種物中華そばの世界
種物とは
寿司もそうだが、上に乗せるもの、つまり、今でいうトッピングのことを良く種と言う。(余談だが、同意語としてネタという言葉があるが、江戸時代なに業界用語風に逆さに読むことが流行り、それが「種⇔ネタ」として定着したと言われている)
蕎麦やうどんは発祥の時点ではせいろやかけが基本で、それが江戸時代に遊び心や満腹にするためにトッピングを乗せるようになったと言われている。そして、趣向を凝らしたトッピングものを種物と呼ぶようになった。もっとも有名な種物といえば天ぷらで、南蛮や花巻、かき玉や、きつねやたぬき、といった身近なものも種物である。
「ラーメン」はひとつの種物である。
ラーメンの誕生は1910年前後だと言われているが、元をたどれば中華料理の汁そばに至る。そのルーツは多種であった。それが日式の支那そば(拉麺)となり、文化を醸成していくわけだが、初期の繁盛店として広く知られる浅草來々軒のトッピングはメンマとチャーシューと言われ、また、その後発展するラーメンのスタンダードなトッピングであるナルトや青菜や海苔といったものも、その後日本式として乗ったと思われる。
つまり、ラーメンは「ラーメンという種物」でもあったのだ。
一方、並行して日本に入ってきた中華料理サイドの種物は伝統を継承しつつ、洋食などと歩調を合わせるように日式化。支那そばの登場を経て逆輸入、おそらく物凄く速いスピードで日式中華の種物として発展していく。現代でいうところの日式中華、街中華がその側面をよく表している。
現東京大学教授園田茂人が中央大学教授次第に書き残したネット記事、**教養番組「知の回廊」40「ラーメン、中国へ行く-東アジアのグローバル化と食文化の変容」**の中で、ラーメンの歴史の成り立ちを解説するとともに、こう書き記している。
華南。つまり、叉焼が名物料理のひとつである広東省を中心としたエリアの料理を麺料理に乗せたことも含め、ラーメンはルーツにおいて、複数の食文化がミックスされた特殊な料理だったのだろう。
中華料理では、麺の上の具材のことを「麺碼児(ミエンマール)」といい、また、ご飯の上におかずを載せたもののことを蓋飯(ガイファン)と呼ぶが、この蓋飯を麺にアレンジしたものも、また、日本の種物中華そばの幅を広げた。
何故種物中華そばなのか?
より細分化したカテゴリーの整理は後に回して、何故、種物中華そばという視点で企画したのかを明かす。理由は3つある。
1つ目は、日本蕎麦が好きで食べ歩いていた時期があるが、最初は蕎麦はせいろで、などと思っていたが、次第に種物の粋について良さが分かってきたこと。
2つ目は、歴史の長いお店に触れる機会が多いと、支那そばを補完するようにして種物を食べる機会が多くなると同時に、歴史に対しリスペクトのある若い店がオリジナルの解釈で種物を表現しはじめていたこと。
そして、最後は『Ramen-do』(2018年BSフジ公開)という番組で成増にある名店べんてんの田中さんが、こう話していたこと。
あたり前のようでいて、凄く示唆的であるな、と思った。ラーメンは特殊かつキャッチーな食べ物で、シンプルなようでいて、できる限り旨味を結晶のごとく抽出しスープに移して作るようになってきた歴史の更新である。そこまで強いスープにすれば、そもそも種物を必要としない、とも言える。
つまり、ラーメンは種物の旨さ、旨味をもスープに閉じ込めるようになったのである。しかし、スープで全部表現しないといけないルールがあるわけでもなければ、新世代のスープも強く、種も乗るラーメンの良さもあるのではないか。
もっといえば、スープを恭しくしすぎて、胡椒ひとつ掛けられない風潮よりも、もっとおおらかに種物とスープの関係を見直してもいいんじゃないか。そんなことを考えてたら、このテーマに行き着いたのである。
種物中華そばの魅力
単純に種自体の豊富な種類も魅力であるが、同時に一杯のラーメンとしての魅力を知りたい。先のべんてん田中さんの言葉を借りれば、スープにさらに旨味(美味しさ)を足すことができるのが種物であり、また、それはスープに影響を与える。その「与えてしまう」ことに消極的な人もいるだろうが、相乗効果が生まれることも多い。
日本蕎麦がやたらと恭しく「蕎麦だけを味わう」という世界になっていることに寂しさを感じる人もいるのではないだろうか。
ラーメンもかけそば化一辺倒にするわけではなく(それも美味しいが)、もっとおおらかに楽しみ、かつ整理して考えてみるともう一歩先の楽しみ方が待っているのだと思うのだ。
種物を整理する
さて、話を戻して、もう少し種物を細分化してみよう。
