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どうしてこうなった。

……なんだかのどが渇いたな、なんか飲むか。

私は自動販売機の前で足を止めた。

空気の冷たいこの季節、あったかいものが飲みたいな。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピピ!

・・・?

押しても、ホット紅茶は出てこない。

売り切れの表示も、準備中の表示もないのに出てこないとはどういうことだ。

・・・故障かな。まあいいや、ないなら仕方がない、隣のほうじ茶にするか。

ピ!

ダガタンッ!!!

あったかいほうじ茶が出てきたので、それを飲み飲み、家に帰った。


次の日。

のどは乾いていなかったけれど、私は自動販売機の前で足を止めた。

昨日買えなかったやつ、飲みながら帰ろうかな。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピピ!

・・・?

またしても、押しても、ホット紅茶は出てこない。

売り切れの表示も、準備中の表示もないのに出てこないとはどういうことだ。

・・・故障かな。まあいいや、ないなら仕方がない、隣の隣の緑茶にするか。

ピ!

ダガタンッ!!!

あったかい緑茶が出てきたので、それを飲み飲み、家に帰った。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めた。

ふざけた自動販売機はちゃんと機能するようになったのかな。

まさか三日も壊れたままなんてことはあるまいが、確認してみようかな。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピ!

ダガタンッ!!!

あ、出てきた。

・・・?

取り出し口にあるのは、なぜか、冷たい、緑茶。

私が押したボタンは、ホットの紅茶だ。

ホット商品が出てくるならわかるが、なぜ冷たい物が出てくるんだ。

しかも、よく見ると自動販売機のラインナップにない商品だ。

・・・どういうことだ。

苦情の1つでも入れてやろうと自動販売機の前面に記載してある連絡先を確認すると、朝の九時から夕方五時まで通話可能と書いてある。

今は朝の七時、あと二時間も待たねばならぬというのか。

・・・めんどくさいな。

私はクソ寒い中、冷たい緑茶を飲み飲み、家に帰った。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めた。

昨日はひどい目に遭った、今日こそちゃんとしたホット紅茶が飲みたい。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピ!

ダガタンッ!!!

あ、出てきた。

・・・?

取り出し口にあるのは、なぜか、冷たい、甘酒。

私が押したボタンは、ホットの紅茶だ。

ホット商品が出てくるならわかるが、なぜ毎回冷たい物が出てくるんだ。

しかも、今回も自動販売機のラインナップにない商品だ。

・・・どういうことだ。

今日こそは苦情の1つでも入れてやろうと、自動販売機の前面に記載してある連絡先を写真に撮った。

・・・めんどくさいな。

私はクソ寒い中、冷たい甘酒を飲み飲み、家に帰った。

朝九時、電話をかけるがつながらない。

朝十時、電話をかけるがつながらない。

・・・どういう事だ。

・・・めんどくさいな。

・・・まあ、いっか。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めた。

ずいぶんひどい目に遭っているが、今日こそちゃんとしたホット紅茶が飲みたい。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピ!

ダガタンッ!!!

あ、出てきた。

・・・?

取り出し口にあるのは、なぜか、冷たい、みそ汁?!

私が押したボタンは、ホットの紅茶だ。

ホット商品が出てくるならわかるが、なぜ飽きもせずに冷たい物が出てくるんだ。

しかも、冷たかったらおいしくない代物だ。

・・・どういうことだ。

今日こそは苦情の1つでも入れてやろうと、私はウェストバッグの中からばんそうこうを取り出した。

電話がつながらないのであれば、直接文句を言うしかあるまい。

ホット紅茶のところに、ばんそうこうを貼り、ボールペンで苦言を記入する。

―――違う商品が出てきます

・・・これでいいだろう。

私はクソ寒い中、冷たいみそ汁を手で持って、家に帰った。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めた。

ひどい目にしか遭っていないんだ、今日こそちゃんとしたホット紅茶が飲みたい。

私が昨日貼ったばんそうこうはなくなっている。

……補充の人がはがしたのかな。

じゃあ、今日こそちゃんとホット紅茶が飲めるに違いない。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピ!

ダガタンッ!!!

あ、出てきた。

・・・?

取り出し口にあるのは、なぜか、冷たい、ケース??

