031_コイン_ランドリィ_ブルース

031 柳ジョージ「コイン・ランドリィ・ブルース」(1985年)

作詞:トシ・スミカワ 作曲:増田俊郎 編曲:知久光康・増田俊郎

今の時代、歌は美しい風景や美しい感情や前向きな気持ちを歌うものと決まっているのですが(もちろん皮肉です)、アウトローの世界にはドラマがあるし、悲劇を美しく装飾して語り継いでいくのもまた歌の役割です。

「コイン・ランドリィ・ブルース」とは変わったタイトルですが、やはり、ダメな男と女を歌ったドラマティックなバラードです。底辺に生きる人間ならではの生き様というか、それでも人は生きて行かなきゃいけないんだなぁという定めのようなものが滲み出た歌詞が秀逸です。

そして、こんな他愛もない歌がドラマティックに響くのは、舞台が横浜だからでしょう。正確には、歌詞の中に横浜を思わせるものは出てきません。でも横浜でしかありえないんです。なぜなら、歌っているのが柳ジョージで、曲を書いたのが増田俊郎だからです。

柳ジョージといえば横浜出身。レイニー・ウッド時代を経て、ソロになってからの柳ジョージは、バンドサウンドに拘らずいろんなサウンドに挑戦しましたが、この人のヴォーカルにはストーリーテリングが似合います。何気ない小さな物語をドラマティックに伝えるスケールの大きさがあるんです。

そして、作詞・作曲を担当したまっすんこと増田俊郎(キーボード奏者、作曲家の増田俊郎・ますだとしおは別人)も横浜出身。トシ・スミカワは増田が作詞する時の変名です。横浜出身ではありますが、長らく大阪をベースに活動。あの大上留利子のスターキング・デリシャスの結成に関わり、サザンブリード、シェリフと渡り歩き、78年にソロデビューします。また、J-WALKや同郷の杉山清貴など、大人のロックなアーティストにノスタルジックで少しハードボイルドな歌詞や曲を提供してきました。

柳ジョージにはレイニー・ウッド時代から60曲近い歌詞を提供。あの「FENCEの向こうのアメリカ」もこの人の作品です。ほかにも「YOKOHAMA ’66」「HOMETOWN」「AREA 2~永遠のあの夏へ~」など、横浜を歌った歌が多いのです。ちなみに、”AREA 2”とは、進駐軍がいた時代、米軍に接収された本牧のショッピングセンターなどがあったエリアのことで、ここはまさに小さなアメリカでした。こういった風景は横浜出身者にしか書けないし歌えないのです。

そんな人だからこそ、この歌の舞台はきっと横浜。例えば、関内~石川町とか、あのへんの街並み。そんな風景が想像されます。まるで短編映画を見ているかのように、ドラマティックにシーンが切り替わっていく歌詞からは、そんな街の匂いが染み出しているのです。

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