そそる食べ物は偉大である

　スーパーに出かけた、私の目に映ったのは…一つの、パン。

　やわらかそうな淡い焼き目のパンにはさまれた、艷やかなクリーム。
　純白が……目に、沁み込む。

　思わず、手が伸び…柔らかなボディを、捕らえた。

『たっぷりホイップロール』

　ちょっと硬めの、白いクリームのチープさがたまらない
　微妙に湿気を含んだパンの安っぽさがたまらない。

　……そっと、かごの中に、招き入れた。
　……優しく、買い物袋の最上部に横たえた。

　家に着くなり…鷲掴んで、荒々しく齧り付いた。

　ああ…しみじみ、ウマい。

　まろやかなコクと、度を越した甘味。
　微妙にゴワつくパン生地と、クリームにしては脂っぽいバッタモノ感。

　ああ…食っちまった。

　一瞬で…胃袋の中に溶け込んだ。

　コンビニに出かけた、私の目に映ったのは…一本の、ドリンク。

　ピュアな輝きを放つ、清潔感と爽やかさを感じさせるスタイル。
　薄汚れた世の中が透けて見える……穢れなき、クリアな液体。

　思わず、手が伸び…冷え切ったボディを、捕らえた。

『ストロベリーティー』

　ちょっと風変わりなデザインが私を惹きつける。
　紅茶といちごの融合など、大成功間違いなしではないか！

　……その、白くて細い首根っこをつまみ上げた。
　……心地よいタプタプ音が、指先から伝わる。

　コンビニを出るなり…頭をねじって、茶色い汁を呷った。

　ああ…しみじみ、うまい。

　スッキリとしたのど越しと、猛暑を吹き飛ばす氷点下の恵み。
　紅茶にしては渋みのない軽薄な印象、わざとらしい苺の風味がたまらない。

　ああ…飲んじまった。

　一瞬で…胃袋の中に溶け込んだ。

　ドラッグストアに出かけた、私の目に映ったのは…一個の、缶詰。

　俺はここにいるんだぜと己を誇る、昔ながらの独特なフォルム。
　圧倒的存在感を放つ、重量感たっぷりの……エネルギーの、塊。

　思わず、手が伸び…武骨なボディを、捕らえた。

『コンビーフ』

　半世紀以上もおなじみの姿を変えたのは、もう…二年も前になるのか。
　あの、鍵付きの缶詰が世の中から消えた時の、私の落胆と言ったら。

　……その、いくぶん軽くなってしまった軟弱ものを、捕らえた。
　……やや当たりの柔らかな、缶ではない手触りが、悲しい。

　ドラッグストアを出て早々に帰宅し、食卓で…皮をはいで、肉を喰らった。

　ああ…しみじみ、うまい。

　肉の繊維と脂の絡み合う、膨大なカロリーの乱痴気騒ぎ。
　肉にしては雑味が多すぎる、なのに美味いこいつは一体なんなんだと思う気持ちが溢れ出す。

　ああ…食っちまった。

　あっと言う間に…胃袋の中に溶け込んだ。

　梅雨が明け、凄まじい猛暑が続いている中、私は今日も、買い物に行く。

　……あまりの気温の高さに、食欲など、消え失せそうなものだが。
　……どうした事か、どれほど汗を流しても、一向に体は縮小していかない。

　食欲ないなあ、今日は何を食べようか、食べなくてもいいか…そんな気持ちを吹き飛ばすものは、どこにでもいるのだ。

　……のぼせた体をクーラーで冷やしながら店内を巡れば…いくらでも食べたいものが見つかる。

　ジャイアントコーン、枝豆のつまみ揚げ、玉子豆腐、イカ黄金、鮭ほぐし、温泉卵、明宝ハム、燻製卵、チーズ入りナゲット、赤いソーセージ、イシイのおべんとクン、魚肉ソーセージ、冷凍ラザニア、冷凍エビグラタン、冷凍オムライス、マイクロマジック、アンパンマンポテト、冷凍今川焼、冷凍ホットケーキ、パフェデザートチョコミント、センタンあいすくりん、ガツンとミカン、雪見大福、とうきびモナカ、水まんじゅう、若鮎、なごやん、すあま、ういろう、博多通りもん、カステラ、満月ポン、塩せんべい、カレーせん、ハッカ飴、カンロ飴、ヴェルタースオリジナル、ポテロング、セブンネオン、ヤンヤンつけ棒、クレミーホイップ、シャ―ビック、焼きプリン、アロエヨーグルト、ブドウゼリー、カニパン、あとフードコートに行けばソフトクリームにラーメン、たこ焼きたい焼きみたらしにええと……。

　私は、今年も夏バテすることなく日本の猛暑を乗り越えられそうだと……確信した。