まず、先に上げたように日式の種物と中華由来の種物で大別される。日式のものには蕎麦やうどん由来のものもあり、中華から影響を受けたものから独自に発展したものなども含む。逆に中華料理由来のものは餡掛けタイプが多い。そもそも餡掛けタイプか否かという整理の仕方もあるが、例えばもやしそばのように餡掛けタイプもあればそうではないものもあるので、以下のようにいくつかカテゴリーを整理した上で、あとは各論でみていきたい。
蕎麦やうどん由来の種物
日本発で独自発展したもの
中華料理に由来したもの
中華風だが、日本で生まれ発展してきたもの
その他、店独自のもの
種中として括った意義
こうして整理してみても、何か結論めいたものが見えてくるわけではないが、「ジャンル分けすること、結論を出すこと、定義を確定させること」それらは目的ではない。各論を眺めながら、それぞれがそれぞれの楽しみ方を発見してもらいたい。それが筆者からの提案である。
※紹介するお店は、複数登場してしまう可能性があるので、なるべく多様的に心掛けました。また、現代ラーメンとの繋がりを感じてほしいことも大きな趣旨なので、街中華に偏ることなくラーメン専門店の種物中華そばを優先して選定しています。
種物中華そば大全
①蕎麦やうどん由来の種物
まずは、日本伝統の種物たち。基本的には蕎麦やうどんの種物にヒントを得たものが多い。最近の趣向を凝らしたものは⑤と区別する基準が曖昧になるが、蕎麦やうどんでよく見掛けるという基準にした。
昨今人気の鴨を使ったラーメンもその一つと言えよう。合鴨のローストが乗るケースも増えており、日本蕎麦同様人気が高い。また何故か南蛮というメニューはなく、カレーラーメンという形をとるが、あまり見かけない。
五目
花巻
天(ぷら)中華
餅(力)中華
月見
けいらんそば(卵とじ)
とろろ
納豆
きつね
牡蠣そば
【五目そば】
五目そばの五目とは、デジタル大辞林によると
5つの種類
種々のものが入りまじっていること
ここでいう五目は後者になるだろう。具だくさんで、具の決まりのない種物、ということになる。もともと日本蕎麦でもメニューにあり、それを中華に応用したものであるから、あんかけのものもあれば、ただ乗せているだけのものまである。
新雅(江戸川橋)
一般的に五目そばはラーメンの上に具を乗せるだけであるが、新雅は野菜に炒が入ることで差別化されている。言わばタンメンの良いところと五目そばの良いとこ取りである。個人的には五目そばの決定版だと思う。他にも人気のにらそばをはじめ、優れた種物のオンパレードで何を食べるか悩むが、炒飯も名品である。
十八番(野方)
かつて神楽坂にあった高揚という手打ち麺を売りにする名店があった。1961年に創業し、その後沼袋に移転し、2005年まで続いた。その初期(1963年独立)の弟子があるのがこの野方十八番。当然手打ち麺が売りになるが、種物もいくつか揃え、その麺との相性で魅せる。昔から少し他より根付けが高いが、先の麺だけでなく五目素材の良さも含め、値段相当の価値がある。
丸信中華そば店(谷保)
もりそばでおなじみの大勝軒を生んだ丸長のれん会の中でも大きく広がった丸信。荻窪四面道の本店と同じくらい価値を持つ谷保店だが、丸信の系譜らしく街中華的な魅力も備えている。五目そばはあんかけスタイル。これも珍しいが、和風な香りのする醤油餡もまた珍しい。その上、伊達巻が入るタイプ。それだけ尖っていながら全体が調和するのはベースの中華そばがしっかりしているからである。
中華そば みたか(三鷹)
根強いファンが多いみたか。ここの五目はちょっと毛色が違う。ハムやもやしなどとともに、ピーマンの細切りが乗る。炒めものではなく、そのままで乗るのが面白い。郷愁をそそるラーメンではあるが、しっかりと個性があるのがみたかの特徴だ。
【花巻そば】
花巻そばとは、かけそばに(焼き)海苔(焼き海苔)をちぎって、綺麗に散らしたそばのことをいう。海苔は磯の花と考えられ、そこから花巻という名称になったと言われる。ただ、江戸時代、江戸の花巻は風味豊かで柔らかかったアサクサノリをふりかけたものを指しており、現在絶滅してしまったに等しいこの海苔をかけた“本当の花巻”は無くなってしまったと考えていい。その逆に元々のコンセプトを超え、自由に海苔の風味を麺に合わせるものも増え、そこを楽しむメニューとなっている。
饗 くろ㐂(浅草橋)
素材を新たに使うとき、生産者を必ず訪ねるという黒木さん。良質な海苔をあえて千切らず、蓋をするように丼に盛り付け、蓋にした板海苔をめくるときの香りと、スープと海苔が溶け合うグラデーションを楽しめるように演出した。形式より現代型の花巻そばとしての魅力に溢れていた。(※期間限定メニュー
巌哲(早稲田)
