【超短編小説】ミスリルで儲けた雑魚冒険者が低級クエストを趣味に余生を謳歌する
ラルフは最低ランクであるF級冒険者だ。
主な仕事は薬草採取と土木工事で、単純作業と肉体労働全般といったところ。
所有スキルは盗聴と忍び足だ。あまりに戦闘力が低いため、パーティーへの加入も認められていない。
「今日の土木工事も平和に終わった。日銭を稼いで変化のない日常を送るのも悪くはない。しかし、単純労働は他にいくらでもある。俺の冒険者キャリアも、もう潮時だな。」
モンスター討伐での大金稼ぎを夢見てギルドに登録するも、思い描いていた冒険者像とは全くかけ離れた現実に打ちのめされていた。
仕事の後、居酒屋で飲みながら、盗聴スキルを使い、世間の様子を伺っていると面白い話が聞こえてきた。
鉱夫のドワーフ達が景気の悪い会話をしている。
「近頃は平和すぎて武器商売など成り立たないな。政治情勢は平和そのもの。魔物は減っているし、魔族の動きも長らくない。この国は新しいミスリル鉱山がまた発見されたせいでミスリルも供給過剰だ。」
「いい素材が安くなるってのは、いいことだぜ。でもよ、ミスリル製品の価値自体がひどく落ちてるんだから。平和な時代に高品質な武具はいらない。」
ラルフはひらめいた。さり気なく会話に加わる。
「皆さん、ミスリル武器の価値は確かに落ちてますよね。一昔前からしたら考えられない値段だ。でも、一ついい話があるんです。ここだけの話、魔族がこの国のミスリル鉱山を奪おうとしてるんですよ。僕は盗聴と忍び足のスキルを持っています。」
「あんたも趣味が悪いね。そのスキルは。」
「まあまあ、聞いてください。僕は鉱山近くで薬草採取している時に偵察に来た魔族の会話を盗み聞きしたんですよ。この国に侵攻するため、ミスリル武器を大量に作ると。まずは、この国の鉱山を占拠し、強奪するとの話でした。」
「何だと!やばいじゃないか!」
「焦らないでください。僕に名案があります。ドワーフさん達の力を借りれば、全て上手く収まるはずです。」
その後、彼らは深夜まで密談した。
しばらくして、国中に噂が流れる。
現在、国内に存在しているミスリル製品のほとんどが、魔族によって製造されたミスリルを使っている粗悪品だということだ。
同じタイミングで各地にミスリル買取所が開設された。人々はこぞって二束三文でミスリル製品を投げ売った。魔族製造の粗悪品など持っていても気持ち悪いだけだ。
その裏で、ラルフとドワーフ達はせっせとミスリル鉱山から鉱石を運び出していた。
ある日、とうとう魔族がミスリル鉱山を占拠する。
王室は国家として武装すべく、武具の調達にかかる。しかし、肝心のミスリル武具がない!すでに、この国には材料のミスリル自体がほとんどなかった。
唯一まとまった量があるのは、ラルフとドワーフ達が集めていたミスリル鉱石だ。
彼らは、王室にミスリル鉱石の買取を打診する。
結局、王室は莫大な金額でミスリル鉱石を買取った。ラルフとドワーフ達は、一瞬にして大金持ちになる。
ドワーフ達にはミスリル加工の依頼が殺到する。
しばらくの膠着状態の末、高品質な武器を使った国王軍が魔族を滅ぼし、鉱山も取り戻した。
ラルフはまた平穏な日常に戻る。
生活の心配はせず、趣味で薬草採取クエストを楽しみ、読書をしてのんびり暮らす。
ドワーフとはいい付き合いだ。
「よう、ラルフの旦那。」
「こんにちは、しかし、上手くいきましたよね。傑作ですよ。」
ラルフは不敵な笑みを浮かべた。
「ありがとう!国民のみんな!僕らの噂を信じてくれて。魔族の作ったミスリルなんてあるわけない(笑)」
続けた、
「魔族さん、騙されてくれてありがとう!和睦の印に鉱山を引き渡すと言ったら、簡単に乗ってくれるんだから、本当に鉱山に侵入しちゃうとはね」
ドワーフからも礼を言おう。
「魔族、ごめんな。ありがとう。もう、滅ぼされたけどな!」
「ラルフ!俺達はもう二度とこんな危険な賭けには出ないぞ!」
全ては、彼らの手の中にあった。