小さな侵略者 第二部
「ハイ、ドクターご機嫌はどうだい?」
「やあレイジご機嫌だね」
「今日は何の検査なんだい、定期健診の時期じゃないだろう」
「また新たなウイルスが発生し始めているんだ。そのためのワクチンを打つことになってね」
「所長連中からすりゃ、ウイルスで死んでくれって思ってるんじゃないのか」
「冗談がきついぞ」
そのやりとりを別室の5人は見ていた。
「さあ記念すべき一人目だぞ」
「どきどきするわ」
「ええ、そうね」
「楽しみだ」
口々に言う中、メイソンはモニターをじっと見ていた。
「さあ、来い来い」
オーウェンは待ちきれないといった感じでソワソワしている。
「おっ、来たんじゃない?」
ローマンは壁にずらっと並んだモニターの一つを指さした。
「うまい事行ってくれよ」
全員がモニターを注視していた。
こうしてまず第一陣として12人に投与し、まずは状態の確認とデータ取りを行っていった。
「うまく着床してくれたな」
「ええ、第一段階はクリアね」
「早速始めようよ」
「まずはレベル1からだ」
「オーケー」
実験はオーウェン、サマンサ組と他3人で別れ、6人ずつ行っていくことにした。
ナノマシンは順調にデータを集め脳へ到着した。
これからナノマシンを操作し感情をコントロールする。
レベルは1から6まであり、数字が上がるほど感情の起伏の増減を操作できる。
基本的にはマイナスな感情は減らし、プラスの感情は増幅させる事となる。
オーウェンチームは怒り、悲しみ、憎悪、恐怖、驚嘆、警戒の感情を下げる実験。
メイソンチームは恍惚、喜び、信頼、平穏、敬愛、容認の感情を上げる実験を行う。
「よし、設定は終わったぞ」
「ここからね」
脳波のデータを確認し変化をチェックする作業が続く。
「レベル1だと、やはりこの程度の差しかでないわね」
「レベル2までは外見ではわからないだろうな」
「レベル3以上までのウォーミングアップみたいなもんだからね」
「焦らずじっくりいこう」
「そうね」
感情の起伏は微々たるものであり、健康状態を中心に観察を行っていった。
「どうだろう予定より少し早いがレベル2に進んでみないか」
「ええ、私は賛成だわ」
「あと一週間は様子を見た方が良いと思うが」
「大丈夫だろ」
「だが何かあったら」
「所長も言ってたろ、万が一があっても問題ないって」
「しかし」
「俺らのチームは先に進むぜ、そっちのチームは様子を見ればいいだろ」
「メイソン、俺らも先に行こうよ、毎日同じデータは見飽きたよ」
「・・・わかった」
実験はレベル2に進み同様にデータを取っていった。
脳波の変化と共に健康状態に少しづつ変化が出始めていたが、2週間もすれば落ち着いてきていた。
そして、レベル3へと移行する事となった。
レベル3になると被験者に中に、不調を訴え始める者が出てきた。
頭痛、吐き気や手足のしびれなど人により様々な症状。
五人はそれぞれに対し色々な角度からナノマシンへ指示をだし、観察を続けた。
「だいぶ落ち着いてきたわね」
「さすがにこれだけの人数を一度にみるのは疲れるな」
「これだけのデータを取れるんだし、苦労も報われるわよ」
「レベル4だとどうなっちゃうんだろう」
「ここからはより慎重にいかねば」
「そうね」
そしてついにレベル4の実験が始まった。
「さあ、行こう」
「オーケー」
「オーケー」
「オーケー」
「オーケー」
五人はキーを叩いた。
「おい、これ見ろ」
「対象の感情の数値が明らかに低くなっているわ」
「こちらは高くなっている」
「態度にも変化が出てるわ」
「成功じゃない?」
「健康状態も問題なさそうだ」
塞ぎこんでいた者は、明るくなり、全く話さなかった者は話すように、わめき散らかしていた者は静かに、各々に変化が見られた。
「いやぁ、あんなに暴れ者だったレイジが大人しくなるなんて驚きだ」
所長は嬉しそうに言った。
「残りのメンバーはいつから?」
「そうですね、もう少し経過観察を行って問題無ければ実施する予定です」
「期待してますよ」
「任せてください」
ローマンは胸を叩いて答えた。
そして、第二陣の実験が始まった。
三部へ続く