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【超短編小説】元勇者と元魔王は戦乱から逃れた

 元勇者のライナーは魔王討伐隊を引退後、ある田舎町を拠点に、高ランク冒険者として生活していた。

 彼は勇者時代、魔王城まで到達するも、あと一歩のところで魔王に逃走される。

 その後、魔族は勢いを盛り返し、現在も現役勇者を討伐隊のリーダーとして戦いが続いていた。


 ライナーはクエストの度に勇者時代を思い返す。

あの頃は、苦しい日々だった。魔王は倒し損ねたものの、あれが俺の実力の限界だ。勇者が世代交代して本当に良かった。

 一方、現役勇者は魔王軍のしぶとさに苦戦している。魔王も世代交代を果たし、強化された布陣で支配地域を拡大しつつあった。

 ライナーも魔王討伐隊も逃走した先代魔王の行方を未だに知らない。


 ライナーは勇者時代の経験を活かして、冒険者として成功し、余力を持て余していた。最近は、クエストに遊び要素さえ取り入れている。

 今回の遊びは、ある方法で高ランクモンスターをおびき寄せて倒すことだ。野生のモンスターを見つけ出すのは、すでに飽きている。

 ギルドの倉庫番に交渉した。

「魔石のクズはもらえるか?」

「別にいいですよ。タダであげますけど、そんなもの何に使うんですか?」

「趣味のコレクションさ。」

 本来、魔石は冒険者が狩ってきたモンスターが保有していたものだ。ギルドが買取るが、取り扱いの過程でクズが出て廃棄物になる。


 ライナーの企みはこうだ。

 俺は面白い遊びを考えたぞ。魔石を山中にある泉に投げ込む。泉は魔石を溶かす泉質だから、溶けた魔石から発せられる匂いで高ランクモンスターがおびき出せる。そこを一網打尽にしてやるよ。

 ライナーはさっそく、高レベルないたずらをした。魔石のクズを泉に投げ込む!

「水面が光ったな……」

 間もなく、危険なモンスターが空から、森の中からうようよと集まってくる。

「やり過ぎたな(笑)しばらく隠れるか。」


 どこからか声を掛けられた。

「久しぶりだな。こんないたずらで暇つぶしをしているのか?」

 いつの間にか、見覚えのある魔族が歩いてきた。

 ライナーは、驚き後ずさりする。

取り逃がした先代魔王だった。

「元勇者、俺にはもう敵意はない。魔王を退いたからな。暇を持て余していたら、モンスターの大群が出てきたから様子を見に来ただけだ」

「元魔王、魔王城以来だな。俺ももう魔族に敵意はない。引退した今、戦争に興味はないね。対魔王軍戦は国のやっていること、もう関わりはない」

「そうか、俺は敗走した立場だけど、お前に恨みはない。負けたのに生き延びている。」

 ライナーは警戒を緩めて大胆なことを言う。

「近くに俺の山小屋がある。良かったら、寄っていかないか? 魔族を招待するとはな!」


 しばらくし、魔王討伐隊と魔王軍の戦いは激化する。魔王の支配地域と王国の管轄する森との境界線で人間達は苦戦している。魔力の差で追い詰められていた。

 結局、現勇者達は撤退し体勢を立て直すことになる。

 終わりの見えない戦いが続く。


 一方、ある山中の山小屋では、

「よう、元魔王。お茶会にしよう。寄っていけ!」

「ライナー、最近、やっと森でのシンプルライフに慣れてきたよ」

 彼らは戦乱とは無縁の人生を手に入れていた。

 

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