021 菊池桃子「ガラスの草原」(1987年)
作詞:売野雅勇 作曲:林哲司 編曲:新川博
菊池桃子名義でのラストシングルです。ということは、この次はラ・ムーってことですね。ラ・ムーって、みんな昔はバカにしてたと思うんです。でも、DJ諸氏なら周知の通り、近年は音楽的な再評価が進み、アナログ盤LPが5ケタまで高騰したり、レコード・ストア・デイでアナログで再発されたり、その周辺にいない人にとっては理解不能な事態になってるわけですが。そこを発端に、桃子もまた複合的に再評価が進んでいます。
そのポイントの1つに、トライアングル・サウンドがあります。つまり、プロデューサーの藤田浩一が主宰するトライアングル・プロダクションのサウンド。初期の角松敏生はさておくとしても、杉山清貴&オメガトライブから1986オメガトライブ〜カルロストシキ&オメガトライブのサウンドへの再評価は、作曲家の林哲司への再評価と共に高まってきたところがあり、桃子やラ・ムーへの注目もそこに理由の一端があります。
では、林哲司のどこがウケているのか。それはアーバン感覚でしょう。特に80年代後期の作品はその傾向が強く、桃子作品を作るにあたって、アイドルポップスを超えたちゃんと聴ける音楽作品を作ろうとしていたと、林は言っています。
この頃の桃子のアレンジは、キラキラ大魔神の新川博とド派手なサウンドの鷺巣詩郎という2人のアレンジャーが分け合う形で担当しているのですが、このシングルではA面を新川が、B面を鷺巣が担当。
「ガラスの草原」は、打ち込みをベースに、メロウなグルーヴを忍ばせたAOR〜R&Bサウンドで、キラキラしたシンセとミディアムテンポで緩やかにうねるようなグルーヴが心地よい名曲です。特筆すべきはコーラスアレンジです。ABメロは女声、サビは男声と使い分けるという贅沢さ。普通ならシンセが弾くであろうフレーズをあえてコーラスに歌わせたり、その多様なフレーズの間を桃子の緩やかなヴォーカルが通り抜けていくという非常に高度なもの。
当時は、アイドル歌謡どころか、ポップスのアーティストでもこんな曲をシングルA面にした人はほとんどいなかったはずで、そういう意味ではものすごく冒険しているのですが、(桃子にしては)チャートのランクも奮わず、それに見合った理解もされずに終わった印象があります。クオリティと売り上げは別モノ。歌謡曲は音楽ファンだけのためのものではないってことなんですね。
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