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スイカ

 旦那がスイカをもらってきた。

 なんでも、納涼祭りの景品の余りをもらったのだそうだ。
 夜中の二時に我が家にやってきたスイカは、早朝六時まで玄関に放置されていた。
 なんという気の毒な…すぐさま冷やして差し上げねばなるまい。

 大好物のスイカを抱きかかえ、私のテンションはぐんぐん上がっていく。

 ドッジボールより一回り小さい、一人で食べ切るには大きすぎるサイズ。
 今日の昼ご飯のデザート、おやつに、晩御飯のデザート、明日の朝まで残ってたらいいな。
 最後の最後まで、しっかり美味しく食べて差し上げよう…。

 決意を胸に愛おしいスイカを優しくなでると…ずいぶんざらついている。
 うちに来るまでの間、過酷な環境に置かれ続けていたのだろう。

 ……これは丁重にもてなさねばなるまい。

 薄汚れている表面を水道水で洗い流して、そのまま冷蔵庫に入れる。
 表面についた水分がいい感じに冷却効果を高めてくれるに違いない。
 お昼になる頃には、たぶんキンキンに冷えているはず。

 ああ…楽しみ、楽しみ、たのしみでならない。

 半分に割ってスプーンですくって食べる?
 細かく切ってガブリと行く?
 皮をむいて一口大にカットする?

 豪快に行くならスプーン…だがあれは汁が出やすい。
 細かく切ってかぶりつき…だがあれも切る回数が多くて果汁が無駄に流れてしまう。
 一口大にカットは食べやすいけど…鮮度の落ちるスピードが速い。

 ああでもないこうでもないと策を練り、ついでにスイカを使ったレシピなんかもチェックしていたら…あっという間に昼ごはんの時間になった。
 サクッと冷凍パンでピザトーストを作り、モグモグ食べて、いざ…キッチンへ。

 いよいよスイカを…切る時がやってきた。

 まな板と包丁、器を準備し、冷蔵庫からスイカを取り出す。
 …おお、しっかり冷えている!

 ……よし、やるか。

 まずは凍えるスイカをまな板の上にのせ、少々干からびたツルを切り落とし。
 緑色のスイカの皮全体に、包丁の先をチクチクと軽く刺していく。
 このひと手間が、美味しいスイカを美しく切るコツなのだ。

 スイカというのは、果肉がパンパンに詰まっているので、包丁を入れた瞬間に割れてしまう事がある。
 割れてワイルドな感じのスイカもいいが、シャープなスイカに対面したい気持ちが…強い。

 スイカは美しい切り口もまた食欲をそそるのだ。

 丁寧に、しかし手早く…スイカの表面に包丁を入れていく。
 乱暴に傷をつけては、そこからひびが入る事もある。

 …よし、これくらいでいいだろう。

 さあ、いよいよ…入刀の、時!!!
 美味しいおいしいスイカとの、ごたいめ――――――――ん!!!

 ……ザクッ!!!!!!!

 ブシュビワブボチュアアアアアアアア!!!!!!!!!!

「ひゃわ?!は、はへっ?!ちょ…な、なにこr…クサっ!!うわ!!!汁、シルシルシル!!!」

 スイカに包丁を入れたその瞬間!!!!!!
 真っ二つになったど真ん中から、真っ赤な汁があふれ出し!!!

 辺り一面、血の池!!!

 ちょ…キッチンマットまでびったびたやんけ!!!
 お気に入りの白いワンピースなのに…やらかした殺人犯みたいになっとるがな!!!
 キッチンの調理台の上が大参事、足元も、服も、シンクの方にまで垂れてー!!!

 ポッタポッタと滴る、スイカの…汁。
 べったべったと張り付く、スイカの…残骸。
 ねっちょねっちょと絡みつく、スイカの…悪臭。

 何これ?!

 まさか腐ってた?!
 貰ってきて早々、こんなに腐りきる?!

 ちょっと待て、そういえば景品が何とか言っていたような気がする、もしや炎天下の中ずっと置きっ放しになっていて…いや、夏の果物なんだし、それくらいで腐る?!

 ……どう考えても、いろんな家をたらいまわしにされて…うちにたどり着くまでに息絶えていたとしか思えない。

 また、まただよ、いつもこんなんでさ!!!
 旦那がもらってくるもんは、ホントろくでもないっていうかさ!!!

 ああ…せっかくのお楽しみが!
 ああ…せっかくのスイカ満喫デーが!!
 ああ…せっかくの休みの日が!!!

 結局、夕方までキッチンの掃除をすることになり。

 このところ掃除の滞っていたキッチンが、ピカピカになったという…お話……。

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