひ直接お話をおききしたいところ。あと、この短編映画とても良いので機会があればぜひ観て下さいね(ホント感動しますよ)。
2000年代のヴィンテージ・ソウル・シーンを象徴するNYの「Daptone Records」が、アメリカ西海岸を拠点に発足させたチカーノ専門のレーベル「Penrose Records」の看板グループ「Thee Sacred Souls」のデビュー曲。
▼Thee Sacred Souls「Can I Call You Rose?」(2020年)
シルキーなファルセット・ヴォイスはスモーキー・ロビンソンなんかを彷彿させます。このMVにはローライダーの他、チカーノたちのライフスタイルの象徴のひとつとしてよく描かれる "自宅の庭で気の合う仲間たちとパーティー" をして「カルネ・アサーダ」を楽しむ様子も盛り込まれてます。そして人種は関係ないよって感じの雰囲気もとてもいい。
ちょっと話が外れますが、Sharon Jones(没2016年)とCharles Bradley(没2017年)が相次いで亡くなりDaptoneが看板ミュージシャンを失ったタイミングとクロスフェードするかのように「Penrose Records」が発足したことに何か因果めいたものを感じずにはおられません…。
どんどんいきます。
現在のカリフォルニアのチカーノ・ソウル・シーンにおいて「ナンバー1」といっても過言ではないほどの人気を誇るラティーナ歌手「トリシュ・トレド」。この曲のコンポーザー/プロデューサーは先述のジョーイ・キニョーネス。バックは彼のバンド「Thee Sinseers」です。
▼Trish Toledo (Feat.Thee Sinseers)「Thee Only One」(2020年)
エキゾチックなルックスと圧倒的な存在感。それにしてもすごいタトゥーだな…ネチっこくてドスのきいた歌声は一度きいたら忘れられません。やさぐれた昭和歌謡なんかを歌ってもバッチリとハマりそう笑。
彼女は若くして母親となり、子育てのために一度は歌手の道を諦めたそうなんですが、成長した息子さんから彼女に歌手の道にもう一度戻ること勧められデビューすることになったという超泣けるエピソードもあり。ちなみに彼女の両親はメキシコ系アメリカ人ではなく、エクアドルとグアテマラの出身だそうです。
2020年にリリースしたデビュー・シングル「Stay」が大絶賛されたラスヴェガスの "スウィートソウル&ロックステディ" グループ「Johnny Ruiz & The Escapers」。2枚同時リリースした最新シングルのうちの一曲。こちらもプロデューサーはジョーイ・キニョーネスです。
▼Johnny Ruiz & The Escapers「Oralia」(2022)
ほんのりとラテンの香りも漂う極上のクルーズ・ナンバー。曲の最後の方で "テンポダウン" してからの約60秒間はまるで夢の中にでもいるような気分にさせてくれます。もちろん彼らのレゲエ・ナンバーも凄いカッコいいんで「おいおい、ポテンシャルどんだけだよ?!」って感じです。
最後にご紹介するのが「ディスコス・レサカ」というレーベルを主宰するサンフランシスコ・ベイエリアの音楽プロデューサー「アイヴァン・フローレンス」が、80〜90年代にバリオ(メキシコ/ラテン系アメリカ人居住区)でチカーノたちに愛されていた音楽を今に再現したという、まさに「入魂」の企画盤「イーストサイド・サンホセ」より、チカーノ・ソウルの王様 "Sunny & The Sunliners" のボーカル「サニー・オスーナ」が歌う極上のラテン・ソウル・ナンバー。
▼East Side San Jose feat. Sunny Ozuna「Sometimes」(2022)
イントロからもう溶けそう…この美しいコーラスは3人組の姉妹コーラス・グループ「マリポサス・デル・アルマ」によるもの。彼女たちが歌った「アイ・ラブ・ユー・フォー・オール・シーズンズ」のカバーは "R&Bオールディーズ×クンビア" という、ありそうで無かった斬新かつ悶絶モノの一曲なのでそちらも必聴です。
長々と書いてきましたが、本当はご紹介するべき素晴らしいミュージシャンがキリがないくらいにまだまだいるんです。こういったアメリカでの一連の動きについて、書籍「CHICANO SOUL」の日本語翻訳者で、Barrio Gold Records/Music Camp, Inc.代表の宮田信さんは以下のようにおっしゃってます。
なるほど…たしかに現代版「チカーノ・ソウル」は国や人種、地域性、そして音楽スタイルの壁を超えて世界中の音楽ファンをますます魅了していっている様です。次回はその辺のことを書けたらいいなぁ。またボチボチと続きを書いていきますんで、もしご興味ありましたら引き続きよろしくお願いします!
※ルーベン・モリーナ氏の来日イベントの詳細はコチラ(画像にリンク貼ってます↓)
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