留学日記#13: Youは何しに留学に?
留学生活も終わりに近づいています
日本よりは気温や湿度が高いアムステルダムですが、最近は気温が20℃~25℃くらいになって、だんだん汗ばむ季節になってきました。アムステルダムは冬になるとほぼ毎日雨ですが、夏には「梅雨」のようなものはなく、夏は気持ちのよい天気が続きます。
ドキドキとワクワクに胸を膨らませてアムステルダムにやってきたのが2月2日。あれからもうすぐ5か月が過ぎ、留学生活も終わりに近づいています。私の場合は春学期のみの留学で、寮の契約もあと1週間で切れてしまいます。もう5か月が経ったのだと思うと、なんだか短く感じます。
留学に出たいと決めたのが2020年1月。それからほどなくコロナ禍に襲われました。1年後ならば状況が変わっているだろうと期待して、交換留学に応募したのが同じ年の10月。まあ、その期待は半分当たって半分裏切られたわけですが。
私と同じようにコロナ禍で留学を経験されている皆さんの多くは7月・8月の出発でした。5月頃には今年も渡航中止になるかと思いきや、ワクチンが開発されたとたんに渡航許可が下り、いろいろとバタバタされたのではないかと思います。ヨーロッパでは徐々に制限がなくなっていますが、それでも今この不透明な時代に、海外留学に出ることが果たして本当に正しいのか、とうとう自信が持てないままこちらに来てしまいました。
特に私の場合は、いったん秋学期の留学を辞退した後で、やっぱり春だけ行きたいということで特例を設けていただき、渡航許可をいただきました。ほかの多くの学生の皆さんは夏に思い切って出発したか、留学そのものを諦めたかのどちらかです(私のゼミにも両方います)ので、私のような中間的な選択肢をとった人はむしろ少なかったのではないかと思います。
そういう状況でしたから、私と同じ状況にある人が周りにいなかったのもあって、渡航前はかなり神経をすり減らしました。PCR検査の予約をしたり、ワクチン接種証明書を取りに行ったり、渡航条件を毎日チェックしたり。わからないことだらけの中でひとり手続きを進める中、日本ではオミクロン株の感染拡大。ヨーロッパでは感染爆発どころではなく、ロックダウンになる始末。私がオランダに着くその直前まで、アムステルダムでもロックダウン状態でした。
そんな先行きの見えない状況の中で、なんとなく心が折れて、本当は留学をここで諦めて日本で時間を過ごした方がいいのではないか、やっぱり今からやめても遅くないのではないかと何度も考えました。唯一よかったことと言えば、飛行機が安かったことくらいでしょうか。
あえて留学を選んだ理由
そのような中であえて渡航を選んだのは、もちろん成り行きというのもありますが、日本を離れたい、慣れきったコミュニティを離れたいという気持ちが大きかったからです。
日本では大学に通い、サークルやゼミに入り、バイトもしながらと、コロナ禍の中でもかなり充実した生活を送れていたように思います。このままストレートに進んで、3年秋から就活を始め、4年で卒業する、それが恐らく最も一般的な道だったでしょう。けれど、なんとなくそれが自分には腑に落ちなかった。もう少し、将来のことを考える時間が欲しかった。
それに加えて、慣れた環境で住み続けていては、なんとなく大切なものを見失ってしまっているように思えたのもあります。そのためには一度日本を出て、客観的に自分を見つめ直すことが必要なんじゃないか。その手段として、今まで一度もなかった海外留学が有力な選択肢になりました。本当はフランス語で行けたらよかったのですが、検定試験が間に合わなそうだったので回避して、英語圏にしました。
こういう理由だったので、本音を言えば「留学に行けさえすればどこでもよかった」のです。留学先にアムステルダムを選んだのも、英語圏の中で立地や街並みが綺麗で、ものすごく魅力的な街だったから、それにもかかわらず誰も志望しないがゆえに毎年定員割れになっていたから、という理由です。多分あんまり魅力が知られていないのだと思いますが。要は、よさそうなところで、かつ確実に合格できるところを選んだわけです。
こちらに来てから「何を勉強しに来たの?」と聞かれて、「国際政治」と答えるんですが、アムステルダム大学は正直そこまで国際政治に強くないし、ましてやゼミで専門にしている外交史の講義は開講されていません。一応、選考に通るために「志望理由書」「研究計画書」なるものは書きましたが、それも今思えばなんとなく言い訳のように書いただけで、結果的には全くその通りには行っていません。むしろ、日本にいた時の方が熱心に勉強していて、こちらに来てから頭が悪くなったような気がします。ゼミに戻ってからちゃんとやっていけるのだろうか。
むしろ、「自分が何をやりたいのか」を見極めるために海外に来たという方が正しいのかもしれません。これを先生方や大学関係者の方が読んだら、怒られてしまうかもしれませんが。
自分の足で歩くということ
