動画SNSとサブスクが与える影響

【動画SNSとサブスクが音楽トレンドを変える?】Spotify APIを使って2020年代の音楽変化を分析予測してみた

こんにちは。アサヤマ(@taasayan)です。

普段はホットリンクという会社でSNSマーケティングの支援をしています。

今回はSpotify Web APIとスクレイピングを使って、1970年代から2019年までのトレンドの推移を「オーディオ特徴」と「歌詞」の両面から分析してみようと思います。

海外と比較した日本の人気楽曲音声特徴

年代の比較をする前に、まずは他の国と比較して日本で人気の音楽がどういった音声的特徴があるのかを見てみましょう。

SpotipyというSpotify Web APIのためのPythonライブラリがあったのでこれを使ってSpotify APIからデータを取っていこうと思います。

Spotifyには国ごとにトップ50チャートのプレイリストがあります。

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プレイリストごとに楽曲を抽出してそれぞれの楽曲特徴のデータを取得し、Pandasのデータフレームを作成します。

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データフレームができたので、Seabornを使って視覚化してみましょう。

■尺の長さ

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こんな感じで国ごとのトップチャートの楽曲尺の分布を視覚化できました。

その他の指標についてもチャートを生成してみます。

■テンポ

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■話し言葉度

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■アコースティックさ

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■ポジティブさ

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■エネルギー

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■ラウドネス(音の大きさ・音圧)

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■ダンスのしやすさ

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こうやって他国と比較してみると日本の人気楽曲に以下の特徴があることがわかります。

・アコースティック度が低い
・曲の尺が長い
・ポジティブ度が高い
・エネルギーとラウドネスが高い
・ダンスのしやすさが低い

Official髭男dismのPretenderなどは正にこういった特徴が現れてる曲っぽいですね。

一方、日本と比較してアメリカは

・曲の尺が短い
・ポジティブ度が低い
・エネルギーとラウドネスが低い
・ダンスのしやすさが高い

ということが見えてきます。

たしかにBillie Eilishみたいなダークで静かなダンスチューンが人気ある感じします。

以下の記事で述べられているように世界的には

・曲が短くなり続けている
・ポジティブ度が低下し続けている
・エネルギーとラウドネスが低下し続けている
・ダンスのしやすさが上昇し続けている

Music is Getting Shorter

というトレンドがあります。

アメリカのトップチャートは世界のトレンドどおりの音声的特徴が現れていますが、日本のトップチャートはいわば世界トレンドの正反対とも言える状況になっていることがわかりますね。

アーティストやプロダクションとしては、こういった国ごとの人気楽曲の音声特徴がわかると、攻略したい市場に合わせた楽曲やリミックス制作時の示唆となりそうです。

年代ごとの音声特徴比較

それでは、日本において年代ごとにどのような音声特徴の変化があったのかを時系列で見てみたいと思います。

「My Generation」という年代ごとの人気楽曲を100曲ずつまとめたSpotify公式のプレイリストがあったので、これらを使って音声特徴を抽出していこうと思います。

先ほどと同じようにデータフレームに各年代プレイリストの楽曲データを追加していきます。(※'70s~'90sと2019年トップチャートのデータ)

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まずは曲の尺の長さの推移を折れ線グラフにプロットしてみます。

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その他の指標についてもlineplotを生成します。

■テンポ

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■話し言葉度

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■アコースティック度

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■ポジティブさ

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■エネルギー

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■ラウドネス(音の大きさ・音圧)

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■ダンスのしやすさ

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この結果を見ると以下のトレンドが見えてきます。

・「エネルギー」と「ラウドネス」が70年代から上昇傾向
・「テンポ」と「話し言葉度」が2000年代から上昇傾向
・「ポジティブさ」と「ダンスのしやすさ」は80年代をピークに低下していたが、2000年代から再上昇傾向
・「尺の長さ」は70年代から長くなっていったが、2000年代をピークに短くなっている
・ほぼすべての指標において95%信頼区間が幅広くなっている


世界のトレンドに逆行して、日本においては「ポジティブさ」と「エネルギー」「ラウドネス」が2000年代以降上昇しているのは興味深いです。

また、ほぼすべての指標において数値の分布幅が年々広がっている部分にも注目すべきでしょう。

SpotifyやYouTubeのように時空を超えて簡単に楽曲を見つけられるサービスの影響で、音楽的趣向が多様化し、人気の楽曲にも多様性が生まれているのだと推測されます。

年代ごとの歌詞特徴比較

次に歌詞から年代ごとのトレンドを見てみましょう。

先ほど利用した年代別プレイリストの各楽曲の歌詞が掲載されているWebサイトをスクレイピングして、頻出単語を元にワードクラウドを作成します。

流れとしては以下です。

①beautifulsoupで各歌詞ページをスクレイピングしてテキストを配列に入れていく
②MeCabで形態素解析して単語ごとに配列にいれていく
③collections.Counterを使って単語の出現回数をカウント
④単語をワードクラウド化

出力したワードクラウドは以下です。

■'70s

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「あなた」「二人」「好き」などある意味王道な単語が多い。

■'80s

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英語や「WOO」「カーニバル」「セメテ」「抱いて」とか責めてる感のある単語が多い。
80年代バブル期のパリピ感が垣間見られる。

■'90s

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正気を取り戻した感。
日本語割合が増え、「二人」や「好き」「抱きしめ」などが復活。
でも「YELLY YELLY」とかパリピ感の名残あり。

