日光浴
11月…この時期のお日様の暖かさが、心地良い。
まだ冷え切っていない初冬の空気が、晴れ渡る青空からふり注ぐ強い日差しを受けて…ほんのりと暖かさを含み、太陽の恵みを心地よく受け取ることができる時期、とでもいえばいいのだろうか。
12月に入ってしまうと、こうはいかない。あまりの空気の冷たさに太陽の恵みが霞んでしまうのだ。燦燦と降り注ぐ日差しすら、貧弱な熱にしか感じなくなるレベルで冷え込むことは珍しくない。
今はまさに、日影の寒さと日向の暖かさ…そのコントラストを楽しめる絶好のシーズンだ。
人工的なぬるい温度が充満している建物の外に出た時、日影で冷えた風に吹かれて冬を感じ…日向に身を乗り出し太陽の恩恵にあずかる、その一連の流れがたまらない。
眩しすぎる日差しを真正面から受け止め、太陽の熱でポカポカと体が温まっていく感じが…実にのどかで癒される。
見晴らしのいい小さな公園のベンチに腰かけて、青い空を望み…、頭のてっぺんに、肩に、背に…太陽の光を浴びるとじんわり暖まって、なんとなく肩こりや首コリなんかも軽減するような気がする。胸にたまったどんよりした重苦しい感情も、ポカポカ陽気でほんのり燻されて昇華していくように思う。
「今日はぬくたいで、ええなあ…」
「風もないから気持ちいいねえ」
このところ晴れが続いているので、時間を見つけては積極的に父親を連れ出して散歩に行くようにしている。
せまっ苦しいマンションの一室に閉じこもって口うるさい母親の相手をしているくらいなら、外に出て身も心ものんびりのびのびとさせたいと思うのは至極当たり前の事だろう。近場に気軽に気分転換が図れるような、空を望める公園があったことに、心からありがたみを感じる。
せっかくのぬくぬくとした陽気だ。真冬が到来する前に、この身体にポカポカ成分をきっちり溜め込んで、厳しい寒さに備えたい。
……冬は、寒さが身に染みるのだ。
冷たい温度、冷たい風。
冷たい視線、冷たい言葉、冷たい態度。
……母親の冷え切った感情が、父親を凍えさせてしまわぬように。
暖かい日差しを浴びて、温かい空気を吸ってもらって。
あたたかい言葉をかけて、ホッとできる時間をできる限り与えて。
……母親の冷たい態度が、私の心を凍てつかせてしまわぬように。
あたたかい感情を胸に溜め込み、冷え切った眼差しに立ち向かえるよう。
優しい言葉を口にできるよう、胸に温かい気持ちを忘れぬよう。
「ずいぶん暑くなってきたで、帰ろうかな」
「そう?じゃあ…おやつにお汁粉ドリンクでも買って帰ろうか、ちょうど3時だし。エントランスの自販機にあるやつ」
父親の、にっこりとした笑顔を見たくて…ついつい、甘やかしたくなってしまうのだなあ。
「いいのかい?」
日光浴でホコホコに仕上がった父親の背中にそっと手を添えると、11月とは思えない熱を感じた。
…今日はたっぷりと太陽の恵みを吸収できたみたいだ。
きっと今夜は…よく眠れることだろう。
「さ、日影に入るからね。太陽の恵みがないと冷えるから…、上着を着て家に帰ろう」
私は父親にそっと上着を羽織らせて、震える指先を手に取った。
「ありがとう」
「いえいえ」
ふふ、ほっこり一つ、追加ってね。
父親と私は、親子二人でほくほくしながら……、冷え込むマンションの部屋に向かったのだった。
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