見出し画像

【超短編小説】クビになったギルドマスターは元受付係とパーティーを組みました

 ハンスはこの町の冒険者ギルドでギルドマスターをやっている。ある日ギルドに出てくると、長老に追い出されてしまった。

「ハンス、お前を含めてギルドの従業員全員に辞めてもらう。ギルドの経営権は貴族のルーク様に売却した」

「長老、では誰がギルド運営をするんですか? 金持ちの道楽に付き合うつもりですか?」

「ルーク様が決めることだ。お前にはもう関係ない」

  受付係のリーゼも話を聞いていて、抗議する。

「そんなめちゃくちゃな話がありますか? お金を積まれれば何でもするなんておかしいですよ!」


 金持ち貴族のルークの狙いは、ギルドを利用し平和維持の実績を作り、国王に自分の力をアピールすることだった。政権内で自分の立場を上げるための材料と考えている。

 近頃、危険なドラゴンが町の城壁を飛び越えて来て、いつ住民に危害が及んでもおかしくない状況だ。国王は頭を悩ませている。町の平和を維持するには冒険者ギルドと冒険者の力を借りドラゴン駆除をする必要があった。

 自分の息のかかった者達をギルドの従業員とすることでギルドを支配下に置き、都合の良い様に動かすつもりだ。更に、ギルド運営は金をつぎ込めば実績も作れると信じていた。


 ハンスは諦めた。

「長老、俺はまた冒険者に戻ります。若い頃のようにはいかなくとも、のびのびと楽しみますよ」

長老は意外にも落ち着いて言う。

「そう来ると思っていたよ。冒険者登録はできるからな。ただし最低ランクからだぞ」

リーゼが思い切ったことを宣言した。

「私も冒険者になってギルドマスターとパーティーを組みます!」

「リーゼ、無茶を言うな……まあ、いいか。互いに行き場もないしな」

 こうして、解雇された者同士がパーティーを組んだ。


 ハンスとリーゼは、新ギルドで登録を済ますと、ダンジョンに向かう。しばらくの間、初心者向けの階層に通った。

 ハンスがモンスターを倒し、リーゼがサポート役だ。

「ハンスさん。今頃、ギルド運営はどうなってるかな? 体制が変わって冒険者のみんなも大変そうだし」

実はハンスもギルドの新体制が気がかりだ。しかし、気にしないよう努めていた。

「リーゼ、気になるのも分かるけど、もう俺達には関係ないだろ。でもな、俺達ほどギルドの業務ができる奴らは他にいないよ」


 帰りに換金のためギルドに立ち寄った。ギルド業務は崩壊状態だ。受付と冒険者はいつまでも話がかみ合わず、列の渋滞ができる。業務の遅さにいらいらを募らせた冒険者達がクエスト案件書の取り合いをするも、対応者がいないから収集がつかない。

 苦笑するベテラン冒険者に出会う。

「よう、ギルドマスターと受付さん! あんたたち今から仕事代わってやれよ。みんな昔の運営が戻って来るのに期待してるぜ」

 ハンスも状況に苦笑いだ。

「でも、俺はもう関係ないしね。改善を願うだけだ」

 驚いたことに長老がやってきた。

「ハンス、リーゼ。俺が悪かった。ギルド運営として戻ってきてくれ! ルーク様には頼んでおく」


 後日、ハンスとリーゼはルーク邸に呼び出される。

「旧ギルド従業員の中から優秀な人材に戻って来てもらうつもりだ。荒っぽいことをして悪かった。二人共ギルドに戻って来てくれないか?」

 リーゼはもったいぶって言った。

「どうしてもと言うなら、別に構いません。ただし、受付責任者のポジションですよ。今の受付をまとめる権利を与えてもらわないと仕事になりません」

ハンスは呆れ顔だ。

「いいですよ。はっきり言って今の従業員は話にならないですから。ただし、運営方針に関わる決定をするなら、まずは必ず私に話を通してください」

 ルークは条件を飲んだ。

「分かった。望むポジションを与えよう。給料も立場相応ということでこれまでの2倍出す。お願いだ。力になって欲しい」

 こうして、ギルドは有能な人材を取り戻し、冒険者の信頼を回復した。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?