■'00s

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「KOME KOME」とか「OLY OLY」みたいなパリピ感のある言葉が消え失せ、「気持ち」「笑顔」「想い」「そっと」みたいなハートフルな言葉が目立つように。

■'10s

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「好き」とか「想い」「僕ら」とか王道系の言葉が多い。

2020年代の音楽の特徴予測

これらのトレンドを踏まえて2020年代の音楽は以下が進むのではないかと推測します。

①「曲の尺」が更に短くなる

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②「ダンスのしやすさ」が更に上昇する

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理由は以下の2点です。

音楽サブスクリプションの影響

SpotifyやApple Music、YouTube Musicなどの音楽サブスクリプション(定額配信)サービスのユーザー数が右肩上がりに伸びています。

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画像:Spotify Keeps Apple Music at Arm's Length - statista

こういった音楽配信サービスでは基本、30秒以上の再生を「1再生」とカウントし、収益化されます

超極端な話、30秒再生されさえすれば残りはいらないのです。

自アルバムやアーティストページに訪問してもらったとき、長尺の曲を1, 2曲聴かせるより、短尺の曲をいっぱい聴かせるのが吉

音楽視聴体験がCD/ダウンロードからサブスクリプションに移行した時代においては、頑張ってコストをかけて長尺曲を作るより、短尺曲を複数制作して、ユーザーに次々と再生してもらったほうが収益化の観点で合理的なのです。

TikTokのような動画SNSの影響

10代~20代の若者を中心に、TikTokを代表とする短尺動画SNSが大流行し、全世界で10億ダウンロードを突破しています。

月ごとのTikTokの新規インストール数画像28

画像:TikTok Continues Its Climb With 75 Million New Users in December, Up 275% From 2017|Sensor Tower

また、全世界で10億人のアクティブユーザー数を抱えるInstagramも、2020年8月からTikTokと同じ15秒の短尺縦型動画機能「Reels(リール)」をリリースしています。

静止画やテキストを中心としたSNSと比較すると、動画SNSは表現の幅が広がるので、「ヴィジュアルに魅力的な動きがあって、視聴者の視線を奪えるか」がより重要な要素になります。

短尺動画SNS上では楽曲のダンス動画をユーザーがマネとアレンジを加えて投稿し、拡散されていく「meme(ミーム)」と呼ばれる現象が起きています。

海外でバズってるmemeって何?!

■Lil Nas X - Old Town Road

■Ashnikko - STUPID

■Roddy Rich - The Box

■Sub Urban - Cradles

日本でも過去に流行った恋ダンスやU.S.Aは、TikTok上で多くのユーザーがダンス動画を投稿しています。

■星野源 - 恋

■DA PUMP - U.S.A

これらの例のように、動画SNS上で一人ひとりのユーザーに自分の楽曲を利用してもらい、meme化できるかどうかが、音楽サブスクリプションサービスでの再生数を伸ばす鍵になります。

memeになるためにはキャッチーなサビがあることに加え、みんながマネしてダンスしやすい楽曲である必要があるのです。

DrakeのToosie Slideの例

音楽の未来予想からは外れますが、TikTokを活用した音楽プロモーションの例を紹介します。

TikTokでミーム化を狙った楽曲としてDrakeのToosie Slideが挙げられます。

MVを見ていただけるとおわかりのとおり、サビの部分のダンスが印象的かつ非常に簡単で誰もがマネできるものになっています。

また"right foot up, left foot slide. Left foot up, right foot slide." のように歌詞自体がダンスのインストラクションになっています。

更にTikTokの15秒尺にきれいに収まるようにサビは15秒に

音楽配信サービスでのリリース前に、先にTikTokで一部音源を公開し、UGC起爆剤としてTikTokスターたちにダンス投稿をしてもらっています。

@justmaiko

tony lopez be like...😭😂 @bangenergy @bangenergy.ceo #bangenergy

♬ Toosie Slide - Drake

TikTok上でUGCが出て、充分なアテンションを獲得し、期待感が高まった状態でSpotifyなどで配信開始し、一気にチャートトップを取るという流れです。

以下の動画によると、Drakeは楽曲が完成するよりも前にダンサーに振り付けを依頼していたそうです。

それくらいTikTokでミーム化するという観点で「ダンスしやすさ」は重要なポイントだということでしょう。

COVID-19による影響

COVID-19の状況の中でも、#おうちダンス などといったハッシュタグとともに、おうちでのダンス動画を投稿する行動が増加しています。

星野源さんの「うちで踊ろう」は様々なSNSで拡散されましたが、TikTok上では踊りやすいようにリミックスされた音源を利用してダンス動画を投稿しているユーザーも多く見られています

・リアルライブができない
・CDが売れなくなった
など、アーティストにとって厳しい側面も大きいですが、「おうちの中の生活でどうやったら自分の楽曲を使ってSNS上に投稿してもらえるか?」という視点を持ってみるのも大事になりそうです。

まとめ

もちろん音楽はアーティストの芸術性の結晶ですが、トレンドとターゲット層の好みを理解し、制作の参考にしたり、チューニングすることでより多くの人に届けることができると思います。

あと、この記事でSpotifyのレコメンドアルゴリズムについても説明しているので興味あれば見てみてください〜

音楽業界やPythonについてVERSUSのまいしろさんと橋渡里仁さんに色々教えていただき大変お世話になりました。

最後まで読んでくれてありがとうございました!!!

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