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もう、やってらんねえよ !!

私が第6回アルファポリス歴史・時代小説大賞の特別賞をいただき、その受賞作を改稿した「敵は家康」でプロデビューさせていただいてから、はや2年半。

短いようで・・・しかしとっても、とっても長い2年半でした。

そのかん私は、(日々の活計を得ることのほかに)2作目を出すことに全力を傾けて参りました。が、なかなかうまく実を結ばず、悶々とした焦慮の日々が続き・・・私がそうやって停滞しているあいだにも、ほぼ同期のネット出身の書き手たちが、続々と大活躍を始めます。

同時デビューの筑前助広さんは、第11回日本歴史時代作家協会賞の文庫書き下ろし新人賞に選ばれ、その後、デビュー作の続編、またKADOKAWA、早川書房といった錚々たる版元から続々と作品を発表。

本来は時代小説書きでありながら、芸域の広さを見せライトノベル「異世界の湯」でひとあし先にデビューした綿涙粉緒さんは、なんと、同作がコミカライズ、そしてテレビアニメとして全国放映されるという破格の大出世。

さらに我々の2年先輩、いなせな女剣士・馳月基矢さんは、デビュー2作の発売日が続けてコロナによる緊急事態宣言発令とかち合うというウルトラアルティメットな悲運に見舞われながらもそれを乗り越え、気がつけば今や数年で20作以上の長編を出版という、ほぼ「月刊馳月」状態。

もう、みんなおいらを置いてはるか遠くに行ってしまっているのです。

天よ、なぜ我に艱難辛苦ばかりを与える? どうかチャンスを分け与えよ! などと、謎の上から目線で祈り続けていたところ、どうにか目を止めていただき、打順が回ってきました。

そしてやっと、本年8月20日に第2作「幕府密命弁財船 疾渡丸」の第1巻が出ることに。

こんなしょーもない私めにチャンスをくださった中央公論新社さん、どうもありがとうございます。そしてこれまで声援を送ってくださった皆さん、いろいろとお手助けいただいた(上記3名を含む)先達や業界の皆さん、本当にありがとうございます!

と、ここから自分の新作について話を持っていくのが常道なのですが、それはまた次回ということで。


今日は、ちょっと違った話をしたいのです(長い前置きw)。

もう、やってらんねえよ! 


っていう話です(唐突


前記のとおり業界の底辺で必死に生き残りをはかり(まだわからないけど)とりあえずは首の皮一枚でなんとか露命がつながっている状態なのですが・・・読んでしまったんですよ。


・・・読んでしまったんですよ!


独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖」  を!


(アルファポリス刊)


笹目いく子 さん著。私や筑前さんより2年遅く、アルファポリス第8回歴史・時代小説大賞の大賞と特別賞を制覇(2作品)してしまった才女の手になる作品です。

私のnoteによくコメントも下さる方なので、皆さんおなじみかもしれません。

実はちょっと前にアルファポリスさんから同書をご恵贈賜っていたのですが、私が自作の出版準備やらなんやらで追われており、今ごろになって読んだというわけなのです (すいません


それで。

いや、それでね・・・読んでみた感想は、

「もう、やってらんねえや」


ってことなんですよ・・・


本所・松坂町に暮らし、三味線の師匠として活計を立てている岡安久弥。しかしひとたび刀を握れば、鬼神のごとき戦いぶりを見せる一刀流の使い手だ。大名家の庶子として生まれ、市井に身をひそめ孤独に生きてきた久弥だが、ある転機が訪れる。文政の大火の最中、幼子を拾ったのだ。名を持たず、居場所をなくした迷い子との出会いは、久弥の暮らしをすっかり変えていく。思いがけず穏やかで幸せな日々を過ごす久弥だったが、生家に政変が生じ、後嗣争いの渦へと巻き込まれていき――
(amazonの作品紹介より)