巌哲の花巻のアプローチは明石の生海苔(干す前の状態のもの)を敷き詰めたもの。豊かで濃厚な香りをより一体感のある状態で食べてもらうことにフォーカスした種物であった。また、ある意味でアサクサノリのような溶け出し麺と絡めるところを重視しており、もしかすると江戸の人たちが「これだよ」と納得するものなのかもしれない。
かねかつ(南浦和)
職人的なこだわりで、一躍人気店となったかねかつ。のりまみれ、というメニューが花巻である所以は、蓋をして供されるところにも表れている。この蓋を持ち上げるとブワっと出汁と海苔の良い香りが充満する。店のコンセプトによく合ったメニューと言えるだろう。
【天(ぷら)中華】
蕎麦やうどんの天ぷら乗せを中華に転じたものだが、油で揚げるということもあって、もともと油脂分を持つラーメンと組み合わせると「くどい」というイメージを与えてしまうからか、天ぷら蕎麦、うどんの普及率と比べると低い種物と言わざるを得ない。だが、逆に提供するお店は全国各地に分布しており、根強く愛されている。青森や宮城では天中華と呼ばれ、姫路や西日本では黄そば(黃ぃそば)と呼ばれる中華麺に和出汁をかけたものもあり、そこに天ぷらが乗ることも多い。また、路麺(立ち食いそば)でもトッピングに天ぷらが乗せられるお店もあり、ルーツを持たずに発生した天ぷら中華と言えるだろう。
大盛庵(長者町)
蕎麦屋の中華そばはときとして、本筋の日本蕎麦の人気をしのぎ、お客さんの7割が注文する大人気メニューとなることもあるが、天ぷら中華となると置いてあるお店は限られる。そんな中、仙台の大盛庵は、天ぷら中華が一番人気。なんといっても、提供時にパチパチと揚げたての音が聞こえてくる海老天が魅力。その揚げ油がおぼろげにスープへと拡がってくると、ラーメン的な油の使い方とは違う味わいへと変化する。
三松(泉岳寺)※閉店 みまつ(馬喰横山)
蕎麦屋の種物中華でも、種物をおおらかに取り入れているのが路麺だ。もっとも、路麺で中華そばまで用意しているところは少ないが、蕎麦(うどん)にトッピングを選んで乗せるというスタイルは中華そばでも通用することが多い。三松屋食品が運営する三松は、各店に中華そばを用意し、天ぷらを自由に乗せることができる。ラーメンに天ぷら、に躊躇する人にはうってつけの入門編である。
【餅中華】
以前に『餅中華の世界』としてまとめたものがあるので、そちらを参照してほしい。蕎麦屋、甘味処には餅が入れられるところが多いが、ラーメン専門店で入れられるところは非常に少ない。
邦ちゃんラーメン(両国)
ラーメン専門店でトッピングに餅がある珍しいお店。裏メニューでもなんでもなく券売機にも載っている。ちゃん系と呼ばれる系譜でもあるが、餅があるのはこの両国店だけである。しょっぱく、油が効いているいかにも中華そばらしいラーメンにも餅が合う新しい価値を生んだ。
【月見ラーメン】
蕎麦、うどん店ではポピュラーな生卵のトッピング。見た目の遊び心だけではなく、味をまろやかにし、栄養価にも優れた卵トッピングだが、中華そばは、どちらかというとゆで玉子(味付け玉子)がかなり支配的だ。生卵はすき焼き風に麺をつけ、食べるものや、油そばのトッピングとして使われ、どちらからというと麺にまぶす傾向が強い。力強いスープを希釈したくない心理からかもしれないが、所謂味変アイテムとして溶かしどころを自分なりに楽しむ活用方法も魅力だろう。
成光(神保町)
神保町半チャンラーメン四天王のひとつとしても名を馳せるお店だが、町会長も務める由緒正しき神保町の街中華である。多様なメニューのひとつとして、というよりは、前身が駄菓子屋で、その後中華へに転身した経緯があり、その流れで柔軟に取り入れられたメニューなのかもしれない。濃いめの東京らしい醤油ダレに黄身色が映える。
共楽(東銀座)
東京ラーメンの代名詞として3代続く名店にも生卵のトッピングがある。むしろ、味玉がなく、お店として生卵を落とす食べ方を推奨しているともいえる。濃いめの醤油味に油、煮干しの香り。現代性を兼ね備えながら、スープをアレンジしていく柔軟性を提案する懐の深さが、老舗の魅力である。
【とろろそば(やまかけそば)】
ととろが別盛りになって提供されるものをとろろそばといい、汁物の上にかけたものはやまかけそば、と一般的に言うらしいが、ここは一緒に扱うことにする。とろろをつけ麺のスープに入れた「もりとろ」を定番メニューとして提供したのは、東池袋大勝軒の山岸一雄さんだったが、濃いスープとの相性からかラーメンではあまり普及していない。
巌哲(早稲田)
2025年4月で閉店が決まっている巌哲。季節ごとの準レギュラーメニューともいうべきものの中に「山」という冷やし麺がある。蕎麦的に食べるメニューではあるが、中華麺の良さをダイレクトに味わう意味で蕎麦やうどんと大きく違う。ただ、とろろが絡んだ麺のすすり心地の良さは共通。麺がいくらでも食べられると錯覚してしまう。
