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030 「三味線師ロンリー・ブルー」谷口美千代(1981年)/原田ゆかり(1986年)
作詞:ちあき哲也、作曲:杉本真人、編曲:松井重忠(どちらも)
80年代といえばアイドルの時代。それと同時に、演歌がビッグビジネスになっていった時代でもあります。そんな時代に、演歌発のアイドルがいてもいいんじゃないかと考える人がいても不思議ではありません。
谷口美千代という人がどんな人なのか、詳細は全くわかりませんが、ジャケットの写真から見ても、アイドル的な路線を狙っていることは想像に難くありません。おそらく、この「三味線師ロンリー・ブルー」1曲のみで消えたのだろうと思います。しかし、曲は残りました。
まず、なんでこんな曲が生まれたのかを想像してみます。
前年に松村和子の「帰ってこいよ」が大ヒットします。松村は当時18歳。そのルックスはなかなかの美貌で、三味線を持って歌う姿が毎日のようにテレビで流れました。もともと民謡歌手として活動していただけあって、歌の実力は間違いのないものでしたが、実は三味線は弾けず、デビューに合わせて猛特訓したそうです。
と、そんな曲がヒットしたわけですから、当然のように二匹目のドジョウを狙う動きがあってもおかしくありません。キーワードはアイドル的な演歌と三味線です。タイトルに"三味線"が入っているのは、歌詞の発注の時点で決まっていたのではないでしょうか。そこにアイドルらしく横文字を入れる。歌詞には「娘道成寺」とありますから、歌舞伎役者の少女とバックの三味線弾きの恋愛の歌です。楽曲もディスコ調。作曲はシンガーソングライターの杉本真人で、この2年後に小柳ルミ子「お久しぶりね」を手がけて、作曲家としてブレイクします。
そんなわけで、アイドル風ディスコ演歌という斬新な楽曲ができ上がりました。しかし、これはヒットしませんでした。
そんな曲が注目されたのは、それから5年後の1986年でした。原田ゆかりのデビュー曲として復活したのです。
原田ゆかりはモノマネ番組でも有名な人ですが、こぶしをぐりぐりとエグいまでに回す圧倒的な歌唱力で、子供の頃からコンテスト荒らしとして有名でした。結局、16歳でデビューするのですが、やはり最初は演歌アイドル的な売り出し方で、デビューからシングル数枚はド演歌ではなく青春歌謡路線、つまり、演歌ファンにも許されるポップスでした。このデビュー曲も、テレビでそこそこ流れたようです。
この原田によるカヴァー・ヴァージョンが凄かったんです。ゴリゴリのこぶしもエグかったんですが、バックトラックが演歌にはありえないバキバキバシャバシャの打ち込みのぶっとんだアレンジだったんです。実は、両ヴァージョンともアレンジャーが同じ人ということもあってか、原曲からそれほど離れたアレンジではないんですが、こうも印象が違うものかと思わされます。
そして今、和モノDJにこのトラックがウケて、グリグリのこぶしがダンスフロアに流れるという事態が起きています。当然レコードの値段もなかなかのもの。DJによる再評価/再定義は歌謡曲の概念を変えるかもしれません。