と、まあ、ストーリーだけを聞くと、剣豪+三味線の取り合わせが少し珍しいくらいで、特にびっくりするような内容ではない、カバーアートが物語るような、リリカルで落ち着いた時代劇作品であるように思えるのですが。


読み始めると、いきなりカオスです・・・


まず冒頭のシーン。まるでのちの東京大空襲のあとのような、大火で燃え落ちた江戸の街の凄惨な描写から始まります。

灰が降りつもる無音の世界。静かな焼け跡を歩む一人の男。彼は、たったいまこの焦土と化した江戸で、敵味方100名以上によるくんずほぐれつの大乱刃(え?)に参加、最低でも6名+1名(両腕を斬り落としたのでおそらくは出血多量で絶命)、いや、絶対それ以上の人数を斃してきたばかり。まさに血煙を浴びて歩む彼の目は、やがて組合橋の欄干にたたずむ子供を見つけ・・・彼は呆然とし、感情がない。そして身体じゅう傷だらけである。何かわけがありそうだ・・・よし、助けて連れて帰ろう!

おいおいおい・・・


なんだよこの状況。大火、斬り合い、そして子供を拾う・・・最初の数ページで、もうこれだけの相互に関連なさげなバラバラの情報を一気に叩き込んできます。このとんでもないストーリー展開、ふつう、すんなりと受け入れられる状況じゃないと思うのですが、作者の異様な筆力に引っ張られ、つい納得して読み進めてしまいます。

ストーリーはその後やや落ち着きを見せ、三味線師匠として身を立てる主人公と子供との交情、それを見守り、助ける周囲の人たちとのほのぼのした人情ものに・・・と思ったら。

いきなり子供を連れ去るDVおじさん登場


またもカオスですw しかしこの問題も皆んなの協力でなんとか解決、ストーリーはこのあと、主人公と、彼に想いを寄せる美しい弟子との恋愛に移行していくのかと思いきや・・・。

今度は血で血を洗う壮絶なお家騒動勃発 !


すげえ迫力の斬り合い、殺し合い、血で血を洗うまさにトゥーマッチブラッドな屍血山河・・・そしてそれもやっと終息し、主人公が跡目を継いで、子供と愛弟子を迎えてめでたし、めでたしと思いきや、そうはならぬ・・・

ラストはちょっと複雑な大人の政治劇で決着


たかだか文庫350ページほどのあいだで、これだけの内容をてんこ盛りにした超豪華お得版。ストーリーの変幻自在、うねりがすごく、一寸先も予想のできない展開が続きます。しかしきめ細やかな人物造形のおかげか、著者の異様な筆力のなせる技か、一切無理を感じず、読んでいて飽きません。

彩度の高い江戸の街並みの描写も、胸に響くせつない恋愛描写も、殺意に満ちた凄絶な剣戟も・・・作品内に貼り込まれるすべてのテクスチャがぴたりとハマり、内容はこれだけバラバラなのに、壮大な統一感ある素晴らしい笹目ワールドを形成しています。

なんなんすか、この筆力。

もう、モンスター級です・・・


コツコツと2年頑張ってやっと次作を出し、なんとか自分の居場所を確保するべくおじさん細々と頑張ってるというのに、もう早くも後ろからこんなモンスター級の文豪さんが追いかけて来ているのですよ。

やってられんですわ・・・



というわけで、

独り剣客 山辺久弥 おやこ見習い帖」 

ぜったい読んだほうがいいすよ。私はこの作品をこれから常に座右に置き、時代劇執筆の教科書にするつもりです(笹目師匠と呼びます)。

ちなみに、前記アルファポリスでの受賞作がもう一作あり、この刊行準備も着々と進んでいるとか。

笹目いく子(師匠)


一気に化けそうな気がしてます。期待しております!



P.S.
わたし、けっこう材木オタクなのですが、作中で語られる内外の名木にツボりましたw 紫檀や黒檀(エボニー)、紅木(ローズウッド)、カリンなど、三味線の棹もギターのネックなどと同じで、高級品は良い木を使うのですね。勉強になりました。




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