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ご自由にお飲みください!

はいはいはいはい!!

寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

おいしい飲み物はいかがですか!

こちら、新発売の栄養満点気分爽快ドリンクでございます!
こちら、ただいま試飲会を行っております!
こちら、無料でお試しいただけます!
こちら、ご自由にお飲みください!

さあさあさあさあ!

どなた様もご遠慮なさらずお立ち寄り下さい!

さあさあさあさあ!

どなた様もご遠慮なさらずお持ち下さい!

はい、どうぞ!

…おいしいでしょう?
ええ、未だかつて人類が感じたことのない、魅力的なテイストでしょう?
そうでしょうとも、そうでしょうとも!
あ、空き缶はこちらで処分しておきますよ、こちらのゴミ箱へどうぞ!

はい、どうぞ!

…お一人様一本、差し上げますよ!
お持ち帰りいただいても構いませんよ!
ええ、人数分お渡しできますよ。
八人ですか?
重たくなりますけど、よろしいですか?
すみません、袋の用意が無いんです。
…じゃあ、四人分だけ、お渡しでいいんですね。

はい、どうぞ!

…新規参入メーカーでしてね。
商品を知ってもらうことが目的なんですよ。
きちんとした企業ですよ、安心して下さいね。
企業パンフレットは持ち合わせが無いんです。
でもほら、缶に企業名と連絡先、書いてあるでしょう?
…いえいえ、聞いた事無いメーカーだと、気になりますもんね。
一本でよろしいですか?

はいどうぞ!

はいどうぞ!

・・・。


はい、終了しましたよ!

皆様、ありがとうございました。
無事300缶、すべてなくなりましたよ。

販売時期は未定ですけど、見かけた際には、ぜひお願いしますね!

・・・。


いやはやいやはや、今回もずいぶんたくさんの人にお持ちいただけてなによりです。

…本当に無料ってのは、人々を魅了しますね。
…本当に無料ってのは、人々の欲を掻き立てますね。
…本当に人ってのは、無用心ですね。

テーブルを片付け、のぼりをたたみ、スーパー店長さんにご挨拶をしてと。

紙切れ一枚とサンプルひとつの提出、わずかばかりの紙幣と交換に…このようなすばらしいイベントを開催させて下さった事、感謝しているんですよ。

にっこり笑う私に、店長さんも微笑を返してくれました。

…認識の甘さに、緩む頬を隠しきれないんですよね。
…契約のぬるさに、ほくそ笑むことしかできないんですよね。

さて、と。

片づけを終えた私は、荷物を持って自社へと戻って、来ましたよ。

ドリンクの缶に記載してある住所の…ちいさな、マンションの一角。
ここに、ドリンク製造工場など、ないのですね、はい。

…ここに、あるのは。

マンションのドアを開け、荷物を入れてと。
靴を脱いで、短い廊下を進み、突き当りのドアを開けてと。

六畳の和室にある、押入れのふすまを開けると、そこには。

私の、愛用のトランクが置かれているのです。


「さあて、そろそろ…いいかな?」

私がトランクを開けると、どこからとも無く、ひょんろひょんろと…うすっぺらい魂が集まってきました。
みな、するりするりとトランクの中に吸い込まれて来ますね、よしよし…。

…ああ、申し遅れました。

私、魂収集を生業としているものです。

収集といいましても、がっつりまるっとそのまんまの魂を集めているわけではございません。
あんなプリップリのガキンガキンの存在を収集するなんてとんでもない!

生きるものの魂は、ずいぶんパワーがありましてね。

弱りきってる魂だったらいざ知らず、一般人の魂なんてのは、私みたいな力の足りない悪魔には到底手が出せる代物じゃあないんですよ。

フルパワーの魂なんてのは、薄皮一枚剥いだところで、あっちゅー間に元に戻るんですよ。

人間って、転んで怪我してもいつの間にか似たような皮膚が再生するでしょ、ああいう感じでね。

…力の足りない私は、そこに着目したのです!

人はずいぶん何も考えていない。
人はずいぶん欲がある。
人はずいぶん元に戻る。

…活きのイイ魂から、薄皮を効率よく収集するには。

ドリンクの中に「魂」脱皮成分と「魂」吸着成分を混ぜ込んで、配布したら良いのです!

