Tシャツ騒動
「うわ!!なんかめっちゃいい色!!買っちゃお!!!」
週末の夜七時、私はショッピングモールの片隅で、はしゃいだ声をあげた。エレベーター近くに陳列されているTシャツコーナーに、ド派手な水色のアイテムを発見したのである!!
企業コラボTシャツ各種…水色、オレンジ、ピンクに黄色、グレーに白黒、赤に緑に…原色がたくさんあって、見ているだけでわくわくするぞ!!一枚1000円、これは…買いだ!!!
「いいねえ。」
フードコートに向かおうと急いでいたはずなのに、突如足をとめた私を見て…息子がニコニコとしている。腹が減っているはずなのに、親のはしゃぐ姿を見て共に足を止めて喜んでくれる、実にいい人だ!さすが私の子だな!!
「君も一枚買うかね?好きなやつを選びたまえ!」
「いいの?ありがとう。」
息子共々、Tシャツに群がって品定めなどなど。派手な色に奇抜なデザイン、コラボ商品だからパッと見てウケるようなインパクト大のものがたくさんあるぞ…どれにしようかな。ウケ狙いならこれだけど、色で選ぶなら断然こっちだ、うーん……。
私は青色が好きだ。
コバルトブルー、ウルトラマリン、スカイブルー、セルリアンブルー、シアン…、白か水色かわかんないようなぼんやりした色ではなく、はっきりくっきりと青々した色が好きだ。よく晴れた日の空の色が時に好きで、目に鮮やかな青色の服を見かけたらほぼほぼ購入するレベルだったりする。
だがしかし、きょうびあまり水色は流行らないのか、やけに落ち着いた黒だの灰色だの…やけに大人しい色合いのTシャツばかりお店に並んでいることがほとんどでしてね。
見かけた時に買っておかないと、いつまでたっても古いTシャツを着まわさねばならなくなってしまうのですよ。
いやあ、ちょうど今着てるシャツが色あせてきたなあって思ってたんだよね!いやあ、これはタイミングよかったわ!
サイズを確認し、これから生活を共にする事を決めたTシャツ君をそっと胸に抱え込み…ええとレジはどこにあるのかな?
「僕はこれにしよう。」
「はいはい、一枚でいいの?1000円だしもう一枚くらい買ってもいいよ!」
「まだ家にあるからいい。」
息子は赤いTシャツを買うらしい。この人もたいがい派手な色のTシャツばかり買うんだよね。今着ているのは黄色だし、家に帰れば水色も青色も緑色もオレンジ色も蛍光色も持っていたりする。私はわりと手あたり次第に買うタイプなのだけど、親に似ずしっかりしていて不要な物は買わない主義の模様…。なんだ、偉い人だな…。
ちなみに娘はグレーが好きで、ボーダーもしくは切り替えデザインのものを好み、わりと見境なく買うが長く着るタイプだ。未だに中学生時代の服を着ていたりする。
旦那は色を選ぶよりもまずサイズがあるかどうかを確認しなければならない。5Lサイズは色の好みなんて口に出す余裕はないのだ。そして見つけた端から買い占めに走る。次はいつ着られるサイズのものに出会えるかわからないという不安が予備の購入を煽るのだ。
「よーし、早速明日着ちゃお!あれ、あっちには良さそうなかばんのセールやってるぞ……」
「ごはんは?」
危うく散財しそうになったところを息子に止められ、ラーメンをすすって帰宅したわけですけれども。
……翌日、大喜びで新しいTシャツを着て、一日ご機嫌で過ごしたらですよ。
「…ちょ!!なにこれ!!!」
一日着て、洗濯をして…乾燥機から出したら!!!
まさかの…ド派手な色が、くすんだ水色に…なっとるがな!!!
「色落ちた……」
息子の買った赤いTシャツも…どこそこ表面に白っぽさが感じられる、ビンテージ感バリバリの色合いになっているじゃありませんか……。
ああ、派手な色というものは、地味な色に比べて栄光の時がずいぶん短いものらしい。
娘などもう二年もずっと…グレーのTシャツをグレーのまま着こなしているというのに。
旦那など一年もずっと…黒のTシャツを腹の部分をのびのびにしつつも黒いまま着こなしているというのに。
私も息子も、たった一日で、輝かんばかりの原色を失ってしまい……!!!
それにしてもさあ、たった一度の洗濯で、ここまで色って落ち込む?!
くそう、一枚千円だったから、安かろう悪かろうだったのかも…。
でもなあ、穴があいたわけじゃないし、わりと布はしっかりしてて…着られないと言うわけでは、ない。
おしゃれ着洗いでも買ってみようか…、しかしこのガサツな自分に、わざわざたった一枚のTシャツを洗うために洗濯機を動かす繊細さがあるとは…思えん!!!
「仕方がない、色が落ち切るまで着るしか、ない……。」
「白くなるの?」
白くなるんだろうか……。
そういわれてみれば、色はあせども、白くなるまで着古したためしがない。
「なるかもしれない…それを確かめるために、大切に着ていきましょう、いいですね!」
「はい。」
水色が白くなる日まで…着続けることができるかどうかはわからないけれども。
着られなくなる日まで、お気に入りの色を楽しみつつ…日常を……。
「あ!!新しい服かったの?!いいな!!あたしも買いたい!」
「お父さんも欲しい!今着てるの小さくなっちゃってさあ!!」
「じゃあ…買いに行くか……。」
「ズボン欲しい」
「ねーねー、マリトッツォ大集合だって!!」
「うわー美味そう!全部かお!!!」
「生クリームお願いします。」
「せっかくショッピングモール来たからさあ!串揚げ食べほいこ!!」
「いいねえ、久しぶり!!よーし100本は食うぞ!」
「僕揚げたい。」
「ちょっと!!近所にバーガー王子できるって!!食べに行こ!!」
「あたし肉サンドスペシャル食べたい!!!」
「オニオンリング食べる。」
……食べる事に追われておりましたらですね。
なんかちょっと、Tシャツの、締め付け、が……。
心なしか、Tシャツが、縮んできた、気が……。
Tシャツが…縮小?
ちがう!!!
私が……膨張し始めている!!!!
私は慌てて、ウォーキングの距離を伸ばしたという、お話……。
なお、日常的にTシャツを愛用しておりますと、身体の膨張に気が付きにくいという問題点がですね。
たまにはキッチリしたスーツを着こなさねば…。
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