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サバンナの 象のうんこよ
サバンナの 象のうんこよ 聞いてくれ だるいせつない こわいさみしい
母は新聞に載っていたこの短歌を思わず手帳に書き写すくらいこの歌を知った時の衝撃は強かったそうだ。
つい先日、この短歌がテレビで取り上げらたときそう語ってくれた。
短歌を知らない人に軽く説明すると、短歌は五・七・五・七・七からなる歌体である。
俳句は季語を含めた五・七・五、
川柳は季語を含めない五・七・五と言った具合である。
この短歌の初見の印象はうんこだとかだるいだとかポップな言葉を使って注目を集めようとしているように感じてしまった。
しかし、母の解説を聞くと、この歌の魅力に気付かされた。
だるいせつない こわいさみしい
四句と結句の部分である。
ネガティブな感情で埋め尽くされた14字である。
読者の方々も経験があるだろうが、感情はすぐに口に出せるものばかりではない。
人によっては一生吐き出すことのできないくらいの感情が存在する。
この14字の感情はまさしくそのような容易に吐き出すことのできない感情だ。
周りの人は黙々と頑張っているのに自分だけ弱音を吐くことはできないと心に溜めて置いた感情や、自分の中の深い深い闇などの心の奥底にあるネガティブな感情というのは軽々と口に出せるものではない。
しかし、ずっとしまっておくと毒のように体内を蝕んでいく。
今すぐ吐き出したいけど吐き出せないという気持ちだ。
こんなネガティブな自分を近しい友達や家族に見せることはできない
かと言って先生や見知らぬ人に言うことすら憚られるような強い感情。
誰にも言えないけど言いたくて吐き出したくてたまらない
この感情のぶつける相手として最も適任だったのが象のうんこである。
サバンナの 象のうんこよ 聞いてくれ
作者は誰にも言えないネガティブな感情を自分の最も遠い存在であるサバンナの象のうんこにぶつけたのである。
海を越えたサバンナにいる象の老廃物である。同じ言語を話す人間でもなければ動物でもない、うんこである。
感情をぶつけてもうんともすんとも言わない遠くのうんこでないと吐き出すことはできない、けれども象のうんこでいいから聞いてくれ!
そんな強くて暗い感情なのだ。
穂村のこの歌を母から教わった時、私はこの短歌に呑み込まれた。
サバンナの 象のうんこよ 聞いてくれ だるいせつない こわい さみしい
一生忘れることのない歌であろう。