フランス語由来の外来語
新年度が始まり、各大学でも新1年生の授業が徐々に始まっています。私が担当する授業でも、既に1回目の授業を行いました。大学に入って初めて学ぶいわゆる「第2外国語」の授業なので、例年私の授業の1回目は「初めて学ぶフランス語」という導入の為の自作プリントを配布し、フランス語がどういう言葉なのか、その特徴やアウトラインを概説することに努めます。
私たちの周囲にある外来語、いわゆるカタカナ言葉の中に意外にもフランス語由来のものが多いと説明をすると、学生は一様に驚きます。外来語というものはすべからく英語由来だと思っている学生が如何に多いかという証左のひとつなのですが、その際日本における旧来からの外来語にはポルトガル語やオランダ語由来のものが多いことを紹介すると、これにもまた驚きの反応が起こります。すなわち、日本において外国文化や外国語イコール英語というステレオタイプが出来上がっている何よりの証明になっています。
そこで、フランス語由来の外来語を1つずつ解説していくと、「あ~知ってる」とか「へ~フランス語なんだ」というリアクションが起こる訳です。これこそ「目から鱗が落ちる」瞬間と言えましょう。いくつか例を挙げてみましょう。フランス文化のストロングポイントとも言えるファッションや料理におけるフランス語由来の外来語は非常に多いです。
ローブ(robe)、ミュール(mule)、オートクチュール(haute couture)、プレタポルテ(prêt à porter)などのファッション用語、ソテー(sauté)、パフェ(parfait)、オードブル(hors d’oeuvre)などの料理用語は全てフランス語です。他にもスポーツ用語でラクロス(La crosse)、リュージュ(luge),芸術用語のアトリエ(atelier)、デッサン(dessin)など多岐にわたります。
料理や菓子の名前もフランス発のものがダイレクトに入ってきています。オムレツ(omelette)は勿論フランス料理ですが、これがあったからこそ、日本独自のオムライスも生まれた訳です。また意外に思う方が多いのはトンカツの「カツ」がフランス語由来ということです。トンカツというと、今や箸で食べるもの、味噌汁や漬物が一緒に供される体裁から和食と思われている方も多いように思います。結論から言うとトンカツのカツという言葉はフランス料理のコートレット(côtelette)が語源であり、これを英語話者が発音した「カットレット」が訛ってカツレツとなり、省略形でカツとなったという経緯があります。もしも英語を経由しないで、コートレットという言葉がダイレクトに日本の洋食に入っていたら、トンカツという言葉もトンコートだったかもしれないと思うと面白いですね。
訛ったと言えば、同じ揚げ物のコロッケも元はフランス語のクロケット(croquette)です。ネイティブのフランス人がクロケットを発音したのがコロッケに聞こえたのでしょうか?いずれにしても、伝言ゲームでも少しの言い間違いが人から人へと伝わるうちにどんどん違いが増幅していきますから、これもさもありなんといったところでしょうか。
但し言い間違いが違う意味を持ってしまうケースは避けなければなりません。皆さんご存じのフランス菓子にミルフィーユ(millefeuille)というものがありますが、この発音はミルフィーユではなくミルフイユでなければなりません。どうしてこんな表記になってしまったのか分かりませんが、これは明らかに違う意味になってしまうまずい典型例です。ミルフイユのミル(mille)は数字の1000、フイユ(feuille)は木の葉を表します。これはこの菓子が薄いパイ生地を重ねたように層を成したものである形状から付いた呼び名であると思われます。ところがこれをミルフィーユと日本では専ら発音します。フィーユ(fille)とは女の子、娘の意味になってしまうので、ミルフィーユはフランス人には「1000人の女の子」に聞こえます。ですからくれぐれも「昨日ミルフィーユ(mille filles)を食べた」などど言わないように、お気を付けください(笑)