私が押したボタンは、ホットの紅茶だ。

ホット商品が出てくるならわかるが、なぜ冷たい物が出てくるんだと、何回言わせれば気が済むんだ。

しかも、飲み物ですらなくなったぞ。

・・・どういうことだ。

ケースをパカリとあけると、中から手紙と130円が出てきた。

―――いつもお買い上げありがとうございます。ご希望と違う商品が出てきて驚かれたと思います。お客様はもしや緑茶、杜仲茶、トウモロコシのひげ茶、ハブ茶、黒豆茶、冷やし飴、みかん水、甘酒、おしるこ、コーンスープ、おでん汁、みそ汁、カレースープ、すっぽん汁いずれかをお買い上げいただきました方でしょうか、いつもありがとうございます。わたくしはこの自動販売機を運営している…。

・・・めんどくさいな。

A4用紙裏表にびっしりと書いてある細かい文字を読む気になれなかった私は、手紙をケースに戻してゴミ箱に入れ、130円を小銭入れに入れ、クソ寒い中、何も飲まずに家に帰った。


次の日は、雨が降ったのでウォーキングに行かなかった。

次の日も、雨が降ったのでウォーキングに行かなかった。

次の日は、雪が降ったのでウォーキングに行かなかった。

次の日は、雪が凍っていたのでウォーキングに行かなかった。

年末年始になって、忙しくなったので、ウォーキングに行く暇がなくなった。


ずいぶん日にちがあいて、久しぶりにウォーキングに行った。

私は自動販売機の前で足を止めた。

さすがに年が変わったんだから、ホット紅茶は飲めるようになってる筈だろう。

私はずらりと並ぶ飲み物の中からホット紅茶を飲むと決め、130円を投入し、ボタンを押した。

ピピ!

・・・?

押しても、ホット紅茶は出てこない。

なんだ、よく見ると品切れのランプが点灯している。

結局いつまでたっても、私はホット紅茶を飲めないんだな。

・・・仕方がない。

私は、三つ隣の、はちみつレモンのボタンを押した。

ピ!

ダガタンッ!!!

あったかいホット紅茶が出てきた。

長い事待たされた念願のホット紅茶は、それなりにおいしかった。

やっと飲むことができた充足感につつまれながら、ホット紅茶を飲み飲み、家に帰った。

・・・満足できたし、もう、自動販売機で買わなくてもいいかな。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めずに、家に帰った。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めなかったが、学生さんが足を止めているのを見た。


次の日。

私は自動販売機の前で足を止めることなく、家に帰ろうとして、若い男性とすれ違った。


次の日。

私は自動販売機の前に人がたくさん並んでいるのを見かけて、足を止めた。

知らぬうちに、自動販売機はやけに派手な装いになっており、思わず目を瞠る。

「これ動画に出てた自販機なんだって!」
「押し売り自販機でしょ?」
「違うもんしか出てこないとかマジウケるwww」

並ぶ若者たちのテンションがやけに高い。…動画を撮ってる子もいる。

自動販売機には、細かい文字でびっちり書かれた説明が貼ってある。

―――ノーと言えない日本人、違うものが出てきても、ただそれを受け入れてしまう優しさ、そこに私は可能性を見つけ…。

・・・めんどくさいな。

「あ、買います?」

自動販売機の前に立つ私に、青年が後ろから声をかけた。

「いえ、買いません。」

もう飲みたいもんは飲めたからね、買わなくてもいいんだ。

私はウェストポーチから小銭入れを出す事すらせず、自動販売機の前から立ち去った。


次の日。

私は自動販売機の前を通ろうとして、人があふれているのを見かけた。

・・・通り難そうな道になったな。

・・・めんどくさいな。

私はウォーキングコースを変えることにした。


次の日も、その次の日も。

私は自動販売機の前を通ることはなかった。


次の日も、その次の日も。

私は自動販売機の前を通ることはなかったけれど。


次の日も、その次の日も。

私は自販機の前を通って、おかしな飲み物を買わされた日々を忘れられずに。


次の日も、その次の日も。

ずっとずっと、そのまた先の日まで。


私は、自動販売機の前で。

楽しそうに盛り上がる人たちを。


恨めしそうに、見つめ続けて、いく、つもり。

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たかさば
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