天神下大喜(二長町)
レギュラーメニューでさえ多彩なのに、夜黒板メニューで展開される限定麺の数々は遊び心溢れる。蕎麦屋からインスパイアを受けたメニューも多く、山かけ系のメニューはこれまでも多く提供されてきた。和を基本とした構成だから、そういった種物は抜群に合う。
【納豆そば】
納豆そばには種類がいくつかあり、冷やしぶっかけのトッピングとして、というパターンが多いが、大坂砂場には卵と納豆と撹拌したものが乗る。中華にはどちらかというと後者のものが多い。
天神下大喜(二長町)
まさにその大坂砂場をモチーフに作った遊び心溢れる限定メニューだったのが、レギュラーメニューへと昇華した。果たして和心あるラーメンに納豆は運命的に合っていて、こればかり食べる固定ファンもいるくらいである。
天下一品(中野)
天下一品には(特に直営店には)納豆トッピングが存在する。ただでさえ、ドロドロとしたスープに納豆を入れるとネバネバが加わり、圧倒的な混沌が生まれるが、それが病みつきになるという人も多い。比較的単調なスープのアクセントにもなる。
満来(新宿)、ほりうち(新宿)、他出身店
納豆のラーメンといえば、この系列を思い浮かべる人も多いだろう。ボリュームとチャーシュー、それだけでも十分な差別化が可能にも関わらず、コアな人気を誇る納豆がメニューインしている。創業者が好きだったのかどうか知る由もないが、ひとつの大きな武器となっている。(満来とほりうちは納豆ラーメンにするとチャーシューは合わないという理由で入らない)
【きつね】
蕎麦ではスタンダードのきつね(お揚げ)も中華にはほとんどみられない。甘く煮付けるところがラーメンとは相性がよくないのだろうか。
中華蕎麦きつね(芦花公園)
揚げを刻んで冷やしにいれるお店はいつくかあるが、煮付けた揚げを入れるお店はここくらいではないだろうか。かといって違和感があるわけではなく、ふわふわの揚げが濃密にスープによく合っている。柔軟性の勝利である。
【牡蠣そば】
冬場の牡蠣そばも人気が高い。旨味も栄養価もたっぷりと含まれている海のミルクは、スープに入れると牡蠣の風味を徐々に広げていく非常に影響力の強い種物だ。強いスープのラーメンとの相性も当然いい。最近は、ミキサーしたペーストをスープに混ぜ込む店も増えたが、種物としての魅力を再度発見したい。
元祖スーラーメン(阪東橋)
冬の時期になると登場する名物メニュー。ソテーされた牡蠣が乗るが、その油と牡蠣の風味がスープに移っていく様が素晴らしい。もう少し人気が出てもいいくらいよくできたメニューだ。
キッチンきらく(神保町)
麺や七彩のグループだが、取り扱う素材、メニューはまさに七変化。ただ、やはり稲庭中華そば(麺)を使った中華そばの素晴らしさは抜けている。季節折々のメニューが見逃せないが、牡蠣があったなら是非食べるべき。端正な稲庭中華の麺と鶏のスープに牡蠣のエキスが上品に溶け込む。
②日本発!独自発展した種物
次に日本のラーメン、日本の中華料理の流れで生まれたであろう種物たち。④との違いは非常に曖昧だが、元ネタが中華ぽいものをそちらに置き、こちらは日本にしかないようなもので①に属さないタイプにした。また、餡掛けになり、日中が折衷するパターンや、そもそものラーメンはここに該当する。チャーシュー、メンマ、ナルトなど。種として乗せるだけでなく、全体のスープが餡掛け(フル餡掛け)になっているところもある。
タンメン
もやしそば
ニラそば
ねぎそば
スタミナラーメン
カレー
【タンメン】
最もポピュラーな種物といえば、タンメンになるだろうか。タンメン(湯麺)という言葉自体はもともと中華料理で、「スープに麺が入ったもの」を表すが、それが日本では転じて炒めた野菜が乗った塩ベースのラーメンとなった。発祥は定かではないが、一説には横浜の一品香とも言われる。塩ベースであるところに中華式のルーツを感じるが、それに該当する料理は見当たらない。また、炒めた野菜をスープと煮ることがベースになっているが、炒めたものをそのまま乗せたり、応用したりアレンジをしたメニューの裾野は相当に広い。横浜発祥だとすると生碼麺から派生したとも言える。また、○○タンメンというご当地ラーメンとして売り出そうとする地域もいくつかある。
はつね(西荻窪)
タンメンといえば必ずはつねの名が挙がるほどの有名店。もともと、戦後母が小料理屋として始めた店を先代がラーメン店にかえ、現在の2代目へと引き継いだ。和食出身の繊細な技が入る丁寧な作りも愛される理由で、いつも行列を作っている。野菜や肉類を炒めたものを乗せるパターンもあるが、ここは軽く一緒に煮立てる。その割にスープは濁らない。
