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小さな侵略者 第三部 完結

残りの15人への投与がはじまった。
「今回はレベル2からスタートするぞ」
前回の実験でレベル1では、ほぼ全く影響が見られなかった事から、今回はレベル2から始めることした。
「ふむ、問題は無さそうだな」
「オーウェンこれを見て、拒絶反応が少し出ているわ」
「この程度ならじき治まるだろう」
「そう…」
第二陣は、第一陣の被検体とは別の感情の操作を行っていくことになっていた。
経過を観察しつつ、徐々にレベルを上げていった。
感情の種類によっては表面に出にくいものもあったが、脳波データを記録していった。
「これだけのデータが集められるなんて夢を見ているようだわ」
「ああ、確かにそうだな」
「ラッキーだね」
実際、これだけの実験をするとなれば数年単位の時間が必要となってくるだろう。
ましては、今回は特例中の特例である。本来の時間の半分以下の時間で、更に一度に行う実験人数も多い。
この異常な状況に対して、当初戸惑いを見せていたメンバーも実験が進むにつれ、実験データに夢中になってしまい何時の間にか慣れてしまっていた。
「なるほど、こういうデータになるのか」
「今までに無いものばかりだわ」
「見て見て、この数値」
「これほどとはな」
「この依頼、受けて良かったわね」
第二陣もレベル4まで進み、2週間が過ぎた頃だった。
「なあ、サマンサ」
「なに?」
「2種類の感情を操作してみないか」
「うーん、おもしろそうね。でもメイソンが何て言うか」
「だからこっちだけでやろうぜ」
「…わかったわ」
「とりあえず、このベイビーから始めてみよう。一旦レベル3に落として、他の感情をレベル2でやろう」
「オーケー」
二人はあまり変化の少ない被験者を選び、実験を始めた。
 
「怒りの感情と悲しみの感情だと怒りの感情が強く表れるんだな」
「嫌悪と悲しみだと、嫌悪の感情がより強く出ているわ」
「打ち消されることはなく、どちらかにより強く表れるようだ」
「愛情が憎しみに変化するのもそうゆうことなのかしら」
「なるほど、そういった組み合わせもトライしてみよう」
「わかったわ、よくある事例の組み合わせをピックアップするわ」
こうして二人は、愛情と憎しみ、悲しみと喜び、恐怖と敬愛、不安と苛立ちなど様々な感情を組み合わせ、感情のメカニズムを記録していった。
「メイソン、これを」
「なんだこれは?」
「この部分だけすっぽり無くなっているみたいだ」
メイソンチームは一つの検体データに着目していた。
ある感情を一定以上のレベルまで上げると、他の感情が一切現れなくなってしまっていたのだ。
「この検体独特の反応なのか、それともこの感情独自の特長なのか調べる必要があるな」
 
「オーウェン、いったいどういうことだ!」
「なんのことだ?」
「とぼけるな!二種以上の感情を操作する事など許可していないぞ!」
「だろうな、だから黙ってやったんだよ。だが、素晴らしいデータが取れたんだ。」
「危険すぎる、今すぐ中止しろ!」
「メイソン、落ち着けよ。いいか、この機会を逃したら次はいつになるかわからないんだぞ、お偉方が望む以上の結果を出せば国家プロジェクトになる事だって夢じゃない。そうすれば俺たちは国家プロジェクトの中心チームとなって、一躍ヒーローだ」
「俺はヒーローになるために科学者になったわけじゃない」
「本当にメイソンだな、お前はそうじゃなくてもほかの連中の気持ちはどうかわからないぜ」
そう言って部屋を出ていくオーウェンをメイソンは難しい顔で見ていた。

「どうしたの?」
「メイソンにばれた」
「そう、なんて?」
「中止しろってさ」
「当然だわね、で、どうするの」
「止めるわけないだろう、誰もおこなっていない実験、初めて見るデータ。うまくいけば国家プロジェクトだってありえるんだ。ヒーローになるチャンスなんだ」
「そうね」
妄信的なオーウェンを冷静に見ながらサマンサはつぶやいた。

「おい、囚人の様子が変なんだが」
刑務所長が焦ったような顔をしながら、研究室に入ってきた。
「どの囚人です?」
オリビアがPCで確認しようとしながら答える。
「実験体ではない囚人なんだ」
「えっ?どうゆうことですか?」
「勤務医に見てもらったが、原因がわからないそうなんだ。症状が実験体の囚人と良くにているとのことなので、確認してもらいたい」
「了解しました」
連れてこられた囚人は、明らかにおかしかった
「ずっと泣き続けているんです」
看守が伝える。
「いつから、この状態に?」
「二日ほど前から徐々に症状が出てまして、本日早朝よりこの状態です」
「急に泣き出したりなどは、あることなんだが食事も取らずに泣き続けているのはあまりないので勤務医に見てもらったわけなんだ」
所長が言う。
「なるほど、調べてみましょう」
薬剤を投与し、落ち着かせた状態で検査を行った。
「なぜ、どうゆうこと?」
「どうした」
「ナノマシンがいるの」
「そうか、どこかで入れていたのか」
この時代、様々な理由で体内にナノマシンを入れている者がいた。
治療目的、健康管理、個人認識用、行方不明防止など。
「そうかもしれない、ただいる場所がその場所なの」
「その場所?」
「私たちの場所よ、感情を操作する場所」
「なんだって?どうしてそこに?」
「わからない、でも偶然じゃない気がするわ」
「いやな予感がするわ」
サマンサは得体の知れない不安を感じていた。

「ビー!ビー!ビー!ビー!」
けたたましい音が実験室に鳴り響く。
「なんだ!どうした!」
「わからない、どうなっている!」
「何も操作が出来ないわ!」
次の瞬間、刑務所内の警報が鳴り出した。
照明が消え、闇に包まれる。
「停電か?」
「いや、警報音が鳴り続けている」
「ぐぁ!」
「どうした?うぅ!」
「頭が…」
次々とメンバーが倒れていった。
 
刑務所内

「おい、なんだ。何が起きているんだ」
「火事か?」
「ハリケーンじゃないか」
「うおっ!真っ暗だ」

「ぐおおおおおおお!」
人のモノと思えない声があがる。
何かが壊れる音が、あちらこちらで聞こえてくる。
駆け出す音。
それらは散り散りになり四方八方へと向かった。

とある町から広がったそれらは州全体へと広がり、やがてアメリカ全土へと広がっていった。
当然、それで止まるわけもなくそれらは全世界へと広がっていった。
キラキラと光を放ちながら広がるそれは、ありとあらゆるモノを飲み込んでいき、それらが通った後には人、及び人が造り出した物は何も残っていなかった。

自然と、人以外の動物のみが残っていった。

地球全土を巡ったそれらは地球から離れ宇宙へと広がっていった。


キラキラと輝きながら。


お読みいただきありがとうございました。
ご意見などいただけますと、幸いです。
細かい設定などを色々考えていましたので、別で投稿したいと考えております。
宜しくお願い致します。

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