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コスタンツィ/チェロ・ソナタ集(4) 収録曲紹介 チェロ・ソナタ ヘ長調

はじめに

17世紀前半のローマを代表する作曲家/チェリスト「コスタンツィ/チェロ・ソナタ集」がコジマ録音より発売中です。早いものでリリースから2ヶ月がたちました。

intoxicate(Tower RECORDS) October 2024

あらたにタワーレコードのintoxicate10月号で取り上げられ、

レコード芸術online 準推薦

音楽現代 特選盤

と立て続けに雑誌、批評欄で高評価をいただきました。
取り上げてくださったメディアの皆さま、ありがとうございます。

ちなみにこれまでも
朝日新聞 for your Collection クラシック音楽 推薦盤

“ぶらあぼ”のNew Release Selection

「ぶらあぼ」誌11月号でインタビュー(インタビュアー・記事執筆は朝岡聡さん)

など、たくさんの媒体で取り上げていただきました。感謝!

今回もコスタンツィ/チェロ・ソナタ集の収録作品についてコメントしていこうと思います。

4曲目、チェロ・ソナタ ヘ長調について
Adagio - Allegro - Grazioso の3楽章。
たった6小節しかない装飾的なAdagioの序奏から、メインのAllegro、そして最後のGraziosoは3拍子と2拍子の対照的な舞曲が入れ替わる、というちょっと珍しい楽章です。

このソナタの手稿譜は、サンフランシスコ州立大学のFrank V.de Bellisコレクションが所有する4曲のコスタンツィソナタ資料に含まれています。写譜者は4曲同一の筆跡によるもので、4曲が一時期にまとめて写されたものであるという推測が成り立ちます。

一曲目の変ロ長調もこのコレクションに含まれているものですが、このコレクションの特徴として、4曲は前半2曲が明快で技術的にもそれほど要求が高くないのに対して、後半2曲(このヘ長調を含む)は技術的な要求が極めて高く、高い音域、急速なパッセージ、重音とおそらく当時の技術的限界に達する水準の作品です。要するに、すごく難しい!
これが5弦チェロ(C-G-d-a-d? or e?)を意図したのではという議論もありますが、明確にそれを示す作品上の特徴はありません。

ほとんどの部分がト音記号で書かれていますが、序奏はヘ長調の重音から。

スケールの上には点(またはくさび)が、2小節目2拍目にスラースタッカートが書かれています。

そして、Allegroの主部へ。ここからはト音記号、実音はオクターブ下です。
まずテーマからして音域が高い。このあたりはボッケリーニとの共通性を感じます。

4弦で演奏する場合にはここからすでにカポタスト(左手親指を使う)奏法に移行。

そしてそのあとすぐに最高音c”まで到達します!これは当時としては異例の高さです。

1736年のLanzetti op.1-12での最高音がa’なので、それを越えています。

Lanzetti op.1-12 (1736, Amsterdam)

未出版含む作品6までのランゼッティの作品でもこれ以上のハイノートは今のところ見つけられていません。

そして、重音と跳躍、C線開放弦のオンパレード。このあたりはお祭り騒ぎ、bizzaria(奇抜、風変わり)と言ってもいいかもしれません。
ここで思い出すのが、コスタンツィのエピソード。
ある手紙の中の「コスタンツィがあの音楽の狂騒によって、教皇ベネデット14世をあきれさせた」という記述です。

果たして何を演奏して、そのような事態を招いたのか詳細はわからないものの、私はこのヘ長調を演奏するとこのエピソードを思い出さずにはいられないのです。
Allegro楽章の最後は大騒ぎの後、変ロ長調ソナタの1楽章と同様の音形でおしまい。

Graziosoは一転して、3拍子の穏やかな舞曲。でも音域は高い。8小節の後に突然2拍子のAndanteに。このような形式はBoniなどコスタンツィのローマにおける先輩!の作品には見られないもので、オペラなど他ジャンルからの影響が考えられます。

このような跳躍音形も非常に特徴的です。10度の跳躍。

これは同じローマのボンベッリBombelliのソナタにも見られる音形で、コスタンツィの作品では他のソナタ(アルバム最後のト長調など)にもある、特定の奏者の奏法上のイディオムに依存していると言ってもいいような特徴的なものです。弦を一本またぐ急速なボウイングのテクニックが必要です。

Bombelli Sonata a Violone solo

ナポリではFiorenzaのチェロ・コンチェルトなどに10度の跳躍が。ナポリ由来かどうかは分かりませんが、1720年代にそのような奏法上のイディオムがあったということです。フィオレンツァの場合はヴァイオリニストなので、ヴァイオリン奏法からの影響という可能性もあるでしょう。

以上のことから、コスタンツィが持っていた技術的な高さ、特に音域に関しては当時のナポリ派に匹敵、もしくはそれを越える広さを獲得しており、ボウイング技術や高音域でのカポタスト奏法についても、非常に高いレベルであったことが分かります。

前回のハ短調ソナタと合わせて、このヘ長調はコスタンツィの非常に高い演奏技法を証明する作品として非常に重要なものなのです。

ということでこのシリーズもまだまだ続きます!

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懸田貴嗣/コスタンツィ チェロ・ソナタ集
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