もの思いにふけるときには、よく街を散歩したり、ふらっと列車に揺られて旅に出て、新しい街に出かけてみたりします。
自分の足で地球を歩きながら、新しい景色を探しに行く。ちょっとした冒険の気分です。そんななかで、ふと歩みを止めて、物思いにふけったりします。自分はこれからどうしたいんだろう、何をしたいんだろう。海外に来て、何を学んでいるんだろう。
オランダにいる間は自転車での移動がほとんどですが、ときどき歩いてみるのもいいですね。そうやってぼーっと歩いているうちに、何かいいアイデアを思いついたりします。ゆっくりできるし、電車代の節約にもなるし、普段見れないような景色も見られるし、歩くのはいいですね。
「自分らしさ」を見つけるために
ここ10年くらいずっと考えて続けているテーマの一つが、「自分らしさって何だろう?」「個性って何だろう?」という問い。きっと受験や就活のときに、「あなたらしさって何ですか」みたいなことを一度は聞かれると思いますし、皆さんも一度は考えたことがあるのではないかと思います。そして同時に、その答えを探すのに苦心している方も決して少なくないと思います。
オランダに来てから思うのは、「自分らしさ」に出会うためには、「らしくない」自分に出会う必要があるのではないか、ということです。
オランダに来てからその生活になじむまでの間に、何度か「今の自分、らしくないな」と思う瞬間が何度かありました。とりあえず、周りの人の見よう見まねで、パーティーに顔だけ出してみたり、旅行ではとりあえず有名な名所を訪れたり、社交の場では自分から知らない人にどんどん話しかけてみたり。けれど、もともと僕は大勢で騒ぐのは好きではないし、旅行はどちらかというと誰もいない静かな場所に行ってのんびりするのが好き。慣れた環境で、新しい人を迎え入れるのは得意ですが、不慣れな環境で知らない人に話しかけて友達を作っていくのは疲れます。
皆さんも、新しい環境に飛び込んだ時、そういうふうに感じる瞬間がきっとあると思います。「なんか、自分疲れてるな」「自分ってこんなだったっけな。高校では、地元では、○○サークルでは・・・」って、思う時があるはず。そういうときに感じる違和感こそが、本当に自分がやりたいこと、本当の自分の姿を見出すチャンスなのではないかと思うのです。
新しい環境に飛び込むときには、「自分らしさ」を一度捨てないといけない時があります。そこに元からいた人の軸に合わせて動かないと、生きていけなくなるからです。ある意味それは、留学に限らず、学校やサークル、就職でもそうだと思います。けれど、そうやって慣れていく中で、「らしくない」自分に気づくことがあります。
本当はこうしたいんだけど、最初だから、わからないことが多いから、とりあえず周りに合わせてみよう。生きていくためにそれが必要なのはわかっているけれど、それが続くと疲れる時が来る。けれど、そうして本当は自分がこうしたいのに、ああしたいのになぁ、と思ったとき、それが自分が本当にやりたいことで、「自分らしい」ことなのではないでしょうか。
つまり、「自分らしい」自分を見つけるためには、「らしくない」自分に出会って、そこで違和感を感じることが必要なのだと思います。同じように、やりたいことを見つけるためには、自分の好きなことばかりをやっていてはだめで、やりたくないことをある程度やらなければいけないのかもしれません。そこで違和感や不快感、やるせなさを感じたとき、はじめて自分のやりたいことが見えてくるのだと思います。
皆さんもひょっとすると、就職や進学などで新しい環境に入ったばかりの頃は、そこで慣れるのに精いっぱいで、神経をすり減らしたり、前のコミュニティが恋しくなったりするときが来るかもしれません。けれど、それは実は自分の本当の姿を知る途上にあって、決して無駄なプロセスではないのだということを、伝えたい。今はまだ季節ではないかもしれませんが、いずれ新しい環境に飛び込んでいく、将来のあなたに伝えたい。
そして、「自分らしさ」がわからないという人も、おそらくそこまで不安に陥る必要はないのだろうと思います。「わからない」ということは、「ない」ということと決して同義ではない。生きているなかで、その「自分らしさ」はどこかに現れています。けれど、それにまだ気づいていないだけです。それに気づく瞬間というのは、全く予期できないし、ふと瞬間に訪れます。ときには、「待つ」ということも必要なのだと思います。
私自身、自分がやりたいことはまだわからないし、すぐにわかるような気もしていません。自分らしさもまだ完全には見えていないし、それは一生かかっても全容がつかめるということはないのだろうと思います。
日本に帰ると、また見慣れた景色が違って見えてくるのかもしれません。住み慣れた街を歩きながら、また新たな自分に出会えればと願っています。
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