何も知らない人が、吸着成分を体内に取り込みますね。
何も知らない人から、魂の薄皮が剥がれますね。
何も知らない人の魂の薄皮が…私の元に集まって来るのです!

私の考案した吸着成分は、相当有能でしてね!

きっちり魂の薄皮が剥がれるんです。
しっかり魂の薄皮が集まって来るんです。

人は見てくれの情報を鵜呑みにしますからね。
人は見てくれの情報を疑いませんからね。

人の世界に紛れ込む、人で無い私には、ある程度の見てくれを用意することが容易なのですよ、ははは!

人は、案外…自分の知らない何かを知ろうとしませんので。
ある程度整っていれば、おおよそスムーズにことは運ぶのですよ。

……私の作ったドリンク缶は、二、三日で消滅しますが。

『あれ、缶が無くなった、どこいったんだろ、まあいっかタダだったし。』
『あれ、缶のサンプルが無いぞ、どこ行った!始末書書かないと!』
『あれ、缶がない、何で勝手に飲んだの、私のなのに!』
『そのうち販売されるんでしょ、そのときまで待てば。』
『前ここで試飲配ってなかったっけ?』
『配ってたかな?よくわかんない、なんてやつ?』
『さあ?』

…案外何とでもなるもんなんです。

画像が世間に出たところでね、なんてことないんです。

『試飲でもらった、これ怪しくね?』
『はいはい、捏造乙』
『つか、住所snsにあげるとかありえなす』
『通報案件キター』
『おまわりさんこっちです』
『あああ、BAN喰らった!』

…世間はずいぶん、私達に優しい展開を繰り広げてくれましてですね、ええ。

色々と話してるうちに、ずいぶんトランクの中が賑やかしくなって来ました。

たまに色の濃いのがいますね、ああ、これは吸着成分過多…1人で何本も飲んじゃったんですね。

一本で魂の薄皮を剥ぐ程度の吸着剤ですから、二本飲んだら普通の皮が剥がれて、三本飲んだら厚い皮が剥がれるんですよね。

お一人様一本というていでお配りしましたから、うそをついて独り占めしたんでしょうね。
まあ、多少無気力になっちゃうかもですけど、ずいぶん面の皮が厚い方みたいですし、何とかなるんじゃないですかね。

ああ、トランクがいっぱいになりました。

これで予定収穫分達成ですね、缶は消しておきましょう。

あとは加工工場に行って、薄皮を伸ばして乾燥させて、袋につめて出荷する作業が待っているんですよ。
魂の薄皮チップスはね、地獄界で空前のブームとなっておりましてね!

はっはっはっはっ!!

これでしばらく、私も安泰ですよ、これだけあればしばらく裕福な生活ができそうです。
一仕事終わったら、感情温泉に浸かりにいこうかな、それとも悪意食べ放題ツアーにいこうかな?

テンション上がってきました!

ひゃっほう!!

…ドリンク一本でここまで簡単に自分の魂渡してくれちゃうんですよ?

人ってホントすばらしいですね!
人ってホント愉快ですね!
人ってホント鈍いですね!
人ってホント太っ腹ですね!
人ってホント愚かですね!

私には信じられない部分もありますよ、正直。

自分の知らない存在からもらった、得体の知れないものを、何一つ疑いもせず口にするなんて。
自分の知らないところで作られた、得体の知れないものを、たった一つしかない生命の器に取り込むなんて。
自分の知らない何かが、自分の知らないうちに、自分の中に入って、何をするのか分からないというのに。

疑うことを知らない、ピュアな固体が増えるといいなあと思いますよ。
疑う事しかしない悪魔の繁栄にはね、魂という糧がね、魂にまつわる感情がね、必要不可欠なんですよね。

疑ったところで何もしない、無気力な魂が増えたという意見も聞きますけどね。
疑うことすらできない、貧弱な魂が増えたという意見も聞きますけどね。

まだまだ、魂はたくさんあふれているから、多分大丈夫なんですよ!

トランクを閉め、自社工場に向かう私の足は…。
ずいぶん軽やかにステップを踏ませていただいておりますよ!

私、お化けではありませんので!
ちゃんと足が存在しているのです!

…ま、今から消えますけどね。

次回は、あなたの薄皮…いただくことになるかもしれませんね。

では、この辺で失礼いたしますね。

…ごきげん、よう。


怪しい飲み物を飲むくらいなら、スポーツドリンクが飲みたい。

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たかさば
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