大宝(白金高輪)
はつねが繊細なタンメンの代表格なら、こちらはジャンクなタンメンの名店。ニンニクをバーンと叩き、繊維を潰したものをたっぷりと入れ、野菜と炒めていく。塩分も高く、とにかく一口目からインパクトがある。また、種物中華の宝庫で、もやし、天津、広東、五目と揃える。営業時間は正確でなく、およそ目安の時間だと思ったほうがいい。
集来(大門)
老舗手打ち麺の名店としても知られる集来だが、人気メニューはその手打ちのタンメンと五目そばである。手打ち麺の食べごたえと具材の食べごたえ、量以上の満足感を得ることができる。2024年昨今手打ち麺のお店がたくさん出てきているが、どちらかというとストイックな麺とスープ中心のものに寄りがちだが、こうした種物との相性ももっと追求してほしいものだ。
【もやしそば】
これも生碼麺がルーツとなっている可能性があるが、餡かけ状になっているか否かも含め、純然たるもやしを中心としたメニューとして日式に発展していった。食料が乏しかった戦後に日式のメニューとして拡がっていったことが予想される。タンメンとも違い基本的に醤油ベースである。
喜楽(渋谷)、永楽(大井町)
大元は大田区中央二丁目にあったという喜楽大飯店の流れ。台湾人(台南)による台湾式の麺をアレンジし日式として発展し、それぞれの個性で大人気店となった。ともにもやしそばを名物とするが、渋谷喜楽は炒めたものをそのまま乗せ、永楽は餡掛けにするのが面白い。また、同時に揚げネギが浮かばせるのも特徴で、揚げネギ中華を種物と見立てることもできる(ねぎそばの項)
一寸亭(千駄木)
谷中のシンボリックな存在。日本の街に馴染む街中華としてながらく人気があったが、最近、店の事情でメニューを大幅に絞っての営業となってしまった。その中でも一番人気を誇るのがもやしそば。ベースのスープが分厚く美味しいからこそ活きるもやしそば。もやしの餡掛けが乗るタイプ。
流。(東十条)
冬季の限定メニューとして毎年登場する名物メニュー。こちらはフルあんかけタイプ。煮干しスープをアレンジしており、現代的なスタンスでクラシックなメニューを復刻させている。故に若いファンも多く、こういったメニューを食べ、老舗へと向かう流れができるといい。ラーメンは新しいアイディアの積み重ねではなく、これまでの料理の磨き直しで発展してきた歴史である。
【ニラそば】
もやしそばに類似するが、ニラが中心であることと、ニラそばとして人気が高いこと、また、新世代のニラそばがあることなどの理由でカテゴリーを設けた。基本はニラ炒めがラーメンに乗る。そういう意味では後述のスタミナとも被る側面がある。香りがスープに移る度合いでいえば種物でも最も強いものだと言えよう。ルーツは番号中華(※十八番や一番のように番号が屋号に入っているお店のこと)の元祖である神田にあった五十番と言われている。また、名古屋発祥のご当地ラーメン台湾ラーメンも広義にはこのカテゴリーに入れてもいいだろう。
すずき(三河島)
築地から豊洲市場に移ったやじ満出身。行きやすさから、こちらのニラそばを取り上げる。もっともスタンダードなニラ炒めが乗るタイプ。スープは醤油ベースだが、ニラの香りが支配的である。が、これが病みつきになる。
森や(戸塚)
およそ一般的にはニラそばといってこういったメニューを想像しないだろう新鮮なニラをきれいに拭き上げ、醤油ラーメンに乗せるタイプ。だが、この質の良いニラをスープに浸すとじわじわとニラの出汁が拡がっていくのがこの上なく楽しい。種物とはスープとの調和である。この真理を一番味わえるシンプルな種物メニューの傑作。
季織亭(代々木上原)※閉店
こちらはニラのお浸しがトッピングされているタイプ。つけ麺のトッピング的な扱いで、種物というには強引だが、これもスープと合わせるとニラそばの良さが十分に出ることから番外編として掲載する。
【ねぎそば】
ねぎそばが多くみられるのは横浜中華街である。ただ、香港の薑葱撈麺(汁なしでネギの短冊切りがたっぷりと乗せられている)などはあっても、汁物のネギそばは中国や香港で見られず、日本(中華街?)発祥ということでこのカテゴリーに入れた。ネギのをどっさりと入れたラーメンというと裾野は広がるが、それはラーメンとネギの相性がいいからである。ネギは切り方で印象も影響も違うが、ここでは薬味としてのネギではなく準主役としてのネギそばを取り上げるが、葱油や揚げネギ、焦がしネギは種物に近い影響力があることから、このジャンルに入れる。
まる㐂(松戸)
