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俺、生まれ変わったら【ぬいぐるみ】になってた…

……俺は、ぬいぐるみ。

名前はまろたん、薄茶色の毛羽立つ熊である。


昔、俺は人間だった。

名前は忘れたが、モテない男だった。


何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。

「生まれ変わったら、ぬいぐるみになりたい」


そう願ったのには、理由(わけ)がある。

俺には好きな人がいて、そいつがぬいぐるみマニアだったのだ。

顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…恋心だけは忘れていなかった。
恋をして幸せだった事と、恋に破れて願った事だけが、いつまでも心に残っていた。


願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。

だが、しかし。


―――うわぁ~!カワイイ~!!

俺を抱き上げたのは、おっさんだった。

全然かわいくない、モテそうにない男だった。


俺は願った。

「一刻も早く、生まれ変わりたい」


そう願ってしまうのは、当然である。

ぬいぐるみマニアのおっさんは、毎日俺を抱きしめて眠るのだ。

加齢臭のキツイ、毎朝抜け毛が絡みつく、顔面の脂をこれでもかと擦り付ける中高年のオヤジ…地獄でしかない。

恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。


……願いが叶ってしまって、もう…何年、たっただろう?


―――うわ!!くっせえ!!きったねっ!!

俺をつまみ上げたのは、若い兄ちゃんだった。
いわゆる今風の、モテそうな男だった。


俺は願った。

「おっさんの所に、連れて行ってくれ」


そう願ったのには、理由があった。

おっさんに、謝りに行きたかったのだ。


モテる事がないまま年齢を重ね、独身を貫き、趣味もなく、親もなく、友人もなく、楽しみの少ない毎日を送っていた、あの日。

俺がぬいぐるみでしかないせいで助けを呼べず…治療が遅れてしまった事が、いつまでも心をえぐり続けている。

……許してもらえるとは思わないが、せめてすぐ横で、一緒にいてやりたい。


―――洗って持って行きましょう、その方が衛生的だし

あいつ、喜んでくれるかな。
匂いが消えても、俺だと気づいてくれればいいな。
また、俺を抱きしめることができるようになればいいけどな。


俺の願いも…むなしく。

コインランドリーの全自動洗濯機の中で…ばらばらになっていく。
俺の体が、ただの糸くずと綿とパーツと布の切れ端になっていく。


ああ、次に・・・生まれ変わったならば。


おれは・・・


・・・

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よろしければぜひご覧くださいませ('ω')

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たかさば
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