028 内田裕也「きめてやる今夜」(1977年) /沢田研二「きめてやる今夜」(1983年)
■内田裕也「きめてやる今夜」(1977年)
作詞:沢田研二 作曲:沢田研二 編曲:ジョニー大倉
裕也さん、亡くなっちゃいましたね。世の中的にみれば困った変人でしたが、音楽の歴史の中では、この人の存在は忘れられません。
50年代のウエスタン・カーニバルの頃にロカビリー歌手としてデビュー。60年代に入ると、寺内タケシのブルージーンズにシンガーとして加入。裏方として、ファニーズ(後のザ・タイガース)のデビューのきっかけを作ったが(本当は裕也さん自身もメンバーになりたかったらしい)、所属事務所のナベプロとトラブルになり、GSの時期に海外に追いやられていたことは、後々考えれば本当に痛かったと思います。その後はフラワー・トラヴェリン・バンドを結成したり、1973年から続くニューイヤー・ロック・フェスティバル(今年で46年目!)を始めたり。はっぴいえんどの日本語ロックを巡っての日本語ロック論争なんてのもありました。
つまり、裕也さんて人は、日本にロックが入ってきたその黎明期から一貫してロックンロールのスピリットってものを説いてきた人ってことなんです。それは思想的なものではなくて、あくまでも<生きていく手段としてのロックンロール>というか、リアルなものだったんじゃないかなと思ってます。
さて、裕也さんの曲を…と思いつつ、実は裕也さん名義のレコードって、あんまりいいものがないんです。ヒットらしいヒットもなく、それでいてあの知名度なんだから、なんなんでしょうね、一体。
この「きめてやる今夜」は、因縁の相手でもある沢田研二が裕也さんに書き下ろした曲で、プロデュースは、元CAROLのジョニー大倉です。77年9月のリリースですから、ジュリーにしてみれば、「勝手にしやがれ」が大ヒットした直後。どういった経緯でジュリーが裕也さんに曲を書くことになったのかわかりませんが、裕也さんからすれば、勢いに乗るジュリーにあやかりたい気持ちと、俺のおかげでデビューできたんだろという気持ちの両方があったのではないかと想像されます。
ロマンティックなロッカバラードで、この主人公の気取った様は、まるで裕也さんのことを歌っているかのようです。男の強さと弱さの両面を巧みに演出するジュリーならではの歌詞だと思います。しかし、メロディはハッキリしないし、正直言って大した曲ではありません。逆に言えば、シンガーの力量が問われる曲とも言えます。
ぶっちゃけ、裕也さんって歌は上手くないんですよね。曲によっては、裕也さんのヴォーカルが曲をぶっ壊してしまっているようなのもあるくらいで。というのは、裕也さんのヴォーカルってポーズで成り立っているっていうか、こうやればカッコよく、ロックっぽく見えるだろうみたいなところで歌ってる感じがあって、曲や歌詞の世界を表現してる感じがあんまりしないんですね。だから、歌でフックを作ることができないし、ただダラッと歌うだけのものになってしまう。この曲でも同じことが起きています。
裕也さんとジュリー、さらにこの曲を自身のアルバムでカヴァーした松田優作(82年の「INTERIOR」に収録)の3人でこの曲を歌ったライヴ映像が残されているんですが、それを見ても、ジュリーの声による演出感や、曲を一瞬にして自分の元に引き寄せる優作に対して、裕也さんの歌はとても軽い。しかも、バンドをコントロールしようとして、失敗している(笑)。でも、なぜか気になるというか、妙なカッコよさがあるんです。それは、自分のスタンスを貫き続ける信念のようなものでしょうか。言葉で説明すると理屈っぽくなってしまって、上手く言えませんが。そして裕也さんって、実はフォローの人なんだなというのもわかります。自分が表に出るより、バックアップするのが好きな人なんだと思います。
■沢田研二「きめてやる今夜」(1983年)
作詞:沢田研二 作曲:井上大輔 編曲:吉田建
さて、この裕也さんヴァージョンに対して、ジュリーの盤はセルフカヴァーかと思いきや、オリジナルの歌詞はそのままに、曲は井上大輔が書き直しています。やっぱりジュリー自身も、曲の出来に対して不満があったんでしょうか。
曲調は前年のシングル「おまえにチェックイン」と似た8ビートのニューウェイヴ風ロックンロールで、アレンジも同曲をアレンジした伊藤銀次からの影響が強く出ています。というのも、吉田健は「おまえにチェックイン」を演奏した、当時のジュリーのバックバンド、エキゾティクスのベーシストなんですね。
仕上がりは決して悪くないんですが、なんか突き抜けてこないというか、この時期までの、次から次へと新しいアイデアを繰り出してくるジュリーに迷いが見え始めたのがまさにこの曲からという印象があります。
裕也さん追悼の気持ちで書いたはずなのに、ディスっちゃいました(笑)