中華料理出身の店主よる中華(街)寄りのネギそばを永福町大勝軒譲りのスープと合わせる、まさにこの企画のためにあるようなメニュー。ネギ大盛りも注文できる(有料)。通常のラーメンでは香味のためにスープの表面にカメリアラードが浮くが、ネギそばはラードを入れず、ネギから染み出す出汁を楽しむ趣向。心憎い。
ラーメンショップ(牛久結束)
ネギラーメンといえばラーメンショップという認識の人も多いだろう。どのラーショにいっても、注文のほとんどはネギチャーシューである。クマノテという謎の調味料とネギを和えるのが基本だが、その成分は(本部が取材拒否ということもあり)不明である。時期により辛くもなるネギの味を抑制し、ラーメンと調和させる。
カミカゼ(戸塚)
神奈川淡麗系と呼ばれる系譜には、クラシックなトッピングである揚げネギをラーメンに活用することでそれまでのラーメンと差別化し、良い香りを演出した。その代表格。この香味油を印象のアクセントとして積極的に使う技法は、のちに様々なラーメンの演出として定着した。
【スタミナラーメン】
種物の中で最も定義付けが難しいのが、このスタミナラーメンである。広義の意味では、ニンニクやニラ、玉ねぎなど香りが強いものを具沢山の食材と炒めてボリューム満点でスタミナが強くようなラーメンを指すが、狭義的に水戸のスタミナ(冷やし)ラーメンや奈良の天理スタミナラーメンや愛知のベトコンラーメンなどのようにコンセプトは同じでもご当地ラーメンとして認知されているものまである。今回は、種物中華そばのガッツリ担当という位置付けで収めたい。
緑町生駒(錦糸町)
生駒軒の系譜。日本一予約が取れない街中華と言っても過言ではないだろう。スタミナラーメンは創業初期からのメニュー。所謂、広義の意味でのスタミナラーメンのスタンダードである。次項の排骨麺も十八番で、このスタミナラーメンにトッピングすることもできる。汎用の街中華の麺よりはやや番手の大きい細麺を用いているのも良い。
アリランラーメン八平系(長生郡長南町)
千葉の秘境ラーメン。家族、親族経営でこの一帯に数店舗を展開している。アリラン峠を越えられるくらいのスタミナのつくラーメンというのがネーミングのルーツ。ゴロゴロとしたニンニクや豚肉の他ネギ、ニラなどを豪快に炒めタネとする。千葉ご当地ラーメンらしく濃いめの醤油ラーメンに合わせるのは、現在人気を博す、スタ満と呼ばれるラーメンにも大いに影響を与えていると思われる。
大進(ひたちなか)
茨城の水戸、ひたちなかを中心に人気のあるご当地ラーメン。ご当地ラーメンを取り上げる趣旨はないが、温冷両方のメニューがあることから紹介する。温はいわゆる種物中華そば。冷は水で〆た麺に温かい餡が乗る。レバーやかぼちゃといった具材が入るところに特徴がある。
【カレーラーメン】
カレー南蛮は蕎麦、うどんにはあるが、カレーとラーメンは昔から融合を試みてきたことから、このカテゴリーに収めることにした。ただ、2大国民食の噛み合わせはあまり良いとは言えない。どちらの良さも活かして、となると余計に難しく、最近はスパイスラーメンというカテゴリーで模索が続いている。
祖師ヶ谷大蔵大勝軒(祖師ヶ谷大蔵)
いわゆるもりそばで名を馳せる大勝軒のグループだが、この大勝軒は多彩なメニューで祖師谷に馴染む大衆店である。その中にカレーラーメンがある。そもそもカレーライスがあるので、それをタネに、ということであろう。大勝軒らしい中太麺との組み合わせがたまらない。
③中華料理に由来した種物
所謂中華料理のメニューに名を連ねるもの。だが、④とはグレーゾーンが存在する。典型的な例は担々麺である。担々麺はもともと四川成都の名物料理とされるが、それは汁無し。日本に渡り、陳建民によってスープ麺として大ブレイクしたメニュー。ニュアンスは④に近いが、発祥である点に重きを置いた。中華の麺料理のバリエーションは奥が深く、麺料理の分類が目的ではないので、ここはメジャーなものだけを載せておく。
担担麺
蝦仁湯麺
排骨麺
【担担麺】
担担麺(Wikipedia)
詳細はWikipediaを参照してもらうとして、日式担担麺に至るルートは広く知られているように、四川省出身の陳建民が、成都では汁無しであったものを日式にするため、よりポピュラーな汁物に仕上げたところに始まる。担担麺を種物とするには違和感もあるが、以前にも、『日式醤油担々麺と久田大吉の世界』でまとめたように、日本人の舌に合わせて改良された歴史でもあり、ラーメン層と担担麺層(芝麻醤や辣油)を分けてそれぞれに発展してきたことからも参考として載せることにした。
はらだ(勝浦)
いわゆる勝浦タンタンメンというご当地ラーメンの老舗。ラーメン層に辣油をドバっとかけることで種物的な味わいになることから、あえてこのお店をチョイスした。ベースは千葉らしい濃い目の醤油ラーメンである。
