謎のクレーマーに絡まれました!
タイトルは・・・釣りですw
ええと、大好評、「幕府密命弁財船・疾渡丸」第2巻、「鹿島灘 風の吹くまま」について、とある読者の方から、こういうダイレクトメッセージをいただいたのですよ。
第2巻の前半(第3話)のラストシーンで、疾渡丸が下田湊に到達します。湊の脇に、大浦という小さな入江があり、その奥に船改をする大浦番所がありました。第3話のクライマックスはこの大浦が舞台になります。そして、次の第4話も大浦から始まり、疾渡丸は密命を受けすぐに船出してしまうため、たしかにこの読者のご指摘のとおり、遂に下田湊には入らずじまいになってしまうのです・・
しかし、それにしても感じの悪い絡み方。いったいどこの誰だ?と差出人の名を確かめてみると・・・
シーランド公国 ロッホ・ネス公爵
となっております。
シーランド公国・・・ひょっとして、あの。
自称「世界最小国家」、ロイ・ベーツ公独裁のもとイギリス沖に鎮座ましましている、幅9メートル、長さ23メートル、要はテニスコート一面ぶんの国土を保持し、全世界に対し声高にその存在を主張し続けるあのシーランド公国!そしてその公爵!
こりゃまた、どえらい人からクレーム入った・・・とガクガクブルブルの私。次は天文学的な額の国家賠償訴訟か、あるいは暗殺部隊の襲来か。てかロッホ・ネス公爵、ふつうに日本語わかるんか、とその卓抜した国家的語学力に恐れをなし。絶望した私は、もうこのまま、疾渡丸から飛び降りて海に沈んでしまおうかと思ったのですが、そのとき。
思い出したのです。
私、知人にシーランドの爵位を持ってる人が他にも何人かいた、とw
そう、シーランドの爵位は、ふつうに金で買えるのです。
ちなみに、公爵の値段を調べてみました・・・こんなの出てきました。
なめとんのか。
ともかく、このロッホ・ネス公爵、おそらく日本人に違いありません。そしてたぶん下田に縁のある人物ですw いったい誰なんだ!?
そして長く苦しい、危険に満ちた探索行ののち、私はやっと、謎のロッホ・ネス公爵の正体を探り当てたのです。
この男です!
日本名を、渡邉浩一郎 と称します!
(実名さらしたったw
この男、なんと、日本歴史時代作家協会会員という、わてら底辺の歴史作家にとっては仰ぎ見るべき立派な肩書きまでも持っております。
先日、発表された「第13回日本歴史時代作家協会賞」の作品賞に輝いた赤神諒先生に、協会を代表してエヘンとばかりに上から花束贈呈しているのもご本人。ちなみに赤神先生は、小説家である一方、弁護士でもあり、上智大学大学院の法学研究科の教授でもあらせられます。そんな雲上人に、さらに上から賞を授与・・・ううむ、さすが公爵。とっても偉そうだ。
要は、シーランド公国の歴とした貴族であり、なおかつ歴史作家協会会員という択ばれた偉い人から、自作について上から目線で厳しいクレームが入ってしまったということなのです。国家賠償や暗殺まではないとしても、もしかすると俺、リアルに廃業の危機じゃね!? ああ・・・ここ数年間、必死に生き残りをはかってきたが、このモンスタークレーマーにして情け容赦ない公爵の一撃によって、遂に引導を渡されてしまったか。まだまだ、書きたいことはあったのに。まだまだ、頑張りたかったのに・・・
さまざまな思いが脳裏を走馬灯のように駆け巡ります。
楽しかったよ。皆さん、さようなら。僕はここで逝くよ・・・。
・・・・・。
ええと。
てか、私、実はこのロッホ・ネス(渡邉)さんとは知り合いなんですねw
年に数回、開催される伊東潤先生の読書会の常連メンバーの一人で、読書会のみならず、一緒に古城に登ったり、飲み会でもたびたび一緒になったり。
なに、ふつーの日本人の楽しいおっさんですw
この方、公募の小説賞で評価されるほどの歴史小説書きでもありますが、なんといっても、テレビ等で何度も紹介されているあのガチ宝探し集団、日本トレジャーハンティングクラブの会員です!
真面目に古城を探索するふりをして、実はこっそりダウジングしながら地下の水脈や鉱脈、埋蔵金塊の所在を探り、古文書を解読するふりをしながら、実はそこに隠し場所を記した暗号を読み取る、「なんか目的の違う人」なのです。
いや、実はもう見つけているのですが、仲間にそれを悟らせないため、撹乱策としていろいろ探索するふりをしている、という噂がもっぱらです(なんとケツの穴が小さい)。
でないと、あの、シーランド公国の爵位など買えるわけがありません!
(本日現在、公爵は¥ 76,999 もします!私には払えませんっっ!)
で、地元の下田愛が強い豆州男子(シーランドじゃねえのか)のこの人、Twitterスペースで私が下田に取材に行ったと語ったところ、連絡を寄越してきて地元の詳細な情報をあれこれ教えてくれ、作品に大いに期待している、とコメントしてくれたのですね。ありがとうございます(今さらw)
で、実際に第2巻が刊行されてみると、疾渡丸は下田湊の主要部分には入らず、その手前の大浦にちょこっと来ただけ、それも夜更けにはコソコソ出ていく・・・大いに期待を裏切られた、その怒りで前掲のクレームとなった次第なのです。
だって、江戸から緊急指令来たんだからしょうがないじゃん!
いっぽうで、クレームメッセの後半では、こうも言ってくれています。
第3話ラストで疾渡丸に悠々と乗り込んで来る今村伝四郎正長という人は、実在の下田奉行です。奉行になる前は地元の商人かなにかで、湾奥に高波が打ち寄せてきても大丈夫なように、私財を投げ打って大きな堤を築造(なんと、こんにちでもおおむね現存しています)し、下田を天下一等の安全な湊にした偉人として知られています。この人を作中に登場させたことについては評価いただけているのですが。
・・・しかしあれだけ期待させておいて、ノーブルな朕に肩透かしをくわせた罪は重い、シーランド刑法に照らして簀巻きでドボン、が妥当なところだ。血も涙もないロッホ・ネス公爵は、こう言いつのります。下級ど貧民水呑作家の私はひたすら地べたに両手両膝をつき、うなだれてすすり泣くばかり。ここで公爵、ふと表情を緩め(私には見えませんが)、上位者ならではの、下々に対する慈愛に満ちた一言を下されます。
「しかし、いつか疾渡丸が下田のみならず、わがシーランドにも来るようなことがあれば、この罪、多少は減ぜられようぞ。それまでなんとか続刊し、せいぜい励むことだな」
・・・上位者ならではの、めんどくせぇ激励の一言でした。
私は平伏し、喜悦にむせびながら嗚咽し、あまりの有難味に身をよじりながら公爵万歳を叫ぶのです・・・しかし、やがて思い出すのです。
そういえばロッホ・ネス公爵、先日のお城エキスポに行かれ、(自分の本命は吉岡里帆だと明言しているのに)あちこちでこういう記念撮影してデレデレしてやがった・・・水呑百姓の俺は行けもしなかったのに・・・うう!
そして、悲愴な決断を下すのでした。
「なんとしても・・・なんとしても疾渡丸を続刊してやる。そしていつか公爵の望むとおりシーランド沖にこの幕府密命弁財船を回航し、夜陰に乗じて仁平ら特務工作隊を上陸(?)させ、一気に制圧してやる。それこそが最終回だ!疾渡丸の大団円だ!」
滅ぶべし、クレーマー公爵!
・・・さいご、テキトーですいませんw
(おわり)