【蝦仁湯麺】
冒頭、べんてんの田中さんの言葉として、引き合いに出したのがこの蝦仁湯麺である。いわゆる餡掛けのエビそばである。塩ベースのスープに乗り、スープの旨味の補う役割を果たす非常に秀逸な種物である。日本の塩ラーメンの広がりと、味の向上はこのエビ餡を伴わずに同じような旨味を生み出そうとしてきた歴史と言い換えるができるのかもしれない。
鶏舎*チイシャ(池尻大橋)
街中華の名店として広く知られる(夏の冷やしネギそばも)が、メニューの多くは種物に割かれている。ネギそば、タンメン、肉細切り、五目うま煮、ザーサイ、高菜、酢のきいた辛いそば、等種物のオンパレードでまたそのいずれもが名作だが、エビそばは所謂蝦仁湯麺である。俗っぽい味付けだが、くどくなく後を引く。庶民的なのに本格的な調理の確かさがある種物中華そばの模範店。
熊(久我山)
鶏舎と同じような立ち位置にいるが、こちらはさらに自家製麺である。うまにそば、天津麺等とともに海鮮そばがある。エビというよりイカなども含めた海鮮の塩ベースの餡掛けだが、上品かつ印象点の高い種物メニューである。
【排骨麺】
排骨は骨付きの豚バラを揚げたもの。それを醤油ラーメンに乗せるのだが、中華料理というより台湾でポピュラーなメニューである。また、骨付きを乗せると食べにくいことから、骨付きが乗るケースは少なく、また、部位もバラではなく他で代用されているところも多い。スープに乗せるとその揚げ油は広がり、ソミュール液などに入る八角や五香粉などがスープに移り、強い影響を与えるので、それも含めて楽しむべきである。
味の新宮本店(宮城)
卓球の愛ちゃんこと福原愛が3歳から通うというお店。注文が入ってから打つ麺、塊から伸ばし、打ち付け手延べしていく所謂「拉」麺である。創業1968年。最近秋葉原のシンボルである本店が移転のため閉店になると衝撃のニュースが流れた肉の万世で修行した方が開いた。肉の万世でも人気だった排骨麺が人気である。
ORIGAMI(赤坂)
オールデイダイニング「origami」には旧キャピタル東急ホテル「ケヤキグリル」から受け継いだメニューも復刻され食べることができる。名物はこの種物、排骨麺である。ターザン山本がジャイアント馬場に幾度となくおごってもらったというエピソードもあるこの排骨麺。排骨麺3,542円には普遍の価値がある。
珉珉(鐘ヶ淵)
一気に下町の排骨麺へ。『濹東綺譚』の舞台となった墨田区4,5丁目、いわゆる旧玉ノ井地区を含んだこの周辺一帯。永井荷風はラビリンス(ラビラント)と呼んだが、今ではその名残を確認できるところは少ないが、麺好きには珉珉がある。排骨は大人気だが、別皿でもらいビールのつまみとしながら、後半ラーメンの種物としてスープに鎮めるファンも多い。
④中華風だが、日本で生まれ発展してきたもの
②との違いは「中華料理風」の色合いが強いこと。だが、中国には類似するメニューがなく、日式の中華として発展しているものを指す。もしくは中華料理単品としては存在するが、それを麺の上に乗せたのが日本というパターンである。
天津麺
麻婆麺
酸辣湯麺
ちゃんぽん
生碼麺
広東麺
台湾ラーメン(※ニラそばの項目で補完)
【天津麺】
天津という地名が入ることからも中華料理由来っぽく考えがちだが、日本で生まれたメニューである。詳しくは以下のこの記事を参照にしたい。
いうまでもなく元ネタならぬ元タネは芙蓉蟹である。これをご飯の上に乗っけたり、麺の上に乗っけたりしたというわけだ。
日本橋よし町(日本橋大勝軒)※閉店
人形町大勝軒系列の芙蓉蟹、天津麺はどこも美しかったが、独立した人形町大勝軒~日本橋よし町の楢山さんが作る天津麺は美しく、そして美味しかった。今となっては食べられないのが残念でならないが、現在浅草橋大勝軒では、同じように品のある天津麺が食べられる。
【麻婆麺】
これも天津麺と同じで、もともと麻婆豆腐が単品の中華料理として存在し、それを麺の上に乗せたものになる。辛いメニューでいえば担担麺があるが、特に街中華では人気があり、メニューに入っている事が多い。
かみ山(三鷹台)
経堂から三鷹台へと移転したかみ山も種物中華そばの宝庫である。数ある傑作の中でも、個人的には麻婆麺を推したい。麻婆麺は例えば天津麺などと違い、固形部分が少なく(唾液に含まれるアミラーゼが分解し)餡のとろみがなくなってくると種物部分がすべてスープと同化してしまうが、かみ山はそのとろみの塩梅が秀逸かつ、仮にとろみがなくなってもラーメンとして十分に機能するのだ。
【酸辣湯麺】
酸辣湯麺(Wikipedia)
これも中華料理では通常スープとしてポピュラーであるが、麺仕立てにすることで日式として定着した。
多賀野(荏原中延)
すべてのメニューが名作と勝手に銘々している名店多賀野の中から、酸辛担麺だけを取り上げるのも忍びないが、多賀野の中でもなかなか取り上げられないメニューでもあるので触れておきたい。正確にいうと酸辣湯麺ではなく、酸辛担麺であり、卵とじもしていない。その代わりに魚介のきいた多賀野の絶品スープで味わう酸辛辣のスープである。
【ちゃんぽん】
もともとは湯肉絲麺という福建料理がモチーフにした支那饂飩がルーツであると言われている。そういう意味ではラーメンというもののカテゴリーに入れていいのかの議論は当然あるだろう。ただ、ここではおおらかに種物ということで参考程度に載せておく。
來來來(三軒茶屋)
首都圏で本格的なちゃんぽんを食べたデビュー戦が來來來である人は多いだろうし、それは2024年の今もあまり変わっていないような気がする。
【生碼麺】
サンマーメン(Wikipedia)
Wikipediaにもあるように広東麺がルーツにある。もやし中心の具材の醤油餡が乗り、少し甘めに落とし込んだ味が広く愛されることになった。具材は元々がまかない料理だったということでルールはなく、だが、もやしは必須と言える。
かみ山(三鷹台)
二度目の登場のかみ山。生碼麺の名店は数あれど、比較的若い店が生碼麺を売りにして店を起こすことはあまりない。スープの厚み、少し甘めの落とし込んだ味付けと炒(チャー)の勢いと力強さから生み出される具材のシャキシャキさ。頭の中で描く理想の種物、生碼麺を体現している。
【広東麺】
広東料理の五目うま煮がルーツ。五目うま煮は別名八宝菜である。つまり、具沢山な肉や野菜を餡掛けにしたものを乗せた麺ということになる。広東料理は醤油ベースの料理が多いが、塩ベースの広東麺も稀にある。いずれにせよ、中華料理の単品をラーメン上に乗せる文化は日本が生み出した傾向が強い事がわかる。ただ、乗せるわけではなく、どうスープと調和させ、良い影響を与えつつ料理としてまとめるかは日本の職人たちの努力の結晶である。
浅草橋大勝軒(浅草橋)
広東麺は基本醤油ベースに醤油餡だが、ここ浅草橋大勝軒は餡掛けは全般的に塩ベース。それ故にスープと溶け合うグラデーションがわかりやすい。また、品の良い餡と滑らかな自家製麺との相性も抜群に良い。広東麺、あーあれね、のひとつの上の美味しさをみせてくれるところが、歴史と伝統の100年レストランの味である。
⑤その他、店独自のもの
これは①~④の延長線にあるもので、何かの食文化に由来しているものもあるが、店のアイディアに端を発した、店由来の種物、と言っていいだろう。最近のラーメン店が独自性を出したり、新たな食の提案として開発されたメニューが多い。
うず担(赤坂)
元々は中華うずまきの別館として麺料理の店で出発。その後うずまきが締まり、その別館がうずまきシェフズテーブルとしてリニューアルしたのに伴い、うずまきの担担麺→うず担として再出発している。独創的な中華料理で魅せる店で、柑橘類を使った冷やし中華なども面白いが、このお店はハーブの塩ラーメンというメニューが良い。一面ハーブが敷き詰められた塩ラーメン。想像通りハーブの香りがラーメンに移る。だが、洋風に振り切らずラーメン的であるところが面白い。
萬福飯店(下丸子)
地元に根付いた街中華という風情で、種物中華そばも多数そろえているが、注目したいのは胡椒湯麺。かつて品川駅港南口に天華というコショーそばを売りにするお店があったが、まさにあのラーメンのようなビジュアルである。とろみのある塩ベースのスープに胡椒がたっぷり。天華はブラックペッパーパウダーだったが、こちらはホワイトとブラックの併用。じわじわと体が温まる。
龍朋(神楽坂)
チャーハンで有名な神楽坂龍朋だが、本質的な魅力は独学で築き上げた個性的なラーメンにある。種物も充実していて、トマトたまごめん、麻婆麺、広東麺、とろろラーメンと幅広く展開している。その中で否が応でも目に留まるのが、東京ラーメン。何故東京と呼ぶのか。「小津安二郎監督が好きで『東京物語』からとった」というのが真相のようだ。それをこういうラーメンに落とし込む感性が龍朋らしく洒脱でいい。
新珍味(池袋)
創業1952年(昭和27年)創業。67年の歴史は創業者でオーナー、100歳となった現役の台湾人革命家・史明(しめい)とともに台湾独立運動のアジトとして機能したと言われる。注目の種物は、中国北方の伝統料理・打滷麵(ダールゥミエン)がベースにした特製ターローメン。スープ全体がトロミがかったクセになる味だが、スタミナ麺的なニンニクの強い香りが、当時の時代背景の“匂い”と重なる。
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